#2-1(人間のターン) 想定外

 僕は突如現れた騎士の話に困惑していた。

「ノベル、そんな設定この話にあったか?」

 頬に指を当てたままノベルが目を閉じる。

 これはノベルの「思考中」を表すモーションだ。

「んー、ないね」

「ドラゴンが出てくるのは本来かなり先のはずなんだが……そもそも主人公は勇者じゃなくて魔法使いだし。なんか様子が変だな」

「サイガ、どうするの?」

「原因は気になるけど、ここまで壊れてるなら全消去して入れ直したほうが早そうだ」

「はーい。それじゃオールクリアするよ」

 ノベルが右手を高く掲げた。

 その指先が白く光を帯びたその時だった。

 耳をつんざくような警報が鳴り響く。

「なっ!?」

 続けて無機質な音声が流れた。

『当領域で不正な処理を検知しました。その為、当領域は安全性が確認されるまで隔離・監視されます。当領域で著しいデータの増減・改変を検知した場合は強制的にアーカイヴ処理を行います』

「なに!? サイガ、これなに!?」

 ノベルが狼狽えながら僕の陰に隠れる。

「これは……もしかしてウイルススレイヤーか?」

「ウイルススレイヤー?」

「ああ、ちょっと前に問題になったんだけど、ウイルス対策アプリの『ウイルススレイヤー』が、僕達の作品をVRで動かすアプリ『マイノベル』で一定の条件が揃うと有害と見なして隔離処理を行う事象が発生したんだ。だけど『マイノベル』をアップデートすれば回避出来るはずなのに……田中さん、たぶんしていなかったな」

「えー!? 私達どうなっちゃうの」

「そうだな……あまり荒っぽい手は使えなくなった。そして……たぶん当分ここから出られない」

「ウソ!?」

 ノベルがパニックを示すモーションで右往左往する。

「最悪、僕達自身をシャットダウンすれば戻れるが、それは出来ない」

「な、何でよ」

「それをしたら再度この領域へのアクセスは出来なくなるから、修正作業に失敗したことになる。それは物語製造代行業としてのプライドが許さない」

「えっ? じゃあどうするのよー」

「今、手持ちの装備ツールで修正をやり遂げるんだ」

「な、なんか大変な事になっちゃったね」

(どうなるのかは分からないが、まずは物語を進めよう)

 僕は騎士に向かって声をかける。

「えーと、(たしかモブの)騎士さん、とりあえず村へ向かおう」

「おお、勇者様。お助け頂けるのですね!」

「いや、勇者じゃないけどね」


 森の間の道を抜けると小さな村が見えてきた。

 村の中では、住民達が不安そうに空を見つめていた。


 #2-1ここまで

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