9999!! 9999!!
空中に浮かんだ文章を前に長い事考え込んでしまう。
『値を変更したい場合はご自身で書き換えてください?』 そりゃ1よりは10、10よりは100の方が良いに決まっているが、それを書き込んだからといってどうなるんだ。まさか僕の能力がその通りに変化する訳でもないだろう。
「そんなの変更したいに決まってるだろ」と「書き換えたとしてなんなんだよ」の堂々巡りだ。一文の説明を前にして一向に答えが出ない。このまま盾を前に立ち止まっていては夜が明けてしまう。
僕は一旦盾をしまい、歩を進めた。気持ち速足で道を進み続けると、数分もしない内にすぐ本屋が目の前に現れる。
「いらっしぇー!」
ドアを開けると威勢の良い掛け声が店内に響き渡る。僕は本棚に並べられた本を無視して、カウンターへと直行した。
「あのー、これで本買うんでついでにペンを貸してください」
「お? ああ図書券ね。まあ良いが、ちゃんと返さないと本は売らないぞ」
礼を言ってペンを借りると、その場でイージスの盾を出す。中空に対してペンを構える僕に店主は疑問符を浮かべている。
「こんな事して何になるとも思えないけど……」
とりあえず適当に『風魔法:3』を書き換えてみよう。3の部分を塗り潰すように200を書く。これで『風魔法:200』となった。
するとその瞬間、盾の表面に浮いていた200のインク文字が沈み込むように盾に吸い込まれる。僕の書いたまだ不慣れな文字が格式高いカッチリとした美麗な文字となり、まるで元からそうであったかのように盾の表面には風魔法:200が記載されていた。今まで見た事もない不思議な現象が僕の盾の上で繰り広げられているとなると流石に驚かずにはいられない。
だが驚くのはそれだけではなかった。その風魔法:200が盾の上に現れた瞬間、僕の体に今まで感じた事の無いような不思議な感覚が生まれたのだ。歩いて考えて息を吸って剣を振ってと生きてきた僕が、何か今までよりも一つ多くの事をできそうな気がする、そんな感覚。
いや感じた事が無いというのは少し正確ではない。これと似た感覚は知っている。そうだ、あれは冒険者になるよりももっと前。炎魔法の練習をしていた時……いや、初めて炎
本能的に……というのはこういう事なのだろうか。僕はすっと腕を前に出し、その腕に感覚をより集中していく。先程覚えた感覚……
「『ウィンド』」
途端、店内に強風が吹き荒れた。
数多の本が本棚からこぼれ落ち、宙に舞いながらバタバタとページをめくられ続ける。店内に配置された雑多なものが壁のあちらこちらに衝突し、その中で僕のいる場所は
「つ、使えた……! 風魔法を……!」
これこそが本当の驚愕というものだろう。誓ってもいい、僕はこれまで風魔法を使えた事なんて一度たりともなかった。チャレンジするような事さえ早々に見切りをつけて止めていたのだから。それが今、僕はあっさりと風魔法を使えるようになってしまった。
「こらあ! お前、店の中で何してやがる!」
「あ!」
当然のように店主が激怒する。突然風魔法をぶっ放すなんて有り得ないと思うだろうか。だが僕にとっても本当に
「す、すいませんでした! 図書券あげるので許してください!」
「いや足りねえよ! 足りる訳ねえだろ!」
「後で弁償しに来ますからあ!」
開け放たれたドアを抜けて、逃げるように……というか実際逃げる気満々で店を後にする。全力ダッシュで大通りまで辿り着き、店主が追ってきてもわからないように人ごみに紛れ込む。
「はあ……はあ……! はあ……!」
素知らぬ顔をしようにも動悸が収まらない。走ってきたからじゃない。風魔法を使えたからだ。
僕は目の前にイージスの盾を開いた。そして弾みで持ってきてしまったペンを使い、新たに記入する。風魔法の項目に
「『レビテーション』……!」
書き込んだ1000の文字により増幅された未知なる感覚の示すままに、身体中から魔力を放出する。風魔法の奥義の一つ、『レビテーション』。空中を自在に飛び回る高等魔法で、その機動力は野外戦の戦略性を大きく向上させる。
ドンと身体中を貫くような衝撃が走ったかと思うと、体が物凄い勢いで上空まで浮きあがる。目線は街の一番高い屋根を遥かに超え、下を向くと歩く人々が豆粒のように見える。幾人かが突然消えた人影にキョロキョロと周りを見渡しているようだが、僕が空に浮き上がったという事までは解っていないようだ。
「わ、わははははは! 浮いてる! 浮いてるぞお!」
風の出力を複雑に調整し、空を自由に移動する。風を切って前進すれば町並みが次々と後ろへ追いやられる。建物の合間をすり抜けるように高速飛行すると、誰かにぶつかったら怪我をしそうだとぞくぞくする。だけど空には僕しかいない!
「こんな事って有り得るのか! これは盾ではなかった! 盾ではなく
超上空まで体を浮き上がらせながら、再度イージス……いや、究極のユニークスキルを発動する。これの正体は僕という存在を至高にまで押し上げる究極のスキルだった! 盾なんかじゃない! 誰だイージスの盾なんて呼び始めたやつは! そもそもイージスって誰だ!
「次は……次は何だ……」
上空で制止しながらじっと
僕は上部の項目をじっと見つめた。力:76 丈夫さ:45 速さ:61。1000に比べればささやか過ぎる数値。今までこれに甘んじてきた。だがその必要すら。
思わずペンを持つ手が震えた。力、丈夫さ、それぞれの項目に
「暴れグリフォンだあああ!! 皆逃げろおおおおおお!」
にわかに下が騒がしくなる。
ペンを持つ手に影が差し後ろを振り向くと、鳥の頭と獣の胴体を持つ巨大な飛行型モンスターが迫っていた。その体の大きさは家屋一つに匹敵するほどだ。
「もう8人の冒険者がやられたあ! ギルドの救援が来るまで耐えるんだあ!」
鋭い爪をこちらに向け、その巨体と重量のままに猛スピードでこちらへと突進してくる。鋭い眼光で射貫くようにこちらを見据えるその堂々たる姿は、ぱっと見この空の王者に見えた事だろう。
逃げられない。冗談のような巨大なモンスターがすぐそばまで迫っていた。その全ての質量が僕を破壊せんと僕の体へと触れ、そして
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