黄金色のムーンサッカー
仲津麻子
第1話おつかい
以前、
今度はひとりきり。たのまれた届け物を持っている。
これは何だろう? 白い布の手さげ袋に入っている。ちょっと重い。
朝、家近くのバス停から、
はじめて一人でバスに乗るから、少し緊張したけれど、母さんが送ってくれたから、バスをまちがえる心配はなかった。
でも、どこをどう通って来たのかよくわからない。
『次は
『バスをおりたら、横に細い道があるから、それをずっとまっすぐ歩いて行けばいよ。つきあたりを右。あとは道なりに歩いて行けば、お家の玄関が見えてくるから。
私もあなたぐらいの年に、ちゃんとおつかいできたの。
母さんはそう言ったけれど、着くのが夕方になるなんて聞いていなかった。はやく行かないと、夜になってしまう。
バス亭の後には、ベンチが置いてあって、簡単な雨よけのついた待合室が建っていた。あたりが薄暗くなっているので、小屋の中が暗くて不気味だ。
暗闇の中から何か出てきそうで恐い。急いでその前を通り過ぎようと、足を早めた。
でも、恐いもの見たさってあるのね。いやだと思いつつ、チラっと見ないではいられない。だいじょうぶ、何もいない。
光った!
やっぱり、何かいる。目をつぶって駆け抜けようとした。
「ふにゃーあ」
間の抜けた声がして、暗い小屋の中から、のっそりと何かあらわれた。
猫だ。
光ったのは、猫の瞳だったらしい。
「なんだ、猫か」
私は胸をなでおろした。
「なんだとは、失礼だな」
変な声がした。のどを鳴らすような、聞きにくい声。
あたりを見まわしたけれど、誰もいない。
あたりまえ、バスをおりたのは私一人だもの。なのに、なぜ?
「こら、オレさまを無視する気か」
しゃべった。
「おまえ、失礼なやつだな。せっかく話しかけてやってるというのに」
「わたし?」
「そうだよ。他に誰がいるね」
猫は太った背中をしならせて伸びをした。
「普通は、見ず知らずのヤツに、声なんかかけないんだがね。今日は特別な日だから」
「特別な日って」
「そうさ、特別な日」
「猫がしゃべるなんて、特別にちがいないけれど、猫が言葉を話せるようになる日なのかな」
「失礼な、オレはいつでもしゃべれる」
猫は灰色の毛を逆立てた。
「怒りっぽいのね、猫さん」
猫が毛を逆立てるのは、怒ったときだ。
「フンッ」
猫は鼻息荒く、そっぽを向いた。
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