魔導騎士

3好きな琉那

第1話



 小さい頃から時折不思議な夢を見るんです。


 初めて見たのは小学校五年生の頃だと思います、公園の砂場で数人の友達と遊んでいると突然明るかった空が暗くなって、いつの間にか友達もいなくなっていまい一人ぼっちになった私の目の前に三メートルくらいでしょうか、大きく歪な翼を生やした黒色の蛇が現れました。


 その蛇は少し開いていた口から涎を垂らしながら赤い瞳で私をじっーと睨みつけています、私は怖くなってその場に叫び声もあげることが出来ずに尻もちをついてしまいました。


 そして大きく口を開けた蛇が私に迫ってきた瞬間、私は思わず目をつぶってしまいましたが目を閉じた後ギンという金属が強く打ち合った音と振動とともになにか大きな物が地面に落下する音が響き、恐る恐るですが目を開けるとそこには地面に打ち付けられた蛇と私を守るように佇む―――


 そこでいつも夢から醒めてしまうんです。夢だと思うのですが、夢の出来事とは思えずに最初は家族の誰かに相談しようと思っていました。


 でもお父さんは私が小学生四年生に上がる頃に行方不明になり、お母さんと祖母・祖父の4人で暮らしていますが夢の内容を話すことが出来ずにいます、誰にでも家族にさえも話すことが出来ない秘密があるとすれば私は迷わずこの夢の出来事だと答えます。





   ◆    ◆    ◆




「ねぇようちゃん聞いてる?」


「あっ·····ごめん、考え事してた」


 私は稲田陽香いなだようか、黒髪に茶髪が混じったロングヘアーの藤見ヶ丘ふじみがおか高校に通う女子高生、話しかけてきたのはクラスメイトの小柳こやなぎつむぎちゃん。

 私たちは朝のHRが始まる時間までお喋りをしている。HRが始まるまでなら基本は自由だ、ゲームしててもいいし本を読んでもいい、時間までに来るなら遅刻にはならないからギリギリに来る生徒もいる、私たちのようにお喋りをしている生徒も何人かいる、でも私は久しぶりにあの夢を見たせいでふと夢について思い出してしまう、そんなことを知らないつむぎちゃんは話を聞いていなかった私が悪いんだけど頬をむーっとわざとらしく膨らましている。

 ちなみにようちゃんってのは私の愛称だ私もつむぎちゃんのことはつむちゃんって呼んでる。

「もぉー」

「ごめんって何の話だったっけ?」

「このクラスに転校生が来るって話だよ〜ほんとに聞いてなかったな〜」

「ちょっ///つむちゃんやめてよ〜」

 頬を軽くひっぱられてしまった。

「なんでも美形の男の子って噂だよ〜昨日の放課後先生が案内してるのを見たって人が言ってるよ」

「ふ〜んそうなんだ」

「アレ?陽香さんはイケメンには興味無い感じですか?」

「そんなんじゃないけど、そういうつむちゃんはどうなの?」

「私?私は興味無いかな〜今はそれよりも気になる噂があってね〜そのほうに興味津々って感じかな〜」

「噂?なんの?」


 私がつむちゃんに聞こうとした時チャイムが鳴り担任の先生が教室のドアを引きながら入ってくる。

「みんな席につけー朝のHRを始めるぞーー」

 先生の名前は宮内武みやうちたけるみんなからはたけ先生と呼ばれている、日直の生徒が号令をかけ全員が着席するとたけ先生が口を開らいた。

「みんな知ってると思うが今日からこの2年E組に転校生が入る、この町に来るのははじめてらしい色々手助けして仲良くするように、では入ってきてくれ」

 閉じられた教室のドアから入ってきたのは百八十センチ近い身長のグレーかかった白髪にショートの美形の男の子だった。

「自己紹介してくれ」

「はい」

 男の子の声は俳優のようなかっこいい声で顔立ちの良さもあってクラス中の女子生徒は注目していた。

 男の子は黒板に自分の名前を書きはじめた、黒板には


 明め

  い

 道ど

  う

 月つ

  か

 冴さ


 と書かれていた、丁寧に横に呼びかなをひらがなで書いている。

「明道月冴と言います。これからよろしくお願いします」

「明道の席は倉本の横な」

 たけ先生が明道君に席を指示すると「分かりました」と言って倉本さんの隣の席へと向かう、明道君の席は私の席の後ろにあたる、私の席は縦五列の横六列の教室の入口から縦に五列目の横に五列目の席にあるつまりは一番窓側の席だ、ちなみに私の前がつむちゃんになる。

 その後たけ先生は今日の連絡を話し始めたがその中で気になる内容があった。

「朝の職員会議で今日から当面の間放課後の部活動を禁止することを決定したニュースなどでも知ってるものがいるかと思うが行方不明者が相次いでいることを受け生徒の安全を考えてのことだ、帰りにも言うが部活動以外にも夜間の外出は控えるように、以上だ」

 この町は最近行方不明者が相次いでいるらしい、なんでもとある企業の社長さんの奥さんが身につけていたネックレスが血が着いた状態で見つかったそうで最初は殺人事件として捜査されたけど数日の間に突然行方不明になった人が十人も超えてみたいで警察が連続殺人事件として新たに捜査し始めたけど警察の捜査を掻い潜って今も行方不明者は増えている。


 この学校は部活動の参加は自由となっている。私は部活には参加はしていない帰宅部?ってやつだ、それでも部活をしている生徒は多くいてその生徒から「「え〜、なんだよ〜」」とブーイングしている生徒も入れば「よっしゃ」って喜んでいる生徒もいる。

「メギド·····か」

 ブーイングの嵐の中小さい声で誰かがそう呟いた気がした。めぎど?と、後ろから声がしたきがして思わず振り向いてしまった。

「どうしたんですか?」

 振り向いた私に笑顔で明道君が聞いてくる

「なにか言いました?」

 そう訪ねると明道君は困った顔をして「いいえ、何も言ってないですよ」と答えたあと初対面で続きの言葉が思いつかず私は「ごめんなさい空耳だったみたいです」と言って正面を向いた。

 それ以外は特に気になるようなことも無くHRが終わる。終わったあと転校生ということ美形であることも含め明道君はみんなからは注目され質問攻めにあっていた。私はつむちゃんとしゃべっていると後ろの会話が聞こえてきた。

「前はどこの学校に通っていたのか」「誕生日」「どこ生まれか」

「好きな食べ物」「好きな色」「猫派か犬派か」

「キノコ派かタケノコ派か」「彼女はいるのか」「好きな女性のタイプ」

 など様々だった。

「いや〜転校生君はモテモテだねぇ〜」

 ツインテールをフリフリしながら明道君とそれに集まってるクラスメートを見ながらつむちゃんがそう呟いた。

「まぁ転校初日はみんなに注目されるよね、でも笑顔で受け答えができる明道君が凄いよ」

「だねぇ〜うちだったらパニックになるよ」

「あっそれよりも噂って何?」

「ネットとかで囁かれてるだけなんだけどたけ先が言ってたでしょ、行方不明の人が次々と出てるって」

「う、うん」

「なんでも警察の人が犯人に返り討ちにあって殺されたそうなの、しかも無線で化け物が―――って言ってたらしいの怖くない?やばくない?もし本当なら妖怪の仕業ってことだよね!!」

「つむちゃんほんとに好きだねオカルト?っていうのかなそういうの」

「ふふ、まぁね」

「神社の娘らしいと言えばらしいのかな·····」


「今の話は本当かい?」

 私とつむちゃんにいつの間にか席を立っていた明道君が話しかけてきた

「えっと今の話って?」

「行方不明の人が実は化け物に殺されてるって話、実はそういう話が好きなんだ」

「えっ本当に!?」

 ガタッと食いつくようにつむちゃんが立ちあがり明道君を見る

「君は?」

「うちは小柳つむぎ、つむちゃんって呼んでね」

「つむさんね、よろしく、そっちの子は?」

 つむちゃんが自己紹介した後、明道君は私の方を見た、先程の件で話づらい私に変わってつむちゃんが私の紹介をしてくれた。

「稲田陽香愛称はようちゃん、私たち幼なじみなんだよ〜」

「稲田さんね、改めてよろしく」

「よ、よろしく」

 ぎこちないながらもそう返事をする、いざさっきの話をしようとしたタイミングで一時限目のチャイムが鳴ってしまいお預けになった。


 二時限目、三時限目の休み時間から転校生の明道君を目当てに他のクラスの生徒が入ってきてしまい結局話をするのは放課後になってからだった。帰りのHR中にたけ先生が「朝の時にも言ったが夜間外出は控えるようにな学校も五時には門を閉めるからな」と言っていた。なので私たちは帰りながら話すことにした。幸いにも明道君は私たちと同じく徒歩通学の生徒だったみたいだ。ちなみに休み時間のあいだに明道君には敬語じゃなくてタメ口でいいよと言ってあります、敬語だと恥ずかしので///


「これはまだネットの中でしか出ていないんだけどね」そう前置きしたままつむちゃんは朝と同じように犯人に接触した警官数人が返り討ちにあったこと、その時無線で化け物と叫んでいたことを話した。

「うへぇ、それがほんとならマジでやばいじゃん」

「だねだね、私たち殺されちゃうじゃんww」

「何言ってんだ?化け物なんて非科学的な存在いるわけないだろ」

「ちな、私は信じてるよ〜怖いけどね」

「私はもし本当にいるなら見たいけど殺されたくはないかな」

「··········僕もいるなら会ってみたいかな」

 私、つむちゃん、明道君以外にも三人いて一人目は金髪に髪をあげていて一見不良に見えるけど実は優しい葛葉戒斗かずらばかいと二人目は見た目はギャルだけど面倒見のいい駆紋絵梨奈くもんえりな三人目は高身長で黒髪短髪の頼れるお兄さんオーラを持っている呉島岳くれしまがく彼らも私とつむちゃんの幼稚園からの幼なじみでよく一緒に遊んでいた友達です、なぜ一緒にいるのかと言うと三人で帰りながら話そうとしたら戒斗君、絵梨奈ちゃん、岳君の三人が私たちを見つけ一緒に帰ることになったからです。その時に三人とも明道君に自己紹介をしてくれました。


「つむさんそれ以外は何かあるかな?」

「え?っとどういう意味?」

「もしそれが本当なら警察の機密が漏れている事ってことだよね?無線なんか特に警察署内か無線を受けた人にしか分からないみたいだし·····」

「機密情報を簡単に流せるならもう出てるのかなって思ったけど」

 明道君の言葉につむちゃんは何も言えずにいたけどしばらくして明道君が「言いすぎてしまったみたいでごめんね」と謝罪していた。つむちゃんは私たちに「誰にも言わないで欲しいんだけど」と呟いて··········

「私のこの噂はネットじゃないの、実は私のお爺ちゃんの神社に警察の署長さんが来てお爺ちゃんに相談しているのを聞いたの化け物が出たって」

 つむちゃんのこの話の情報源は警察の署長さんとつむちゃんのお爺ちゃんの話を盗み聞きしたものだったらしい、なんでネット云々の話をしたのかと言うと「怖くて誰かに話してでもも不安を取り除きたかったんだもん」との事だった。つむちゃんはオカルト系の話は好きだけど実際に人を殺す化け物がいることに恐怖を感じたみたいだった。怖さ八割興味二割だったと言っていた。

 その後涙を堪えて告白したつむちゃんを明道君を含めた五人で慰めつつそれぞれの帰路に着いた。





 ◆ ◆ ◆




 深夜、行方不明者の件を受け町は静まり返っていた。そんな中、立体駐車場の最上階にて女性の高い叫び声が上がった。


「いっいやああああああああぁぁぁ!!!」

「おやおや何故逃げるんです?」

 叫び声を上げる女性に向かって穏やかそうな男性の声が届く

「ハァハァハァ···············もっ········もしかして·····連続殺人事件の犯人って··········」

 男性に向かって女性は確信を込めてそう言ったが男性の反応はやれやれといった表情だった。

「殺人ではありませんよ?言うなれば収穫です。まぁ狩りと言ってもいいですね、貴方は簡単に言うと食材です。私の血肉になれることを光栄に思いなさい··········もっとも、数が少ないですがまぁ良いでしょう」

 男性はそう女性に優しく告げた。男性に呼び出された女性は待ち合わせ場所のここ五階建ての立体駐車場にて男性の本性とも取れる不気味な雰囲気を察して逃亡を図ろうとしたが三階まで降りた段階で疲れ果ててしまい今こうして女性は男性に捕まってしまった。

「ああやはりいいですねぇ·····女性の方が香りも手触りも別格です。やはりこの前食べた警察官は匂いも味も底辺で食べるだけ時間の無駄でした」

 うっとりとした表情と声で女性に向かって囁いたあと、苦虫を噛み潰したような声で言う。

「あ··········ああああ」

 失禁した女性に構わず後ろから髪や肌の匂いを嗅ぎ二の腕から太もも胸部や口などを全身を撫で尽くし手触りを十分に堪能したあと女性に向かって最後の言葉を告げる。

「名残り惜しいですが新鮮な状態で食べたいのでこれでさようならです」

 男性の口から涎がぽたぽたと流れ女性の肌へと当たり

「誰か··········たずげ···············て········ゆ······」

 恐怖で涙を流しながら女性は助けを求めるが女性の思いも虚しく誰も来ることはなかった。


 そして―――――――――


 ゴクンという飲み込む音だけが立体駐車場から響いていた。




           ◆   ◆   ◆



 立体駐車場の三階にて背中に狐の顔が刺繍された黒のロングコートを羽織った青年が濡れたアスファルトを見つつ周囲を見渡していた。

『逃げられたようじゃの』

「そのようだ··········」

 どこからか若い知的な女性の声が響き、それに青年は答える

「タマモ、奴の正体は分かるか?」

『少なくとも遭遇しないと分からないのう·····依頼書にはなんて書いてあったのじゃ?』

 タマモと呼ばれた女性の声は青年の疑問に答えたあと青年に訊ねる

「〈世に紛れ蝶を誘い喰らいし魔獣現れり、その悪意、断ち切るべし〉だったか」

『それだけだと女性を主に食い物にしているくらいしか分からないのう』

 青年はタマモの発言に同意しつつさらに訊ねる

「なら食われた場所なら分かるか?」

『それなら分かるのじゃ、ほのかにじゃが邪気が漂っておる、しかしルヴァーのやつも今日はこれ以上動かんじゃろ』

「ああ、分かってる」

 タマモにそう返事を返したあと青年は立体駐車場からコートをはためかせつつその場から姿を消した。




             ◆   ◆   ◆




 相次いで行方不明の人が出ているのに学校はいつも通りに開校します、ですが夜の間の犯行だけとは限らないそうで私の家から学校まで一キロあるかないかの距離なんですが登校中に警察の人と何度もすれ違いました。

「ようちゃんおはよう!」

「おはようつむちゃん今日も元気だね」

「あったりまえよ!TKGを三杯食べたからね!TKGは神!異論は認めないよ〜」

「よっ!陽香につむぎ」

「陽香につむぎおはよう」

「ようかっち、つむっちおは〜」

「おはよう、戒斗君岳君、絵梨奈ちゃん」

「戒君にガクくんえりちゃん、おはよ〜」

「全く相変わらずTKG好きだなつむぎは」

「卵かけご飯か〜うちのチビどもも今朝食ってたな、たまに食うと上手いんだよな」

「え?そう?うちは苦手かな〜あのドロっとしたのがなんかね〜」

「ん〜?えりっちはTKGの良さを理解してないとは残念だ」

 つむちゃんと一緒に登校してすぐ戒斗君たちの三人と会い、挨拶しあったあと先程の会話を聞いていたみたいで戒斗くんが呆れつつつむちゃんに言っています。つむちゃんはドヤ顔した後、岳君の言葉にウンウンと頷いたと思ったら絵梨奈ちゃんの言葉にガックシと今にも項垂れそうでした。私はそんなつむちゃんの反応が面白くて、つい笑ってしまいました。つむちゃんはそんな私の反応に怒って私の横腹をつんつんとつついてきたりしましたがつむちゃんのそんな反応を見て安堵しました、偶然とはいえこの町に人を殺す文字通りの化け物が潜んでいることを知ってしまったので夜はろくに寝むれていなかったはずですが私たちに話すことで少しでも気持ちが楽になったみたいで安心しました。


「稲田さん、つむさん、葛葉くんと呉島くんに駆紋さんおはようございます」

「おはよう明道君」

「はい、おはようございます」

 少し先で明道君が立っていました。私達に挨拶をしてくれたので私達もそれぞれ手を振って挨拶をします、明道君と合流した後改めて挨拶をする私にいわゆるイケメンスマイルで挨拶をしてくれます、それから私たち六人で今日の授業についてお喋りをしているとふいに挨拶をされました。


「おはようございます。今日は六人なんですね」

「あっ神父さんおはようございます。」

「今日も皆さんにとって良き一日になることを祈っていますよ」

 声の主は通学路にある教会の神父さんでした。いつもはシスターのお姉さんが教会の入口付近で箒を掃きつつ挨拶をしてくれます。時々神父さんが掃き掃除をしている時もありますが掃いてる姿を見るのは多くないのでびっくりしました。神父さんは短い茶髪に黒縁メガネをかけた優しそうな男性で一緒にいるシスターのお姉さんも茶髪のロングヘアーの綺麗な人です。神父さんは私たち5人の中に見慣れない男の子、明道君に気づき話しかけはじめました。

「はじめまして、この町の教会の神父をやっています。毎週土曜日には集会をしていますのでもし良かったらあなたも参加してみてください」

「はじめまして明道月冴と言います、神父さんのお誘いは大変嬉しく思うのですがそういうことに興味はありませんので遠慮させてもらいます」

「そうでしたか·····それではまた興味が湧きましたら是非」

「その時はよろしくお願いします」

 短いやり取りでしたが二人とも笑顔でにこやかに会話しているように他の人は見えたと思います、けれど私には空気のように空っぽな感じを二人から感じました。


 神父さんと離れたあと私たちは学校に着くまで再び今日の授業内容や連続行方不明事件について話をしていました。学校の授業内容の話が区切りをついたところで葛葉君が「犯人早く捕まってくんねぇかな〜部活が出来ねぇと大会で直ぐに負けちまうじゃねぇか」と連続行方不明事件についての愚痴を話し出したところでが一瞬でしたがつむちゃんの表情が暗くなったのを私は見逃しませんでした。

「つむちゃん大丈夫?」

「ようちゃん?ああ、顔に出てた?大丈夫だよ、あれから警察の人がうちの神社に来てお爺ちゃんに「もし化け物が本当にいるなら何とかしてくれ!」って言ってたよ」

「えっ?つむぎのお爺ちゃんそっち系の人だったの?」

「それって陰陽師ってことか?」

「戒君もガっくんも漫画とかの見すぎだよ〜うちはふつーの神社だよ、警察の人も頼る場所がおかしいんだよ」

「だよね、つむちゃんのお爺ちゃんそんな人の風に見えないもん、でももし本当にいる化け物がいるなら誰かがやっつけてくれるよね?」

「正義のヒーローが現れて化け物を退治してくれるとか?ありえねぇ、なぁ明道はどう思う?」

「う〜〜ん各地で伝承が残ってるのを考えると化け物は存在するってこともありえるし昔の人が面白半分で創った創作物の可能性もあるからなんとも言えないかな·······それに犯人の犯行を見て化け物って言ったのかもしれないしね」

「そうそう、それにうちらが気にしたってしょうがないっしょ、警察の人とかが何とかしてくれるでしょ」

 絵梨奈ちゃんの言葉にみんなは頷きそれからは他愛もない話をしつつ学校の校門を通りそれぞれの教室へと入りました、私とつむちゃんと明道君は校舎の二階にある二年E組で絵梨奈ちゃん達三人は同じく二階の二年B組に絵梨奈ちゃん、二年C組戒斗君と岳君に分かれています。


 私たちが教室に入ってから少ししていつものようにたけ先生が来て朝のHRが始まります、内容は昨日とほとんど同じで行方不明の人が出ているから夜の間は外出はするなというものでした。


 それからは特に問題もなく授業は始まりました。ただ、相変わらずと言いますか、他のクラスや違う学年の人達が教室へと来てもの珍しさに明道君に話しかけ、明道君は笑顔でそれを受け答える、ということが休み時間が始まる度におきていました。


 それから五日ほど経った頃、明道君とはこの六日間で仲良くなり、今では登下校を一緒にするまでになっていました。そしていつものように学校へと行き連続行方不明事件が終息してないから夜の外出は控えるようにとHRに先生から言われ、授業を当たり前に受け、夜の外出や部活動は出来ない日々を送っていたのですが、連続行方不明事件は思いもよらぬ方向へと進んでいきました。下校時間となり私たち五人に明道君を含めた六人が集まり一緒に帰っていた時、学校近くにある交番の前で赤く目を腫らしている学生服を着た女の子が私たちの目に映りました。女の子は私たちに気づくと「稲田さん、小柳さんに明道君?」と今にも泣きそうな声で聞いてきました。

「倉本さん?どうしたんです?交番の前で、何かあったんですか?」

 私たちがどう声をかけたらいいか迷っていると明道君が女の子、倉本由奈くらもとゆなちゃんに優しい声で話しかけました。倉本さんは私たちのクラスメートて明道君隣の席の子です、明道君は私たち五人以外は基本敬語を使っています、明道君は癖だと言っていました。


 倉本さんは涙を流しながら「お姉ちゃんが、お姉ちゃんが」と言って言葉にならないでいます、すると中にいた警察官の男の人が出てきて私たちに、というより由奈ちゃんに向けて優しい声で言いました。

「お嬢ちゃんあのね、そんな確かな証拠もないのに逮捕なんて出来ないの、お姉さんがいなくなった件については捜査はしてみるけど、あんないい人を疑うなんて··········冗談でも言っていい事と悪いことがある」

 そして最後に私たちに向けて「お友達?君らも今はこんな時だから悪ふざけはしないでくれよ」それ以外にもなにか言ったあと交番の中へ戻って行きました。ですが私たちは男の人の話を泣いている倉本さんを落ち着かせていることに集中していたのであまり聞いていませんでした。


 私たちは落ち着いた倉本さんから事情を聞くために近くの喫茶店〈アズハ〉へと入ることにしました。お店へと入る前、最初倉本さんは事情を聞きたい私たちに「警察の人みたいに信じてはくれないんでしょ?」とか、色々不信感を抱いていましたが私たちが必死に「絶対信じる」「誰かに相談すれば気持ちも落ち着くよ」と説得と慰めをした結果一方的に否定しないことを条件に泣いていた訳を聞くことができました。ちなみにこの喫茶店は木造建築のオシャレな店内と美味しいコーヒー紅茶が人気のお店でいつもならお客さんでいっぱいのはずです。ですが、店の中にいるお客さんの数は今は少なく、私たちはちょうど一番奥のテーブル席が空いていたのでそこへと座りました。入店した時、店員の女の人は涙で目が赤く腫れた女の子を含めた女の子四人と気まずそうにしている男の子三人の私たちに驚きつつも席へと案内してくれました。


 席に座ってはじめに私たちはコーヒー二つと紅茶五つを案内してくれた女の人に注文をしてから待ってる間は傍から見ると男の子三人に一人の女の子が暴行されたと思われてもおかしくない雰囲気でした。私たちは大人の誰にも聞かれたくはなかったので終始無言を貫いているだけなんですけど他のお客さんは好奇心からか聞き耳を立てていることが分かり少しですけど不快に感じました。それは私だけではなかったようで戒斗君と岳君が小声で「空いてるからと思ったけど失敗したな」「だな、だったら学校へ戻ればよかったな」と話しているのを聞いて心の中で同意しました。


 コーヒーと紅茶が私たちに配られたあと店員の女の人が私や絵梨奈ちゃんに向けて「警察の人呼ぼうか?」と神妙な面持ちで聞いてきたので慌てて私と絵梨奈ちゃんとつむちゃんは「そういう訳じゃないんで大丈夫です」「そそ、全然大丈夫です」「ただこの子(倉本さん)が泣いていたので私たち六人で相談に乗っているだけなんで」と必死に言い訳?をして暴行やいじめではないことを説明しました。しばらくして店員さんは渋々といった表情で引き下がってくれたのでようやく事情を聞くことが出来そうです。


 倉本さんは角砂糖を紅茶へと入れスプーンで掻き回しつつ自分が交番へと行き泣いていた訳を話始めました。その内容とは、「私にはね今年二十五歳になる七歳も年の離れたお姉ちゃんがいたの··········お姉ちゃんは忙しいお母さんの代わりに小さかった私の面倒をよく見てくれてね、高校に合格した時も一番に「よく頑張ったね」「今日はお祝いだよ」って褒めてくれた自慢できる大好きなお姉ちゃんだったの」

 紅茶に一口つける由奈ちゃんでしたが、話ながら瞳には涙が溢れ木材できた綺麗なテーブルの上に流れ落ちてきます。その涙で私たちはこの話は嘘や冗談ではないことを強く感じました。話の端々から感じる、いた、だったという過去を表す言葉で先の結果が分かり凍りつくような悪寒を感じました。


「お姉ちゃんと私は昨日ある人に呼ばれて夜出かけようとしてたの、でも私はその日学校から夜間の外出は控えるようって言われてたからお姉ちゃんに行かないって言ったの、それで·····お姉ちゃんだけ出かけて行ったのそしたら今日の朝お姉ちゃんは帰ってきてなくて、お母さんに聞いても「泊まってるだけでしょ」って言われてもしかしたらと思って気になってさっき待ち合わせ場所の立体駐車場に行ったんだ··········そしたら···············私がお姉ちゃんにプレゼントとしたネックレスが落ちてて··········それで··········」

 隣に座っている私と絵梨奈ちゃんが由奈ちゃんに寄り添い背中をさする、

「ゆなっち?それで誰なの?ゆなっちとお姉さんを呼び出した相手ってその人が犯人なんだよね?」

 つむちゃんは怖がりつつも由奈ちゃんに聞きました。由奈ちゃんの言葉を私たちは聞きたくもあり、聞きたくはない矛盾ともとれる感情が渦巻いています。これを知ったら後戻り出来ないような気がして·····

 つむちゃんの質問を由奈は頷きで肯定します。ですが由奈自身がとても恐怖して震えているのを寄り添っている私と絵梨奈ちゃんは分かりました、そして対面で座っている戒斗君と岳君、明道君は冷や汗を流しつつ由奈ちゃんの次の言葉を待っていました。そして深呼吸をした由奈ちゃんが再度口を開きました。

「私とお姉ちゃんをあの日呼び出したのは···············神父さんなの、次の集会で特別なことをやるから手伝って欲しいって言われて·····だから他の人には内緒にしてねって前にも同じことがあってその時はお誕生日のサプライズプレゼントの相談だったりしたから私もお姉ちゃんも今回も同じだと思って了承したんだけど··········」


 神父さん、その言葉に今日初対面だった明道君以外の五人は凍りつきました、神父さんはお年寄りや小さい子、老若男女誰にも優しくて泣いている子を見つければお菓子をあげて慰め、迷子の子が入れば交番まで行ってその子の迎えが来るまで一緒にいてあげたり、ボランティアにも積極的で小学校や幼稚園の先生が神父さんのような人になるようにと教えるくらい善人の代名詞のような人だっただけあってその言葉の威力は計り知れない。


「でもよぉ神父さんが犯人って決まったわけじゃないだろ?」

「あっああ·····もしあの神父さんが犯人だったら神父さんはば化けもってぇ!··········」

「戒斗君!!」

「っとすまねぇつむぎ」

 岳が希望ともとれる発言をした後戒斗君が犯人だったらの場合の倉本さんが知らない秘密を喋りそうになってつむちゃんに口止めされる(恐らく踏まれたんだと思う)気づいた戒斗君は素直につむちゃんへ謝っている、明道君は入店してから紅茶を頼んだ後一言も喋っていなかったので気になって明道君の方へと向いたら目をつぶっていた。寝てる·····わけではなさそうだけど何を考えているのか分からなかった。


「それでシスターのお姉さんには言ったの?」

「言えるわけないよ··········神父さんが犯人ですって絶対に信じてもらえない··········ねぇどうしたらいい?警察は信じてくれなかったしみんなは?信じる?それとも警察の人みたいに冗談だと思う?」


 由奈ちゃんは私たちに相談も混じった質問をしてきました。由奈ちゃんの顔は私たちは冗談だと否定すると考えているとても悲しそうな顔でした。だから私たちの返答は決まってます。私がみんなを見渡すといつの間にか目を開けていた明道君を含めみんなの考えていること思っていることが一つだと感じました。

「私たちは由奈ちゃんの言葉、信じるよ」

「もち!私たち友達だもんね、そんな涙見せたら信じない方がお馬鹿さんだよ」

「そそ、警察の男の人は女心が分からなかった馬鹿ってこと」

「明確な証言があるんだ、あとは警察にどう説明するかだが、俺は信じるぜ」

「同じく、信じるよ」

「転校してきて早々だけど僕もみんなと一緒で倉本さんの言葉を信じるよ」


「みんな·····明道君もいいの?警察の人も信じてくれなかったのに··········ありがとう」


 由奈ちゃんは信じるという私たちを見渡し頭を下げる、そして一旦喉を潤すためにすっかり冷えてしまった紅茶やコーヒーを飲みつつ全員で考える。


「それでどうする?どうやって神父さんの容疑を認めさせるの?」

「警察に通報するってのは門前払いをくらったばかりだからな使えねぇし」

「ここは直接乗り込むってのはどう」「やめたほうがいい」

 戒斗君の教会へと乗り込む案を鋭い声で明道君が却下した。突然の声に驚く私に絵梨奈ちゃん、由奈ちゃん、つむちゃんをよそに戒斗君が明道君へと噛み付く。

「明道どうして否定するんだ?スマホの録音機能を使って神父さんの証言を録るそれを警察へ持ってけば解決だろ?」

「簡単に言うけど犯人は一人とは限らないと思うよ?もし、一緒にいるシスターさんも共犯なら間違いなく殺されちゃうね、殺されなくても不法侵入で怒られるのがオチさ、まっよくてだけど」

「はぁ?何が言いたいんだ?俺たちは倉本の話を信じると決めたんだろ?警察の捜査が詰まってる中で俺たちだけが犯人を知ってるんだ、なら·····」

「そうだね、全員で行けば一人は助かるかもね·····それ以外は倉本さんのお姉さんのように行方不明者の仲間入りだ·····僕はそんなの認めない」

「なんでそんなことが分かる?·····まさかアレを信じてるのか?」

「悪いことは言わない、今日はもう暗くなるし、行くなら昼間の方がいいと思うよ?それなら助けも簡単に呼べるだろうからさ」

 戒斗君の言葉を明道君のいつもの優しい暖かさがある感じではなく冷たさを感じる言葉で否定していく。

「明道、おまえ怖気付いたのか?」

「どう捉えて貰っても構わないけどこれだけは言わせてもらう、今日はというより夜はやめたほうがいい」

「話にならねぇな岳はどう思う?」

「俺は戒斗の案に賛成だな、できるなら早い方が良い、それに今日俺たちが足止めしたおかげで救える人もいるかもしれないからな」

 岳君は完全に戒斗君の味方のようです。絵梨奈ちゃんと倉本さんは言葉こそ出していませんが恐らく戒斗君と同意見なのでしょう、私とつむちゃんは正直、明道君の意見に賛成でした。明道君は言葉に少ししか表してしていませんが今のままだと私たちはシスターのお姉さんも共犯の場合は殺されるでしょう、もし単独犯だとしても私たちの誰かが犠牲になるということです。いやもしかしたら神父さんが化け物だったなら私たちは蟻が象に挑むよりも過酷な··········蟻が空想上の生き物に挑むようなことかも知れません、それを考えた上でみんなが少しでも無事である方法として人が多い昼間ならもし化け物だった場合でも私たちが襲われる確率は下がるはず·····明道君は戒斗君ではなく私とつむちゃんを見ています、私は明道君の意見に賛同しようとした時、明道君がいきなり席を立ち「ごめん、バイトがあること忘れてたよ··········まぁそういう訳だから僕はこれで帰らせて貰うよ」と言って伝票を持って帰っていきました。私は思わず立ち上がり明道君を追いかけました、会計はどうやら明道君が済ましてくれたようで店員さんには何も言われず店を後にすると明道君は私が来るのを待っているかのようにお店から少し離れた距離で立っていました。


「明道君·····私は··········」

「稲田さんとつむちゃんさんに渡したい物があってね、出てくるの待ってたんだ」

「え?」

「つかっち?どういうこと?」

 私の後を追いかけてきていたつむちゃんと私は明道君の言葉に頭の中で?マークを作っていると明道君は鞄から水色の雫の形をしたキーホルダーを二つ取り出して私たちに手渡しました。

「綺麗··········これは?」

「告白かい?つかっち、私たち二人とは欲張りさんだね〜」

 私が素直な感想と疑問を口にしている横でつむちゃんは自分の言葉で顔を赤くしながら素直に受け取っています。

「つかっち?··········ああ僕の愛称だね、言っとくけど告白では無いからね」

「そう·····だよね」

「デスヨネー」

 いきなりのつむちゃんの愛称呼びに困惑した様子の明道君はキーホルダーの正体よりもつむちゃんの告白という言葉を苦笑いをしつつ否定した。私たちは分かってました、ていう反応を示したあと笑顔で明道君は教えてくれる。

「これはね御守りなんだ、二人は僕の言葉を信じてくれたからね、そのお礼だと思ってくれれば嬉しいかな」

「へぇ〜金運とか?恋愛運とか?」

「金運とかではないけどとてもよく効く厄除けかな、行かないでもほしいけど夜の墓地とか心霊スポットに持ってくと自分だけ怪異に襲われないとか、かな」

「ちょっとガッカリだけどありがとうね」

「ありがとう。カバンとかにつけとけばいいかな」

「出来ればスマホとか鍵とか学校がない日でも身に付けられるものがあればいいかな」

「ならうちはスマホに付けるよ」

「つむちゃんがスマホにするなら私もスマホに付けようかな」

「おっ!いいね!ようかっちとお揃〜」

 私たちが自分のスマートフォンに御守りを付け終わるまで明道君は待っていてくれました。付け終わって私たちがお互いに御守りを眺めていると「今度そこバイトに遅れるからじゃあまた」

「うん、また明日」

「つかっち、じゃあねぇ〜」

 今度こそ明道君と別れた私たちはみんながいる喫茶店へと歩き出すとみんなは既にお店から出ていて私たち二人を待っているようでした。私たちに気づいた絵梨奈ちゃんが手を振ってくれます、手を振り返し駆け足で四人の元へと戻った私たちに戒斗君は真剣な表情で告げます。


「つむぎ、陽香これから俺たちは教会へと行くが二人はどうする?着いてくるか、それとも腰抜け明道みたいに着いてこないのか」

「腰抜けって戒斗君」

「つかっちは私たちの事を心配してくれているんだよ?それにアノ事を忘れたわけじゃないんでしょう?」

「ああ分かってる、だからいざとなったら俺がみんなを逃がす、今日じゃないと駄目なんだ早くしないと··········」

「戒斗君?」

「かいっち?どしたの?様子が変だよ?」

「ああ、そうか二人には言ってなかったなあの後、戒斗の妹さんまいって言うんだが呼び出されたらしいんだ、サプライズで誕生日プレゼント買いたいからって相談に乗ってくれって神父によ、ご丁寧に戒斗も含めてな」

「それって·····」

「嘘?!」

「妹には学校からの忠告ががあるから外出はするなって言ってある、代わりに兄貴の俺が帰り途中だから寄ってくからって言ってな」

「それに俺のばぁさんの仇でもあるんだ」

「どういうこと?」

「ニュースで第一被害者の社長の奥さんの話は知ってるだろ?あの人は俺たちの母方の祖母なんだ、母さんと同じで厳しいが優しい人だっただから倉本の話は他人事で切って捨てる訳にもいかなくてな、もし本当に神父なら俺の家族を二度も奪うような奴はぜってぇ許さねぇ!」

「戒斗のためにも俺は協力すると決めた」

「これ以上誰かの大切な人を奪わせないよ」

「つむちゃん·····私」

「ようかっち分かってる、そんな話されたら私たちも協力しないとね」

 私はつむちゃんの言葉に頷きます、戒斗君の告白に私とつむちゃんは目に涙が溜まり思わず流してしまいました。家族を二度も奪われそうになることの辛さが戒斗君の表情で少しでも分かった気がしたからです。それに誰かの大切な人が危険にさらされている中で犯人を知っている私たちが動かなかったら誰が動いてくれると言うんですか?





     ◆         ◆        ◆




 午後七時くらいでしょうか私たち六人は今教会の前へと立っています。理由はもちろん神父さんを警察に逮捕してもらう為に神父さんが行った犯罪を自白させそれを証拠として提出するためにスマートフォンの録音機能を使った捨て身ともとれる方法を行うためです。一応それ以外も考えましたが今日この日この夜行える方法の中では最も確率が高いものです。それ以外に確率が高いのは呼び出されたあと連れ込まれるか殺されるかのどちらかを証拠として録画する方法ですが、そんなものは論外です。


「いくぞ」

 戒斗君が緊張で汗を流しつつ教会の扉を叩くとギィィと扉が開き、穏やかな笑みを浮かべる神父さんが迎えてくれました。神父さんが迎えてくれた瞬間私は心臓を掴まれたような恐怖や悪寒が全身を巡り思わず後ずさってしまいます。

「おやおや、皆さんどうしました?戒斗君、妹の舞さんはいらっしゃらないようですが·····その変わり、昨日来なかった由奈さんがいらっしゃいますが·····どういうことです?それに岳君に絵里奈さん、つむぎさん、陽香さんはどうして教会へ?」

「神父さんも知ってるだろ?連続行方不明事件の事、学校の方でも夜間の外出は禁止されてるんだ倉本からは聞いてないのか?ちなみに倉本や岳達は下校中に一緒になってな喋っちまったのは悪いと思ってるけど人数が多い方が便利だろ?」

「そういえばそうでしたね、連続行方不明事件とは大変嘆かわしい········一刻も早い解決が望まれますね、人数が多いと便利、それもそうですね予定外ですがあなた達も歓迎しましょう。」

 神父さんは事件の早期解決をと平然と呟いていますが神父さんを犯人だと思っている私たち、特に戒斗君はどの口が言うか!とでも言ってるような表情で神父さんを睨みつけています。

 神父さんが後ろを向いたことで私たちは目配せをし、話を切り出せるタイミングを待っています。

「きゃっ!」

「おや?どうしました?」

 そんな私の手を不意に触られてびっくりして悲鳴を上げてしまいました、お恥ずかしい。神父さんが突然の声に後ろを振り向いて心配してくれますが、私は神父さんよりも手を触った張本人、つむちゃんのことが心配でした。つむちゃんは見るからに顔を青ざめさせ私の手を握ってきます。

「神父さん、わた·····私、つむは大丈夫です·····ははは」

「そうですか·····もし体調が悪いなら無理しなくて良いですからね」

 つむちゃんは神父さんに心配かけないよう元気に振舞っていますが誰が見ても体調不良です。神父さんも心配はするだけで特にこれ以上は何も言ってきませんでした。

「つむちゃん?どうしたの?なにか悪いもの食べた?それとも拾い食いした?」

「ようかっち言っていいことと悪いことあるよ?··········朝は気づかなかったけど神父さん··········警察の人が言ってた通り、化け物だよ」

「えっ?ほんとうに?」

 つむちゃんは確信を持った声で私に教えてくれました、そして教会に入る時に感じた違和感についても··········

「間違いない·····だって神父さん瞬き一回もしてないし、それに教会に入った瞬間感じなかった?膜みたいなのに触れるの」

「つむちゃんも感じたの?教会に入った時に蜘蛛の巣に引っかかったような感じがしたんだけど」

 実は教会に入った時違和感がありました咄嗟に蜘蛛の巣に引っかかったと言いましたが同じような感覚を覚えました、ですが感じたのは私とつむちゃんの二人だけのようで、私とつむちゃんの共通点なんて···············

「おい、どういうことだ?膜?蜘蛛の巣そんなの感じなかったぞ」

「うちも感じなかったよ?なんで二人だけ感じたのさ」

 小声で私たちが話していると神父さんが立ち止まりフッフフと不気味な笑い声を上げました。

「しっ神父さん?」

「つむぎさんあなた私の事を化け物と仰いましたね?」

「うっうう··········だって神父さんの後ろからなんか不気味な蟷螂みたいな化け物の姿が見えるんだもん、あなたなんでしょ!連続行方不明事件の犯人は!!」

 いつの間に聞いていたのか困惑する私たちを他所に神父さんはつむちゃんへと問いましたがつむちゃんは怖いのを我慢して神父さんに向けて私たちだけが知っている事を言い放ちました。しかし神父さんの反応はあっさりとした物できょとんとしています。

「まぁどうせ私の正体を知ってしまった以上は生かすことは出来ませんのでお答えしましょうか··········正解か不正解かで言えば不正解ですね」

「「「「「「えっ?」」」」」」

 私たちの言葉が重なります。神父さんは連続行方不明事件の犯人ではない?どういうこと?私たちの疑問の答えは簡潔でした。

「連続行方不明の犯人ではありません人間の言葉で言うなら私は連続殺人事件の犯人··········ですよ、ハッハハハ!!!なにせ私が呼び出した方々は証拠を残さぬように殺して丁寧にしっかりと食べて差し上げましたからね〜死体すら残らないなら行方不明または失踪と扱われるとは、全く人間の世界とは面白いものですねぇハッハハハ!!!!」

「貴様ぁ!!」

「おや?戒斗君どうしました?··········ああ、そうでしたね、あなたのお婆さまを食べたことを忘れてましたよ、全く脂は少なく骨だらけで美味しくはありませんでした、その点昨日食べた倉本さんのお姉さんは大変美味でした、肌触りはもちろん味も至上の逸品!食べた中では文句無しのナンバーワンです!!」

「よくも!よくも!!お姉ちゃんを!!!この悪魔!!!!!」

「悪魔ではありませんよ?そうですね、ですが、冥土の土産に教えて差し上げます!私は悪魔でもそして人間ですらありません」

 怨嗟の篭った戒斗君や由奈ちゃんの叫びを気にせずに神父さんは笑顔で当然かのように受け流しそして、神父さんはその正体を現しました。その姿は夢に出てきた蛇のように黒い歪な羽を持った人型の蟷螂とでも言うのでしょうか··········両腕は蟷螂と同じような形ですが下が刃物のようになっており、顔も大蟷螂を思わせるものでした。そして全体的に甲殻のように黒光りしており、蟷螂の化け物といった印象です。それが私たちに笑いかけます

「この姿を見せるのは警官どもとあわせて二度目ですかね、全く食事中に背中から発砲されましたからねぇ思わず、この姿で惨殺してやりましたよ」


 その姿に私たちは当初の目的も忘れて恐怖でへたりこんでしまいます、その様子が元神父さんの化け物には面白いらしく尻尾から黒い管を出して少しづつ地面を貫いては離しを繰り返し迫ってきます。

「いいですねぇ〜その反応〜知っていますか?一番より美味しくさせる調味料はね恐怖なんですよ〜?ああ〜でも男は不味いから男だけ先に殺しちゃいますねぇ〜」

 口角を上げて瞳をにっこり笑い、尻尾から伸びる管で戒斗君の胸を貫こうとした時信じられない事がおきました。


 突然、私とつむちゃんを中心に青白いドームが出現し管は発生したドームに触れると管の先から触れている部分を溶かし始めました。

「ギイィィヤァァァ!!!!!結界だとぉぉぉただの人間がどうしてそんなものをぉぉ!!!」

 化け物が突然の痛みで尻尾の先を器用に掴んでいるとパリンとガラスが砕け散る音が響きました。化け物が「けっ·····結界がぁぁぁ!!!そんな·····どうして·····!!!」と叫んでいます。そしてシュッという音と共に教会の扉から何かが投げ込まれました。

 投げ込まれたものは黒いグリップに五芒星があしらった八十センチ程の剣でした。それが化け物と私たちの間に入り突き刺さっています。

「そうでした、そうでしたねぇ!!!彼らだけで通りでいないと思いましたよ!!!!これはあなたの仕業ですかぁ?!!!!ただの女子高生に結界を仕込んだ魔導具を持たせ、この教会に貼っている結界を破るなんてねぇ!!!!」

 化け物が扉の先にいる剣を投げ込んだ人物に対して叫びます。私たちが後ろを振り向くとそこには背丈は百八十センチ近い身長にグレーかかった白髪の青年が立っていました。青年の服装は黒のロングコートに左右の腰には鞘が吊るされていて一本は仕舞われている状態でした。化け物と私たちは彼の名前を口にします。

「「「「「「明道君」」」」」」

「明道君!!」

『ツカサお主、モテモテじゃのう』

「くだらん、タマモ、こいつの名は?」

『メギド:ブレガモール、両腕の鎌に尻尾からの鋭利な針しか特徴がない中級種じゃな、鎧のような外骨格は中級種の中じゃ最弱じゃ』

 歩きつつ私たちの前に来た明道君は私たちを一目見たあと化け物、確かブレガモールって女性の声が言ってたに向き直り後ろから声をかけます。

「そこでじっとしてろ、結界の中なら安全だ」

「明道おまえ··········」

「安心しろ·····おまえの、いや、被害者の無念をはらしてやる」

 そう言って明道君は地面に突き刺さった剣を抜き、もう片方の手で鞘に収まっていた剣を抜きました。そこから明道君VS化け物:ブレガモールの戦いが始まると思っていました··········。

 明道君は迫り来る黒い管を剣にわざと巻き付けさせてから思いっきり引っ張りブレガモールの体勢を崩すと空いている剣を胸元へと突き刺しました、ブレガモールの口や胸元から大量の黒い血が流れ教会の床を染めていきます、明道君は血などを気にせずに胸に突き刺さったままの剣を抜きました。もう片方の剣は巻きついたまま引っ張っていたので管が細かく切れただけで何ともありませんでした。終始明道君の一方的ともとれるあっさりとした決着に安堵してこの事件はこれで終わりかと思いましたが不意に私たちの頭上に影が落ちそれがブレガモールの隣ではなく倒れているブレガモールを片足で踏みつけつつ私たちを睥睨しました。明道君は影に気づき後ろに飛んで私たちを守るかのように前に立っています。


 現れたのはシスターのお姉さんでした、ですが美人と噂のにこやかな笑顔はそこに無く、ただ首を傾けて目下のブレガモールを無言で睨んでいます、普段の関係ならば元神父のブレガモールが上でシスターのお姉さんが下の立場ですがどうやら立場と力関係は全くの逆のようでした。

「オイ!オイオイオイ!!!!どうして魔導騎士の最上位:黒鞘がいるんだい?それにぃよぉ!!私が貼った結界破られてんじゃんよぉ!!おまえが調子に乗って食いまくったせいだろぅ?そのせいで今までひっそりと食べてたのに、人間どもに食べてることバラしやがって!!それによォ高価そうな物持ってるババァは辞めとけって言ったよなぁ!!!警察にも魔導騎士連中にもバラしやがってさぁ、しかも負けるとか人間の赤子の方がよっぽどお前より価値あるわ」


 口を開いたシスターのお姉さんは罵詈雑言の嵐でした、私たちに対するものではなく元神父へ向けて全て言っているようで口調が激しくなるにつれてどんどんと踏みつけの力が強くなっていきます。それに比例して口から流れ出る血の量も増えていき私たちは思わず目を逸らしました。


「はぁーそれで魔導騎士?あんた私を見逃してはくれんのかね?」

「見逃すと思ってるのか?」

「私は基本少食でね、あまり人は喰らわんのさ、大食いなのはあんたが一方的にノシたこいつだ、それに私は人間の赤子は好きなのさ」

「成長してから喰う気だろ?七歳頃かそれくらいになったら、それにこの教会の下がお前たちの巣なのも知っている」

「へぇさすが黒鞘、やっぱそこらの魔導騎士より優秀だねぇ」

「メギドに褒められても嬉しくないな」

「ウウゥ・・・・黒鞘って·····なん·····のこと·····だ?」

「ああん?まさか知らないでいたとはね·····こいつら魔導騎士ってのは鞘で自分の階級を表してんのさ紫が最下位で黒が最上位さね、まぁこの歳でこの色とはおまえは天才だねぇ」

「褒められても嬉しくはないが、メギド如きが何故知ってる?」

「知りたいかい?簡単さね、この街にいた魔導騎士を始末したのは私だからさね、魔導騎士と言っても口ほどにもないやつらだったよ!!!アーアッハハハーー、さ〜て長話もそろそろ終わりさね」

「へ?」

「お前はもう用済みさね」

 元シスターさんはそう言うと踏んでいる元神父さんの頭を掴み頭を神父さんと同様に蟷螂の化け物へと姿を変え、頭から食べ始めました。

「ヒィッ!!」

「くっ··········」

「「きゃあああ」」

 つむちゃんと由奈ちゃんは悲鳴をあげ私と絵梨奈ちゃん戒斗君と岳君は思わず目を背けました。由奈ちゃんは恐怖心が限界に達したみたいで気を失ってしまいました。近くにいた絵梨奈ちゃんが由奈ちゃんを介抱しているその間も続くガキゴキグチャアという何かが折れたり潰れたりする音にクチャクチャという咀嚼音に加え「アア·····ダズゲデ··········メイ·····」と悲鳴にも似た声が響いていました。

「ふふ·····まさか私の食事を待っていてくれたとは嬉しいねぇ」

 満足そうなシスターの声に背けていた目を元に戻すとそこにはいまだ私たちに背を向けた明道君とシスターのお姉さんの面影が全くない大きい蟷螂の怪物がそこにはいました、普通の蟷螂と違う点は大きさは当然違いますが鎌に当たる前足は四本になっており、蠍のような外骨格に黒紫色の光沢が窓から差し込む月明かりで光っています、尾に当たる部分からは黒色紐のような物が蛇のようにくねくねと動いています。


『ツカサよ』

「ああ、分かってる」

 大人の女性の凛とした声が明道君の名前を呼びます、明道君は首からかけていた狐の顔を模したペンダントを自身の前に持ってきて一言呟くとペンダントに息を吹きかけました。


 ペンダントから清流のせせらぎに似た音が広がりました、怯えていたつむちゃん達もその音色に耳を傾け落ち着いた表情を見せています、私自身も変わり果てた姿になったシスターさんに怯え、体中が震えていましたがその音色のおかげで震えが止まったことが分かりました。そんな私たちとは対照的にシスターさんだった蟷螂の怪物は四本の鎌で耳に当たる部分(実際の蟷螂は胸の窪みが耳だそうです。)を抑え、苦しみ出しました。

 明道君はというと、音色がなったと同時に明道君の頭上に青白く光る円が出現し強い光が明道君を包み込むとそこには········


 純白の鎧を纏った騎士が立っていました。


 狐·····でしょうか、その騎士は口を閉じた凛々しい金属質の狐の顔に光沢のある白色の鎧で所々に赤いラインが入っています、また両腰には白色をした鞘に収められた剣が見えます。


「終わりの時だ」


 明道君の声が騎士の中から聞こえて来ました、どういう原理か分かりませんがやはりあの騎士は明道君で間違いはないようです。明道君は両腰の剣を鞘から抜き出すと逆手に持ち変え、下から放り投げるように剣を両方とも蟷螂の怪物に向けて投げました。剣は回転しながら両腕の関節へと当たり、切り落としました、黒い血を流しつつ叫び声にも似た絶叫を上げる怪物に明道君はカシャンカシャンと音を立てながら歩き出し高く跳躍しました、跳躍するのと同時に剣がブーメランのように明道君の手に収まると剣を逆手に持ったまま怪物の頭部に二本の剣を突き刺しました。それを受け怪物は「ギィィヤアアアア」という断末魔と共に破裂しました、また、その際飛び散った肉片などは私たちを覆っている結界に当たるとジュュウという音とともに蒸発し床などに当たると当たった一部分を溶かしつつ蒸発しました。


 怪物がいた場所には剣を鞘に収めた明道君が佇んでいました。明道君が振り返るのと同時に鎧は青白い光が発したと思ったら消失し元の黒のロングコートに身を包んだ明道君が戻って来ました。

「明道おまえ··········」

「つかっち··········」

「明道君·····」

「怪我はないようだな」

 私たちの声を無視して明道君はただ一言呟くと青い液体が入った栄養ドリンクサイズの小瓶をコートの内側から取り出し由奈ちゃんに飲ませました。

「ちょぅぅぅぅうと待ったぁぁ明道君?何してるの!」

 絵梨奈ちゃんが思わず叫びますが明道君は気にせず小瓶に入っていた液体を全て注ぎ込みました。

「さて、これで分かっただろ?自分たちがいかに無謀で馬鹿だったか」

 空になった瓶をコートの中にしまいつつ明道君は冷たい声と目で私たちを見ました。それに対して私たちは何一つ反論出来ずにいます。

「念の為結界を持たせといてよかった、アレがなかったら分かってると思うがおまえたち死んでたな」

「明道·····なんで教えてくれなかったんだよ!!おまえが化け物退治してるって教えてくれたら··········」

「教えてたら行かなかったか?ふざけているの一点張りで俺の話は信じず結局は行ってただろ?それに元々、俺は行かない方がいいって言っただろ?」

「そっそれは··········」

 明道君に対して戒斗君が文句を言いますが明道君はさらに冷たく返すと戒斗君は何も言えず黙ってしまいました、私他つむちゃんに絵梨奈ちゃん、岳君は明道君のもう一つの顔を知らなかったとは言え、友達としての忠告は聞いてたにも関わらずそれを無視して行動してしまったので文句も何も言えずにただ黙って明道君と戒斗君のやり取りを聞いていると突然どこからか知的な大人の女性の声が響きました。

『ツカサよ··········くだらん押し問答は止めよ』

「ああ、すまないタマモ」

 明道君は声に謝罪すると私たちを見て「とりあえず家まで送ってやるから準備しな」と言って扉に向けて歩き出しました、私たちも明道君の後に続いて歩き出しました。


 教会を出ると外はすっかり暗くなっていました。戒斗君と岳君を先頭に後ろに由奈ちゃんをおんぶした私に絵梨奈ちゃんにつむちゃんと明道君が着いていきます。

「うっ··········うえ?ここは?」

「ゆなっち、目が覚めたんだね」

「つむぎちゃんにみんな··········明道君も」

「今私たちで由奈ちゃんを家に送ろうとしていてね、気がついてよかったよ」

「そうなんだ、ありがとう」

 由奈ちゃんを下ろした後、私たちは由奈ちゃんの家の前で由奈ちゃんと別れた後、絵梨奈ちゃん家、つむちゃん家、そして私の家と女の子優先で送ってもらいました。これからお母さんになんて言おうか、今からとても憂鬱です。



          ◆     ◆      ◆





 倉本由奈、駆紋絵梨奈、小柳つむぎ、稲田陽香の四人の女子高生を送り届けた後、月明かりは三人の青年を照らしていた。学生服に身を包んだ青年二人はもう一人の青年の存在を無視して足早に歩いている、しかし黒いロングコートに身を包んだ青年は歩く速度は早めず二人の青年の後をついて行く。

「明道おまえ、俺たちの家にもついて来るつもりか?」

 学生服を来た青年、葛葉戒斗が後ろを向いてロングコートの青年に苛立ちを堪えつつ尋ねるとロングコートの青年明道月冴は淡々と告げる。

「ああ、また襲われるかもしれないからな、そうなると俺が困る」

「襲われるってメギドとかいう怪物にか?俺たちが?」

「今回まぁ、倒したのは··········言ってもいいか、女喰いのメギドでな普通は男女関係なく喰うやつが大半だ、あいつらは中級種だが、下級種はそこら中にいる、」

「俺たちがまた襲われる可能性もゼロじゃないってことか」

 もう片方の学生服をきた青年、呉島岳の質問に答えようとした時、呆れたような声が響く。

『お主ら助けられた分際でよい身分じゃな、こうして帰路にまで守ってもろうておるくせにのう』

「あっ?誰だ!さっきも余計なこと言いやがって明道、おまえの知り合いだろ!さっさと姿を見せろ!」


『妾に気づかんとはの、ツカサよこいつらはあるのかえ?』

「少なくとも一人は確定している」

「戒斗、明道のペンダントだ」

「なんだよ岳、明道のペンダントが··········目が光ってる?」

『なんじゃ、ようやっと気づきおったか』

 呉島岳は明道月冴が首からかけている狐の顔のペンダントの両目が青白い光を発していることに気づき、葛葉戒斗にも教えると先程から会話している声は笑う。

「彼女は魔導喚まどうかの一柱玉藻タマモだ」

 月冴がペンダントに目を向け二人に紹介する。


 二人が月冴に近づこうとしたその時、戒斗と岳の二人に向けて大きな犬の形をした影が襲いかかろうとした、しかし、素早く抜刀した月冴が犬の影を切り裂くと影は霧散し消えた。


「ちっ·····思ったより早いな」

「お·····おい明道さっきのは一体なんだ?俺たちを狙ってたのか?」

「あっああ、黒い犬の形をしていたが·····今のもメギドって奴なのか?」

「悪いが説明してやってる時間はない、さっさとおまえらの家に案内しろ、それまでは守ってやる」

 有無を言わせぬ月冴の言葉に二人は頷き、三人は再び歩き出した。


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魔導騎士 3好きな琉那 @LUNA3RIMU

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