第17話 それぞれの身体検査と部屋の探索
ネズミはひとつ息を吐いて言った。
「いいわ。そうしましょ。でも、身体検査のとき体は見せるけど、顔は着ぐるみをつけたままっていうのなら。やるわ」
みんなはそれぞれの顔を見合わせた。それから一様にみんながうなずくと、その代表で僕は言った。
「そうですね。顔は出さなくてもいいです。体だけで」
こうして僕たちはとりあえず部屋を後回しにして、身体検査の方から進めた。
男は男同士で、女は女同士に分かれて行うようにした。
男は僕、イヌ、トリ、トラの4人。女はウサギ、ライオン、リス、ネズミの4人。
身体検査のやり方は、まず、ひとりが脱衣所に入り、着ぐるみを脱いで頭だけを被った状態で脱衣所から出てくる。
出てきたら、ほかの3人で、その人が着ている服のポケットやらを調べる。そのあと、脱いだ着ぐるみの方も調べる。
それで一通り。あとはそれをほかの人に代わって繰り返すだけ。
そうやって、全部が終って全員がフロアに集まった。
「そっちどうだった? こっちは誰も何も持ってなかったが」
トラが身を乗り出すように女性たちに聞いた。
女性たちは一様に首を振ってから、ライオンが答えた。
「こちらも、ありませんでしたわ」
それぞれからため息がもれる。
「それじゃあ、今度はそれぞれの部屋の方を探してみましょう。ヒツジさんの部屋はさっき見たので省いて」
僕が言うと、ネズミが訪ねた。
「どの部屋からにするの?」
「そうですね……じゃあ【1】番から順に行きましょうか」
「あたしの部屋から?」
「あ、嫌なら変えてもいいですけど。単純に考えただけでして、1、2、3っていう風に」
ネズミは黙ったまま下を向いていた。それから頭を上げて言った。
「いいわよ。さっさと調べましょ」
ネズミは自分の部屋を開けた。
僕と同じ部屋。何も変わったところはない。ネズミは自分のバッグを取り出して見せた。
「この中も調べるんでしょ?」
「ええ、お願いします」
僕が言うと、ネズミは少しためらってから返してきた。
「この中を調べるのは女性の方にしてほしいんだけど」
僕は周りで探し物をしている女性たちを見た。
「ああ、いいですよ。女性たちで確認しあってください。男性たちがバッグを持っていたら、僕たちの方で確認しますから」
ネズミは頷くと、女性の方へ向かった。そのあと、女性たちはフロアの方へ出てバッグを調べている。
テーブルの下や椅子の下。棚の下など。いろいろと床に這いつくばるように見ているけど、何も見つからない。
「何か見つかったか?」
トラが棚の引き出しを開けながら僕に聞いてきた。
「いや、何もありませんね」
「そうか、この中も空だ」
そう言って、トラは引き出しを閉めた。
一通り探してみたけど何も見つからなかった。バッグの中を確認した女性たちも、鈴らしき物は無かったと僕たちに言った。
そうして、【1】の部屋からみんなが出てフロアに集まった。
「それじゃあ、次は【2】番の部屋を調べましょうか」
僕が言うと、イヌが大きく頷いた。
「いいよ、おいらの部屋だね」
イヌはそう言って、自分の部屋のドアを開けた。
さっきと同様に家具や調度品などの位置は多少違っているが、基本的には同じだった。
みんなはさっきと同じように調べていく。
「イヌくん、バッグとかは持ってきてないの?」
ウサギがイヌに聞いた。イヌは首を横に振って答えた。
「ないよ。持ってきたのはこのボールだけだもん」
イヌは両手で抱えているボールを前に出して見せてきた。
こうして、イヌの部屋を一通り探してみても、ネズミの部屋と同様に何も見つからなかった。
僕たちはフロアに集まり、次の部屋を見ていた。次の部屋は【3】番だった。
「次の部屋は……?」
トラがそのドアを見ながら言った。
「クマさんのお部屋ですわ」
ライオンがそれに答える。それから僕はライオンにお願いをした。
「じゃあライオンさん、クマさんの部屋を開けてくれますか」
ライオンは頷くとそのドアを開けた。
そうして、僕たちはクマの部屋を調べた。いつもと同様に何も見つからなかった。
次は【4】番。リスの部屋だ。
「わ、私の部屋、ですね」
リスの問いに、みんなが一様に頷くとリスはドアを開けた。
同じ部屋で同じ家具。何も変わらない風景がある。
「あ、あの、私もバッグを持っているので……お願いします」
リスが言うと、女性たちは部屋から出てフロアでバックを調べた。
そうして、何も鈴らしき物は見つからずに次の部屋へと進んだ。
「あー、次はわたしか」
ウサギは頭を抱えながら自分の部屋の前に向かった。
ウサギは自分のドアを開けながら「どうぞー」と言って、みんなを部屋に入れさせた。
部屋は相変わらず同じようだが、さっき僕とウサギが話していたときに飲んでいた、ティーカップがテーブルに置かれていた。
「あー紅茶、片すの忘れてた」
ウサギは恥ずかしそうに体をくねらせた。
そうして、さっきと同じようにウサギのバッグを女性たちが見たり、部屋を隅々まで見たりとしているけど、何も手ごたえの無い感じに進んでいた。
ウサギの部屋が終り、次はトラの部屋を見ることになった。
「次は俺か」
そう言いながら、何のためらいもなくトラは自分の部屋のドアを開けた。
「わりーな、少しきたねーが勘弁してくれ」
部屋には、厨房の冷蔵庫から取ってきた食べ物がテーブルに散乱していた。
一応、僕たちが探しているあいだはその部屋の使用者はなるべく動かないようにする約束だった。
そうして、トラの部屋からも何も見つからなかった。
次の部屋は【7】番。順番的にはヒツジだが、さっき調べたばかりなので、必然的に僕の部屋【8】番になる。
僕は自分の部屋を開けた。
「どうぞ」
僕がそう言うと、ぞろぞろと部屋に入って行く。僕はみんなが探しているのを見ていた。
しばらくして、探し終わりみんながフロアに集まった。
「残るは、ライオンとトリとシカの部屋か」
トラがぶっきらぼうに言った。そのあとを僕が続けて言う。
「それじゃあ、たしかドアには番号が無かったんですよね」
ライオンは僕の方へ頷いて答えた。
「ええ、番号はありませんの」
「じゃあ、どなたの部屋からがいいですか?」
僕はライオンとトリを交互に見て聞いた。
ライオンとトリはお互いに顔を見合わせてからトリが言った。
「では、わたくしめの部屋からでお願いします」
そうして、トリは階段を下りて行った。それに続きながらみんなも下りて行く。
トリの部屋の前に来た。トリは少しためらったあと自分の部屋のドアを開けた。
部屋の中は綺麗すぎるほどだった。ベッドの掛布団には皺ひとつないし椅子すらも動かしていないように感じる。
僕たちはお目当ての物を探し始めた。
ときどき、トリの口から小さなため息がもれた。それは部屋を荒らされるのを嫌がるように。
「ありませんね」
僕が言うとトラが続いた。
「そうだな」
やれやれと言わんばかりにトラは首を横に振った。
廊下に出て次はライオンの部屋ということで進めていった。ライオンはドアを開けて僕たちを部屋に招き入れる。
少し暗がりの部屋に、淡いオレンジ色の照明スタンドが部屋の隅に置かれている。テーブルの上には僕たちの招待状が束になって置かれていた。そのほかに違いはなかった。
僕は何となくライオンに聞いた。
「あの、ライオンさん」
「はい」
「そのー、今更ですが、誰かの不正があった場合はその招待状にどういった反応があるんですか?」
「反応ですか」
「ええ」
「そうですわね。招待状が光り音が鳴ります。わたくしはそれを見て判断いたしますの」
「へぇ、光って音が鳴るんですか」
「そうですの」
どういういった機能でそうなるのかは分からないが、僕がこの洋館に来る前、ルビーから渡された招待状は何の変哲もないただの紙のように感じたけど、本当はその中に複雑な機能が備わっているのだろう。
そう信じざるおえない。なぜなら僕が今使用しているスノーダストが疑いようのないものだから。この招待状にそういった機能もあるのだろうと無理やり思った。
こうして、ぼくたちは流れ作業のように部屋を調べていった、が、結局何も見つからなかった。
安堵なのか疲れてなのか、それぞれがため息をもらしながら部屋を出ていった。
「それじゃあ、最後のシカさんの部屋を調べて見ましょう」
僕に促されて、ライオンは部屋のドアを開けた。
中に入ると、テーブルの上にメモ帳のような物が載せてあった。
僕はそれを取り上げてペラペラとべージをめくってみた。そこには予定表のようなものが書かれている。
『8:30 洋館に到着。9:00 料理する。10:00 パーティー……』
「なにが書いてあるんだ?」
トラがメモ帳を肩越しからのぞき込んできた。
「予定表みたいですね」
「なんだ予定表か」
そう言ってトラは作業に戻った。
メモ帳には予定表以外は何も書いていなかった。仕方なく僕はテーブルにそれを置いて鈴を探した。
数十分後。僕たちは廊下に出ていた。
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