第66話 追い詰められた勇者
「どうした? 威勢が良かったわりに随分とボロボロじゃないか」
「畜生が――」
ガルが狡猾な笑みを浮かべた。視線の先ではセレナを庇うようにして血だらけになったガイが立っている。
だがセレナも決して無事ではない。周囲を鋭い牙の生えたキャベツやトマトに囲まれていた。ローブには血も滲んでいる。何箇所か噛まれたからである。更に顔色も相当悪い。かなり弱っている様子だが怪我の程度を考えると症状が重く感じられる。
セレナに治療してもらい戦線に復活したガイだったが、ガルは彼の弱みに付け込み育った醜悪な野菜を利用しセレナを中心に狙い始めた。その結果ガルに効果的な手段を発揮できずガイは傷つくばかりであった。
「やれやれ勇者というのも実際大したことなかったな。この処刑リスト間違ってるんじゃないだろうな?」
ガルが大げさに頭を振ってみせた。あからさまな態度に出てガイを小馬鹿にし狙いが勇者ガイであったことを示すように口にした。
「はぁ、はぁ、処刑、リストだと?」
「あぁそうだ。まぁ貴様らが詳しく知る必要はないさ。どうせ俺に殺されるんだからな」
「そう、かよ! 勇魔法・大地剣!」
地面に剣を突き立てるとガルの足元から巨大な刃が飛び出した。だがガルは読んでいたが如くそれを避ける。
「ハッ、また馬鹿の一つ覚えみたいな魔法か」
「勇魔法・天雷!」
小馬鹿にするような態度を見せるガルであったが、そこに追加の魔法が炸裂。天から放たれた雷がガルを撃った。
下を意識させてからの上からの雷。これにはガルも反応できなかったようだが――しかし全身から煙を上げながらもガルは魔法に耐えていた。
「くそ! 効いてねぇのかよ!」
「残念だったなぁ。お前の体力が万全なら今のはやばかったかもしれないが、お前は俺の野菜に噛まれている。そいつらの好物は人の生命力や魔力――その効果でお前の肉体は着実に弱まっているんだよ」
ガルが得々と語ってみせた。ガイが唇を噛みセレナを見る。彼女が相当弱っている理由も得心がいった。勿論ガイとて危険な状況だ。
「さて次はみんなが嫌うピーマンだ」
畑からボコボコ姿を見せたのは文字通りピーマンだった。血走った目玉が飛び出ておりその様相は醜悪そのものである。
「ピーマンは可哀想だよなぁ。苦いというだけで嫌われがちだ。悲しいよなぁピーマンも。だからピーマンは怒ってるんだぜ? ピーマンはよぉおぉおぉおお!」
ピーマンが一斉にガイに襲いかかる。
「クソが! ピーマンは大嫌いんだよ!」
そしてガイもまたピーマンが嫌いな中の一人だったようだ。迎え撃つ体勢に入るがピーマンは筒状の腕を構え細かい種を連射してきた。
「ぐっ、こ、こいつ!」
剣を振り回すもピーマンはガイの射程外から攻撃を仕掛けてくる。
「全く勇者ともあろうものが無様だなぁ。いやぁもう勇者でも何でもないか。さっきからパニックに陥って逃げてきてる連中は畑に引きずり込まれるか野菜に喰われる始末だ。何も守ることが出来ねぇとは本当糞の役にも立たない勇者だ。しかも大事な女も守れない情けねぇ情けねぇ情けねぇ情けねぇ」
「ふざけんなテメェ! 野菜のカゲに隠れやがってテメェがかかってきやがて!」
「見苦しいねぇ。言い訳がましいねぇ。そんなにその女が大事か? 庇ってるから逆にお前がこっちにこれないだけだろう? 結局お前は自分に自信が持てない根性なしってことだ。俺を倒せば畑も消えるってのにビビって何も出来ねぇ腰抜けが――」
「それが聞きたかったぜ!」
ガルの言葉に反応し湯者ガイが飛び出した。瞬時にピーマンを切り倒し、ガルとの距離を詰めにかかる。
「一発で決めてやる! 武芸・勇心げ――あ?」
決死の覚悟で飛び出し最大の技で決めようとしたガイだったが、その動きがピタリと止まった。背中に何かが突き刺さっていたからだ。高速で飛んできたソレは――キュウリだった。勿論ただのキュウリではない。先端が槍のように尖った凶悪なキュウリだ。
「かかったな馬鹿が! お前みたいな奴はこうやって煽ればすぐに飛び出してくると思ったぜ!」
「ち、くしょう、が――」
ガイが前のめりに倒れる。それを見下ろし近づいてきたガルが頭をグリグリと踏みつけた後その顔を持ち上げた。
「さて、テメェを始末するのは簡単だが、その前に楽しいショータイムだ。見ろあの女を囲んでるのが何かわかるか?」
「……スイカ、だと?」
「あぁそうだ。スイカだ。勿論ただのスイカじゃねぇぜ? あれは言うならば爆弾スイカ。その名が示す通り獲物の近くで派手に爆発するスイカだ。面白いだろう?」
ガルからスイカについて聞かされ勇者ガイがクワッと両目を見開く。
「やめ、ろ、やめろクソが!」
「あっはっは! いいねぇその顔。散々勇者だなんだとチヤホヤされて調子に乗ってきたんだろうが現実は非情だねぇ。大切な女も守れず目の前で爆死するのを黙って見過ごすしか出来ないんだからなぁ」
「やめろ、やめてくれ、頼む、やるなら俺を殺しやがれ!」
「あぁ殺すさ。当然だろう? だけどその前に仲間が死ぬのをせめて目に焼き付けておけって話だ。さぁカウントダウンだ。あと10秒、9、8、7、6、5」
「畜生が! くそが! うぁああぁああああ!」
「ははは、暴れたって無駄だ無駄! さぁ後3秒2秒1――」
カウントが0に近づきスイカが膨張し光始めたその時だった――畑に向けて大量の水が流れ込んできてスイカを含めた野菜を纏めて洗い流していった。ガルの目が点になり、ガイの悲鳴も止む。
そして姿を見せる水色髪の少年の姿――
「何とか間に合ったね。ちょっとだけ荒っぽいことになったけど――無事かい? ガイ」
「ぐっ、うぅうう、ネロぉぉおお!」
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