おみやげ

「はいおみやげ」


「おおー、それじゃそれ! ほんとに見つけてくるとはなあ! ありがとうなライトよお!」


 わかりやすく嬉しそうなガンドムの様子に、ようやく買ってきた酒に価値が生まれたと感じる。結局昨日は院長がゆっくり目に飲んでいたくらいで全然消費されなかったのである。

 

「やっぱりガンドムの飲む酒は度が強かったな」


「ん、飲んだのか? 飲み慣れてないときついぞこれは」


 慣れの問題なのかとも思うが……まあ鍛えれば身体的な異常全般に強くなるからな。飲むよりもむしろ魔物を倒す方が酒に強くなるって事だが。


「ま、冒険者は度の強い酒を好む奴が多いからな。いや懐かしい、やつらの姿を見続けている内にわしもやってみたくなったんよなあ」


 しっかりと酒の瓶を抱えながら、またも懐かしむように目を細める。かつて慣れ親しんだ味はそれ自体を楽しむものであると同時に、故郷を懐かしむためのきっかけでもあるのだろう。


「あー、なんですかそれ!」


 と、そんな郷愁もおかまいなしな声が横から飛んでくる。

 げっ、この声は……まずい……。


「ガンドムさん、ライトさんに何かもらいましたよね? なんですかそれ!」


「なんじゃマリア? これはわしの故郷の酒じゃが……ライトが市場で見つけてくれたみやげだぞい」


 ざかざかとこちらに近付いてきて咎めるような調子で言うマリアに、ガンドムは目をぱちくりさせながら答えた。そしてマリアはそれを聞いて更に唇をへの字に結んだのである。


「私へのおみやげは~!?」


 こんなのはおかしいと言わんばかりにこちらを向いて尋ねるマリア。それに対して僕はただ顔を逸らすしかできない。


「ライトさん、私には何かないんですか!? なんでガンドムさんだけなんですか~!?」


「い、いやそれは……」


 そんな風に詰め寄られてもただバツが悪そうにする他無い。そりゃいつも一緒にいて世界地図の面倒まで見てもらった彼女に何もないというのは変だろう。特別世話になった訳でもなさそうなガンドムにみやげがあるなら、自分にあってもいいはずだと思うのは人情である。


「はっはっはライト、マリアの分の酒も買っとくべきだったのう!」


「そうですよ、もうお酒でも良いからくださいよ~! 飲まないから返しますけど!」


 むちゃくちゃな事を言い出すマリアだが、そのもう一本のお酒だって昨日とっくに開けている。……というかオッサンは酒やったんだからちょっとくらいフォローしろよ! 一方から責められ、もう一方から囃し立てられ、僕が何をしたって言うんだ!


 だが僕のそんな釈然としない気持ちはガンドムはともかくマリアには当然関係なく、ひたすら「ライトさん~」と僕の肩を揺さぶり続けてくる。愉快そうに囃し立てるガンドムと恨めしそうな顔のマリア。挟み撃ちのように攻めてくる元パーティメンバー達に僕の頭はどんどんシェイクされていった。


「あーうるさいうるさい! とにかく診療所に戻るぞ! じゃあなガンドム!」


「ええ~!」


「ライトお前、そりゃーないわい」


 僕はマリアの手を引っ張って強引に診療所へと歩き去っていった。マリアはともかく無関係なオッサンにあれこれ言われる状況にいつまでも長居はしたくない。ガンドムはしばしこちらを見ていたが、やがて手に持った酒の重みを思い出したのかにやにやしながら宿へと戻っていった。

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