黄金色のムーンサッカー

仲津麻子

第1話おつかい

 以前、伯母おばさんの家に行ったのは、たしか二年前だった。その時は母さんにつれられて来たんだ。

今度はひとりきり。たのまれた届け物を持っている。


 これは何だろう? 白い布の手さげ袋に入っている。ちょっと重い。


 朝、家近くのバス停から、森野もりの村行きのバスに乗った。伯母さんの家は、寝子原ねこはらというところにある。


はじめて一人でバスに乗るから、少し緊張したけれど、母さんが送ってくれたから、バスをまちがえる心配はなかった。


 でも、どこをどう通って来たのかよくわからない。

『次は寝子原ねこはらです』というアナウンスがあったので、あわててバスをおりてみたら、あたりはもう夕暮ゆうぐれだった。


伯母おばさんの家って、こんなに遠かったか、前に来た時のことをよく覚えていない。


『バスをおりたら、横に細い道があるから、それをずっとまっすぐ歩いて行けばいよ。つきあたりを右。あとは道なりに歩いて行けば、お家の玄関が見えてくるから。

私もあなたぐらいの年に、ちゃんとおつかいできたの。美祢子みねこちゃんお願いね』


 母さんはそう言ったけれど、着くのが夕方になるなんて聞いていなかった。はやく行かないと、夜になってしまう。


 バス亭の後には、ベンチが置いてあって、簡単な雨よけのついた待合室が建っていた。あたりが薄暗くなっているので、小屋の中が暗くて不気味だ。

暗闇の中から何か出てきそうで恐い。急いでその前を通り過ぎようと、足を早めた。


 でも、恐いもの見たさってあるのね。いやだと思いつつ、チラっと見ないではいられない。だいじょうぶ、何もいない。


光った!

やっぱり、何かいる。目をつぶって駆け抜けようとした。


「ふにゃーあ」

間の抜けた声がして、暗い小屋の中から、のっそりと何かあらわれた。


 猫だ。

光ったのは、猫の瞳だったらしい。


「なんだ、猫か」

私は胸をなでおろした。


「なんだとは、失礼だな」

変な声がした。のどを鳴らすような、聞きにくい声。


 あたりを見まわしたけれど、誰もいない。

あたりまえ、バスをおりたのは私一人だもの。なのに、なぜ?


「こら、オレさまを無視する気か」

しゃべった。


「おまえ、失礼なやつだな。せっかく話しかけてやってるというのに」

「わたし?」

「そうだよ。他に誰がいるね」


 猫は太った背中をしならせて伸びをした。

「普通は、見ず知らずのヤツに、声なんかかけないんだがね。今日は特別な日だから」

「特別な日って」


「そうさ、特別な日」

「猫がしゃべるなんて、特別にちがいないけれど、猫が言葉を話せるようになる日なのかな」

「失礼な、オレはいつでもしゃべれる」


 猫は灰色の毛を逆立てた。

「怒りっぽいのね、猫さん」

猫が毛を逆立てるのは、怒ったときだ。

「フンッ」

猫は鼻息荒く、そっぽを向いた。

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