第176話 試験官の調査
「――どうやら本当に死んでいるようだな」
今、僕の目の前では試験官のシルバとビスクがロイドの遺体をチェックしていた。
ロイドの死を認めた後、僕は一旦集合場所まで戻り二人に報告したんだ。そしたらすぐに二人は動いてくれて遺体の場所まで案内するとすぐに調査が始まった。
シルバは傷口を確認しビスクは使役した動物を活用して色々調べているようだよ。
「背中から胸部にかけて貫かれているな。傷口は小さいが的確に急所を狙っている」
それがシルバの見立てであった。予想はしていたけどやっぱり後ろから狙われたのか。
「私も確認するわね」
シルバの後ビスクもロイドの遺体をチェックしていた。その間シルバから僕への質問、というよりは尋問が始まる。
「それで。お前がここでロイドと争っていた理由は? 素材を取るのが目的なら素直に言ったほうがいいぜ。冒険者同士の戦いも想定した試験だ。命のやり取りに発展することも少なくないが試験の中での事なら罪にはならないんだからな」
シルバが諭すように言ってきた。確かに僕とロイドがここで戦っていたのは事実だ。だけど決着はついていたし僕は命まで奪うつもりはなかった。
「違います。僕はロイドの死を望んでいたわけじゃないし皆にちょっかい掛けるのをやめてもらえればそれでよかったんです」
「ちょっかい?」
シルバが怪訝そうに眉を顰めた。なので今回の件について説明する。
「なるほどな。つまりお前らにはこの試験前から因縁があったってわけか。しかしお前はバカ正直な奴だな」
「え?」
僕が説明するとシルバが呆れたようにそう口にした。少しでも調査の役に立てばと思って答えただけだったんだけど……。
「あのなぁ。お互い面識がないという話ならそこまで疑われない話だろうが、今の話を聞いてしまえばお前にも動機があったという話になるだろう? 確かにこういう時には正確な情報も必要だが冒険者ならもう少ししたたかに立ち回ってもいいと思うぜ」
う、たしかに言われてみれば。だけど、ここで下手にごまかしてあとでそのことで追及されても困るし。
「全く何馬鹿なことを言ってるんですか。素直に話してくれるならそれに越したことはないでしょうに」
ため息混じりにビスクが言った。犬が数匹ついてきている。どうやら彼女も一通りの調査を終えたようだね。
「それでどうなんだ? やったのはこいつか?」
「えぇ!」
シルバが僕を指さしながらそんなことを言い出し驚いた。僕がやった前提みたいに言われて焦ってしまう。
「何だ不服か? だがな、こういう時に疑うのも俺等の仕事なんだよ」
シルバが僕の反応を認めつつ答えた。確かにそう言われてみればそうかもしれない。犯人じゃないなんて言葉をそのまま信じていたら事件も解決しないだろうし。
「ま、そこに関しては同意ね。ただロイドを殺害したのはその子じゃないと思うわ」
ビスクはシルバの意見に同調しつつも、僕が犯人である可能性は否定してくれた。
「ふ~ん、何でだ?」
「そうね。まず貴方、確か水の紋章持ちよね?」
「は、はいそうです」
ビスクの問いかけに答えて僕は左手の紋章を見せた。そこにはしっかり水の紋章が刻まれている。
実は右手の甲にも賢者の紋章があるのだけど、これは僕とエクレアとスイム以外には視えないようなので黙っている。ギルドマスターのサンダースからも気をつけるよう言われているのもあるけどね。
「確かに水の紋章ね」
「おいビスク。まさかと思うがこいつが水の紋章持ちだから殺害は不可能と言うつもりじゃないだろうな? 確かに水の紋章持ちは不遇扱いだが試験に挑んでいる以上、ある程度の強さはあるはずだ。紋章のイメージだけで決め付けるのは感心しないぜ」
「そんなことは当然わかっているわよ」
ビスクが肩をすくめシルバの考えを否定した。
「私が言いたいのはまずこの傷口についてよ。この傷には水の痕跡が全く感じられない。もし水魔法で殺害したなら水の痕は残るはずよ」
「水の痕か――しかし出血と混ざっただけかもしれないぜ」
「それなら私の使役している動物たちが気づくわよ。それに魔力についてもそうね。この傷から感じられる魔力とその子から感じられる魔力の性質は異なっている。もし同じならこの子達が反応するもの」
そう言ってビスクが犬たちの頭を撫でた。魔力の性質――魔力には個人差がある。なので事件が起きた時には残留魔力を調べることが事件解決の鍵となる、といった話は聞いたことあるね。
「動物は人よりも優れた感覚を持っているわ。魔力の性質を嗅ぎ分ける力もある。だからこの傷から感じられる魔力とその子の魔力が違うのは間違いないわよ」
「そうか。ま、お前がそういうんならそうだろうな。良かったなとりあえず俺等からの疑いは晴れたぞ」
「あはは……」
確かにそれは嬉しいけどね。ただあくまで二人からはというのは気になるところではあるんだけどね――
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