第200話 ゴブリンクラウザーの力

「お前は黙ってろ。こんなゴブリン如きアイが凍す!」

「駄目だよアイ! 相手の力は未知数だ。ここは協力しよう」

「スピィ!」


 スイムもその方がいいと言ってくれている。だけどアイスは僕をキッと睨んで来た。


「調子に乗るな。アイはお前と仲良くなったつもりはない。氷魔法・逆上氷柱!」


 アイスが見せたのは僕に使った魔法だ。氷柱が地面から生えながらクラウザーに迫っていく。


「ふむ。中々面白いではないか。だが――」


 クラウザーがパチンッと指を鳴らすと地面から紫水晶が飛び出し壁となって氷柱を防いだ。


「こんなものであるな。雌よ我が用があるのはそっちだ。貴様に構ってる暇はない。故に――」


 クラウザーが手で握れるサイズの紫水晶を二本取り出した。それをアイスに向けて投げつけると水晶が割れ中から巨大なゴブリンが二体姿を見せた。この大きさロード以上だ!


「ゴブリンジャイアントであるぞ。さぁお前たち、そこの雌を相手するがよい」

「「グオォォォォォォオオォォォオオオオ!」」


 二体のゴブリンジャイアントが雄叫びを上げた。この大きさのを同時に二体なんていくらアイスでも――


「アイス! 先ずはこいつを!」

「おっと貴様の相手は我であるぞ」

 

 クラウザーがパチンッと指を鳴らすと僕とアイスの間に巨大な紫水晶の壁が生まれた。僕たちは完全に遮断されてしまう。


「これで邪魔者はいなくなったであるな。我が用があるのは貴様だ」


 クラウザーがそう言って僕の方に歩み寄ってきた。スイムが僕の頭の上に飛び乗り、アイスのことを気にしている。だけどこのままじゃどっちにしろアイスを助けることは叶わない。


 先ずはこのクラウザーを何とかしなきゃだ。


「さて、我が主は貴様に興味があるようだがどんなものか見せてみるがいい」

 

 そう言ってクラウザーがパチンッと指を鳴らした。鋭利な紫水晶が天井から生え僕に向けて雨のように降り注いできた。


「水魔法・水守ノ盾!」


 僕は水の盾を生み出し降り注ぐ紫水晶から身を守った。大丈夫これならまだ対処出来る。


「中々やるでないか。ならばこいつらでも相手してもらおう」


 クラウザーが更に指を鳴らすと今度は地面から生えた紫水晶が騎士の姿に形を変え僕に襲いかかってきた。これはゴーレムみたいなものか。


 それを紫水晶で生み出したんだ。このゴブリンは紫水晶を自在に扱う能力を持っているようだ。恐らく黒い紋章の力だと思う。


「これはどうであるか?」


 クラウザーは更に指を鳴らし僕の足元から尖った紫水晶が突き出す。紫水晶の騎士も迫り手に持ったランスで攻撃してきた。


「水魔法・一衣耐水」

 

 水の衣を纏いダメージの軽減を狙う。勿論僕自身もまともに攻撃を受けないよう立ち回りたいけど、結局僕は魔法師だ。


 フィジカル面ではガイやエクレアに劣る。


「スピィ!」


 スイムが鳴いた。地面から生えた紫水晶と騎士のランスを同時に受けたからだろう。攻撃を受けた僕は後方に飛ばされ地面に叩きつけられた。


 くっ、水の衣のお陰で抑えられているとはいえノーダメージというわけにはいかないか。それでも致命傷に至ってないのは新調したローブのおかげでもあると思う。


「ふむ。こんなものか。少しは期待できるかと思ったのだがな」

「何勝った気でいるのさ。寧ろ距離が離れたのは好都合だよ!」

 

 僕はすぐさま立ち上がり直接クラウザーに杖を向けた。こいつの力は厄介だけど、本体さえ叩いてしまえばいいだけだ。


「水魔法・重水弾!」

 

 圧縮された水の塊がクラウザーに向けて突き進む。あいつも身体能力が高そうには見えない。これはきっと躱せない、と思っていたけど甘かった。


 クラウザーが指を鳴らすと紫水晶の壁が僕の魔法を受け止めた。


「小賢しい」


 クラウザーがやれやれと手を広げ呆れたように言った。紫水晶の壁か――中々厄介な上、再び紫水晶の騎士が僕に迫ってくる。


「スピィ!」


 スイムが叫び水弾を飛ばした。騎士に当たり発火する。スイムの得意技だ。だけど騎士は燃えたまま構わず突っ込んでくる。


「水魔法・水柱!」


 とっさに魔法で水の柱を生み出す。その上に乗ってなんとか騎士の攻撃から免れた。騎士はそのまま水柱に突っ込み直進した。


「スライム風情がやってくれる。だが無駄であったな。所詮雑魚のスライムの考えることだ」

「スピィ……」

「取り消せ!」


 クラウザーのセリフにスイムが細い声を上げた。落ち込んでいるスイムを見て僕の感情が爆発した。


「スイムは僕のために一緒に戦ってくれているんだ! スイムは僕の大切な友達。雑魚なんかじゃないし無駄なことなんて無い!」

「スピィ~――」

「大丈夫だよスイム。ありがとうね」


 頭を撫でてスイムに感謝の言葉を伝える。ただスイムの元気がない。クラウザーに言われたことを気にしているのか。


 スイムの力が役に立たない。あいつはそんなことを言っていた。だけど本当にそうなのか?


 僕はスイムの攻撃を受けた紫水晶の騎士を見た。そこで気がついた。よく見ると鎧状の紫水晶が歪んでいた。これは――

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