第179話 納得しないレイル

「貴方、いきなり攻撃を仕掛けるなんて何を考えているのよ」


 シルバがレイルの動きを止め、ビスクはその行為に非難の声をあげた。しかしレイルの怒りは収まらない様子だった。


「黙れ! ロイドを殺したのはこいつに決まっている! こいつらは元々ロイドと揉めていた。だから試験の合否で決着をつけることになっていたが、こいつは無能な水の紋章持ちだ。まともにやっても勝てないと思い不意打ちでもして殺したのだろう! ゴミが!」

 

 レイルが犯人は僕だと決めつけてかかっていた。勿論それは違うし試験官の二人の調べでそれはわかってもらえているんだけど、弟の死を受け入れられないようだよ――


「スピィ! スピィ!」

「いい加減にして! ネロがそんなマネするわけないじゃない!」

「そうねエクレア。本当にそのとおりよ。それなのにネロに向けて危険な真似――あんた、そんなに燃やされたいの?」


 レイルの言動にスイムもエクレアも憤慨している様子だった。その上、フィアまで話に加わってきて怒りを顕にしてくれている。

 

 というか魔法の発動準備に入っているよ! いやいや流石にそれは洒落にならないからね!


「落ち着いてフィア。こんなところで貴方の魔法をぶっ放したら関係ない人にまで迷惑掛けちゃうし、狙うなら闇討ちとかのほうが」

「どさくさにまぎれてセレナまで何いってんだ――」

 

 セレナがフィアの肩に手を添えて宥めてくれた、のかと思ったけど物騒なことを口にしていたよ! ガイも引きつった顔を見せてるし!


「そこまでよ。とにかくレイル。試験と関係ない暴力は許されることじゃないわ。このままその武器を収めないと言うなら私たちの権限で失格にするわよ」

「くっ――だったら今すぐこいつを捕まえろ! ロイドはこいつの私怨で殺されたんだからな!」

「おい。お前ネロのことも知らないくせに勝手なことばかりほざいてんじゃねぇぞ。いい加減俺も切れるぞコラッ!」


 ガイがぐるると唸り声をあげながらレイルに言い返してくれた。まさかガイからこんな言葉が聞けるなんて……ちょっと感動したよ。


「どうみても私情を挟んで決めつけてるのは貴方よレイル。それにさっきも話したとおり残留魔力の性質はネロと異なっていた。私の見立てではその時点で彼はシロよ」

「そんなもの魔導具でなんとでもなるだろうが!」

「それもしっかり調べたんだよ。ネロの持ち物からは怪しいものはみつからなかった。まぁ念のため後で一緒に来ていた女とスイムもチェックするがな」


 シルバが頭を掻きながら答えていた。面倒くさそうな感じだけどね。ただ僕のことでエクレアとスイムにまで疑いが掛るのは申し訳なく思う。


「私は今すぐでもいいわ。それでネロの身の潔白が証明されるならね」

「スピィ~!」

 

 だけどエクレアもスイムもチェックには応じると言ってくれていた。皆が僕の潔白を信じてくれていて胸が熱くなるよ。


「とにかく、今後の試験については管理局の判断待ちとなります。とりあえず今日のところはこの場で留まってもらう形になるけど、決定に時間が掛るようなら一旦解散とし連絡を待ってもらうことになるからそのつもりでお願いね」

「おいおい勘弁してくれよ。だったら何のために素材を集めたんだよ」

「そんなことを言っても仕方ないでしょう。ここはギルドの判断に従わないと」

「いやいや、そもそも戦いもありの試験なんだからよ。生き死には十分ありえることだろう」

「だから試験とは関係ない殺人だったから問題なんでしょう」


 周囲が喧々諤々していた。レイルの暴走、それを制止しようとするビスクたち。そしてギルドの判断に従うべきとの意見が出されたりなどで聞いていた冒険者たちも様々な反応を見せていたよ。


 とはいえ、この場で文句を言っていても仕方ないのは全員わかっていたようで、結局は一旦は中断を受け入れ野宿の準備に入っていったよ。


「――覚えておけ。俺はお前がやったと考えているからな」


 レイルも一旦は武器を収めたけど、僕への疑いは晴れていないようだね。


「本当に大変なことになったよね。君も災難だったね」


 僕に声をかけてきてくれたのは仮面人格のリーダーであるライトだった。他の三人も彼に付き添っているけど、話しているのは主にライトだね。


「あぁ、そういえばお前たちにも話を聞きたかったんだ。ネロに聞いたが、奇妙な仮面を被ったのが現れたと言う話だがそれは本当なのか?」


 ライトと話しているとシルバが話に割り込んできて彼に聞いていた。そう、今回の件は皆と逸れたことも含めて伝えていたんだ。


 ただその人物についてはビスクの話には出てきてなかった。下手にその話をして、不信感が増しても良くないと思ったのかも。


「あぁ、本当さシルバ試験官」

「その下面の人物に心当たりは?」


 ビスクからもライトは詰問されていた。仮面繋がりで何か知らないかと疑われているのかもしれないけど、そう考えたらちょっと気の毒かも。


「僕たちが皆仮面をしているからって疑われるのは心外だな。プライドが傷つくよ」

「それは悪かったわ。でもこういう状況だからそこは仕方ないと諦めて欲しいわね」


 そう答えつつ、ビスクは動物たちの反応を見ているようだった。


「反応がないわね。少なくともロイドが殺された時にいた人物とあなた方とは関係ないと言えるのかもね」

「わかってくれて何よりだ」


 ライトが右手を回すようにしながらビスクに頭を下げた。そんな彼の後ろから今度はノーダンの声が響く。


「たく、面倒なことになっちまったもんだな。それで俺らはどうしたらいい?」

「そうだな。で、お前らがやったわけじゃないだろうな?」

「やるわけないでしょう! そもそも私たちはそこの勇者パーティーに挑まれてつきあっていたわけだし」

「そうだ。俺たちには不可能」

「ヒック、まぁそういうわけだ。そもそも俺らにロイドを殺す理由がないからな」

 

 赤らめた顔のノーダンが答えた。猛獣狩人はそもそもロイドとも面識がない筈だし、確かにこんなことをする理由がないよね。


「お前――凍したのか?」

「へ?」


 すると今度は僕の横から声が掛かった。見るとアイスが僕を睨みながらそんなことを聞いてきたよ。

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