第177話 試験中断
とりあえず一旦は僕の疑いは晴れたよ。その後はビスクが鳥を操り更に鳥を通して試験中の冒険者にメッセージを送った。
獣の紋章は動物を操れる紋章みたいだけどこんな風に離れた相手にメッセージを送ることもできるのか。
「この後、試験はどうなるんですか?」
「そうね――とりあえず通信用魔導具を使って管理局の判断を待つことになると思うわね」
管理局――今回のCランク昇格試験を実施し冒険者ギルドを統括している組織だ。とはいえ僕は管理局に関してはそこまで詳しくなかったりする。
基本的なことは冒険者ギルドで済んでしまうからお世話になることもないんだよね。
「はぁ、面倒だな。このまま試験を続ければいいじゃねぇか。事後報告にして」
「いいわけないでしょう」
呆れ顔でビスクが言った。僕もどんな顔をすればいいのか……それからロイドの遺体については袋に詰められ安全な場所に移された。
一応いざというときのために死体の腐敗や損傷を防ぐ用意はされているらしい。
「ネロ! 良かった無事だったんだね!」
「スピィ~♪」
「エクレア! スイム! 良かった無事で」
しばらくして先ずエクレアとスイムが戻ってきてくれた。離れ離れになって心配だったけどどうやら怪我はないようだ。そしてすぐ後ろには――レイルの姿もあった。
「突然集合だなんてな。一体どういうことだ? まさかもう試験終了ということはないだろう?」
不機嫌そうにレイルが聞いてきた。正直僕とロイドが戦っていた時間を考慮してもそこまで時間が経っているわけじゃない。
そう考えたらレイルの疑問ももっともだよね。そして僕はなんとなく彼と目を合わせづらかった。
「――試験は一旦中断になると思うわ。理由は全員集まってから話します」
「は? おい! 中断とはどういうことだ? それにロイドが見当たらない。どこにいる?」
「…………」
レイルの疑問に答えるべきが迷った。チラッとビスクに目をやると首を左右に振っている。レイルにも後で事情を話すと答えている以上、僕から話すわけにもいかないのだろう。
「全く一体何だってんだ?」
「せっかくいい獲物を見つけたというのに」
そうこうしているうちに冒険者達が戻ってきた。全員どことなく不満そうでもある。
「たくっ詳しい事情を知りたいもんだな」
「早く言え。凍すぞ!」
えっと、アイスも連れの冒険者と一緒に戻ってきたね。何か凍すといいながらも凍ったリンゴをシャリシャリかじっているよ。
「やぁ君たち無事でよかったよ」
そして仮面人格のライトにも声をかけられた。聞くとあの仮面を被った人物でライトも飛ばされたらしいけどちょうどよく仲間と合流できる場所だったようだね。
とにかく怪我はないことを伝えたわけでライトは安堵している様子だったよ。
「さて全員集まったか?」
シルバが冒険者たちの姿を見ながら呟いた。だけど肝心の皆がまだ来ていないんだ。
「えっと、ガイたちがまだ……」
「ガイ? あぁ俺に挑んできたあいつか。たく何やってんだ?」
「待って。そういえば猛獣狩人の三人も来てないわ」
猛獣狩人――先に森に来ていたというCランク冒険者パーティーのことだね。
「ヒック、うぃ~呼んだか? ギャハハ」
「くそ、酒くせぇな。てか肩抱くな!」
「はぁ。全く見事にやられたわね本当に」
「――勝負に勝って試合に負けたとはまさにこのことだ」
「おいおい。誰が負けたってヒック。馬鹿なことを言ってんじゃねぇぞゲリクサイ」
「ゲッタソイだ臭くない!」
「泣かない泣かない」
ビスクが話に出した直後、猛獣狩人の三人とそれにガイたちが一緒になって戻ってきた。
これってどういう状況なんだろう?
「一体何があったのよ?」
僕の疑問を引き継ぐようにビスクが戻ってきた皆に聞いてくれたよ。
「こいつらが俺らの素材を奪おうとやってきたからな返り討ちにしてやったんだよ」
「――チッ、てやめろって!」
筋骨隆々の男性、確かノーダンという名前だったよね。彼がガイの髪をつかんでわしゃわしゃと撫で回した。ガイは腕を振り回しているけど、構わずノーダンは笑っていた。
返り討ちにしたという話だけど、ちょっと打ち解けているように見えるね。ガイもそこまで嫌がってなさそうだし。
「ほう? 格上の素材を奪おうとしたのか。そういうのキライじゃないぜ。ま、その様子だと結果は聞くまでもないか」
「確かに勝負はノーダンが勝ったんだけどね――結局素材はとられちゃったのよね」
「うふふ――」
ため息混じりにババロアが言うとガイの隣のセレナが笑顔を見せた。
「全くセレナも大したものよね」
そう言ってフィアも苦笑している。どうやらセレナの力で猛獣狩人の素材を奪ったみたいだね。一体どうやったんだろう――
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