はやく新メンバーをよこせ!

 僕の住むバリオンの街の冒険者ギルドはこれまでに何度も通い多くのクエストを受注した慣れ親しんだ場所だ。そして今まで気にもとめていなかったが、新たにパーティを組みたい人間がメンバーを探すための場所でもあるのだ。


「はい、ライトさんのパーティ募集への応募は0でしたね~。一人もいませんでした」


「流石にそんな事はないでしょう流石に」


 ここ数日はパーティ募集の結果を受付に確認し、その結果に肩をがっくり落とすという生産性の無い日々を繰り返していた。あまりに成果が上がらないため、今日に至っては無駄に食い下がってしまう始末だ。


「あの貼り紙の位置とかが悪いんじゃないですか? もっと真ん中あたりに貼れば一人か二人は来ると思うんですけど」


「別に試してもいいですけど、それで来なかったらより明確ながっかり感に襲われるだけだと思いますよ」


 受付から鋭いツッコミをもらうが、そうは言っても他に何もやる事がないのだから試せる事を試すしかない。


「あいつが言いたい放題言ってくれたせいで、僕の評価が不当に下がってるんだよなあ……」


 『ライトをパーティに入れる必要がない10の理由』とばかりにジョシュアが派手にネガキャンしてくれたせいで、ギルドの冒険者たちが僕を見る目には嘲りの念が混じるようになっていた。よりによって冒険者御用達の酒場でよくもまあ。


「毎日ギルドに確認しに来るくらいなら、一人でもクエストを受けたらどうですか? 最下級のFランククエストくらいなら十分クリアできるでしょう?」


「いや、Bランクパーティから抜けた僕が最下級クエストなんて受けたらますます馬鹿にされますよ。この悪評が定着したら詰みです」


 変に悪目立ちして評価が下がるくらいなら、先日の出来事の記憶が風化するまで何もしない方がマシだ。とはいえ最近奮発して自分の家を買ってしまったばかりだから、生活費もそれなりに厳しいのだが。


「がーっはっはっは!! いやー、今回はよく働いたのう! さっさと金もらって酒場に行こうぞい!」


 と、そこにギルドの入り口の方から無駄の無駄にでかい声が響き渡り、そんな悩ましい気持ちも吹き飛ぶ。ものすごく聞き覚えのある、だけどここ数日聞かなくなった声だ。


「ああもう面倒くさい! 受付さん、ちょっと隠れさせて!」

「は? え? あ、ちょっと待っ……!」


 返事も待たずに受付のカウンターを飛び越え、身をかがめて姿を隠す。それとほぼ同時にギルドの扉がバンと開け放たれ、声の主達がぞろぞろと現れた。


 そう、僕の元いたパーティのメンバー……ジョシュア、アナスタシア、マリア、ガンドムだ。ジョシュアが一歩前に出てカウンターにドカっと腕を乗せて上半身の体重を預ける。


「森にできてたダンジョンのボス討伐、完了したぞ」

「お疲れ様です、太陽の絆の皆さん。ダンジョンの消滅を確認したのち、既定の報酬を用意させていただきますね。戦利品の換金は4番にどうぞ」


 受付さんが彼らの成果を処理する。言う事は事務的だが、常連の顔馴染みだけあって声色は親しげだ。僕以外の誰も彼らに対しての態度が冷たくなったりはしていない。


「ところで皆さま、ライトさんが抜けてもう数日ですね。どうですか? 冒険が上手くいかなかったりなどはありませんか?」


 思い付いたように受付さんが僕の話を振ってくれる。僕に対してばつが悪かったのか、それとも仲を修復させたいのか。だが今更戻ってこいと言われてももう遅いのだ。


「あー、それはねー……」


 誤魔化しの愛想笑いみたいな顔をしながらアナスタシアが口を開く。きっと僕が抜けた穴の大きさに大分困っているのだろう。


「言いにくいんだけど、ほんと驚くほど何も支障ないよ」


 ばっさりと僕の冒険者人生を全否定する。嘘だろアナスタシア。流石に盛ってるだろ話を。誰か反論してよおい。


「そ、そうですか……確かに冒険の成果も今まで通りですもんね……」


「私達もむしろ少しくらい困る事があってほしかったんですけどね~。それが蓋を開けてみれば全然で(笑)」


「というか一人いなくなって逆に動きやすくなったくらいだのう! やっぱダンジョン通路での戦いに戦士は三人もいらんわい! がっはっは!」


 他の誰もアナスタシアの言を否定してくれない。一番申し訳なさそうな受付さんに至っては的確に数字を根拠に今の証言を後押ししてくる。なんだこれは。もう何でもいいから今すぐ全員暴れ馬に粉砕されてくれないだろうか。


「あいつの話はいいだろうが。さっさと酒場で飯でも食うぞ」


 僕に対しての興味すら失ったのか、ジョシュアが横槍を入れて話を中断させる。他メンバーも特別後ろ髪を引かれる様子もなく「そうですね」と受付を後にし、ギルドから出て行ったのだった。


 そして全てが終わった後にのそのそとカウンターから姿を現す僕。


「今のイベントは何だったんですかね」


「すいません……」


 受付さんが謝ってくれるが、もちろんそれで何かが解決したりはしない。とりあえずギルド内の僕を見る目がまた一段と生暖かくなってしまったのは確実だ。


 実際ここからどうすればいいのだろう。もうこのギルドのまともな冒険者が僕を受け入れてくれる想像ができない。恥を忍んで駆け出し冒険者のパーティに混ざって一からやり直すか? それともここを出て別の街で新たに活動を始めるか? 前者はひたすら惨めだし、後者は家という安定を売る事になる。


 数日前まではただ黙々とクエストをクリアしたりダンジョンに潜っていればそれでよかったのに、こんなに悩む事になるなんて。そもそも僕だって等級で言えばBランクパーティの元メンバーなんだが、何故こんな食いっぱぐれの危機みたいに陥っているのか。普通は引く手あまたのはずなのに、それをあの考え無しのジョシュア達がさんざ僕を無能呼ばわりしていくからこんな事に。ほんとどうすればいいんだ、どうすれば。ああもうどうすれば一体どうすればほんとどうすればどうすればもう……


「あのー、ライトさん」


 いまだカウンターの内側で悩み続けている僕に、横の受付さんがそっと声を掛ける。はいはい、邪魔ですよね。すいませんねお騒がせして。


「もう冒険者やめたらどうですか?」


「は?」


 唐突に投げかけられたあんまりな提案に、数秒間開いた口が塞がらなくなった。

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