第65話 襲う野菜

 ガイの眼の前では畑から勝手に飛び出てた薄気味悪い芋が勢ぞろいしていた。芽ではなく眼が生えたような存在であり根が手足のように伸びている。


「どうかな? この俺が育てた作物は。とってもいい出来だろう?」

「ハッ。テメェのように性格が捻くれてそうな芋だぜ」


 笑って問いかけてくるガルに勇者ガイが目を尖らせていい返す。


「ははは。性格のことはお前には言われたくないな」

「あん?」

「まぁ否定はできませんね」


 ガルが嘲笑しながら反論し勇者ガイが不機嫌な顔を見せた。だが聞いていたセレナは性格については納得してるようである。


「お前どっちの味方なんだよ!」

「プイッ」

「くっ、なんなんだ!」

 

 セイラは何かガイに不満がありそうだ。当の本人はそれがなんなのかさっぱり理解出来てないようだが。


「はは、おふざけはここまでだ。さぁたっぷりと味わえ。俺の育てた芋をな!」


 目玉のついた芋がガイに向けて一斉に襲いかかってきた。剣を構え向かってきた芋に向けて一閃―芋はあっさりと切り捨てられた。


「ハッ、何かと思えばただの雑魚じゃねぇ――」


 強気な発言を見せるガイ。だが地面に落ちた芋から紫色の煙が立ち上る。


「ゴホッ! テメッ、何だこれは!」

「ははっ。何だ知らないのか? 本来芋には毒が含まれているもんさ。そして俺が育てた芋は特に毒性が強い」


 咳き込むガイを眺めながらガルがほくそ笑んだ。畑から飛び出た芋は直接戦うのではなく敢えてやられることで毒を周囲にばら撒くタイプだったようである。


「ぐっ!」


 ガイが跪き皮膚が紫色に変化していった。その様子にセレナの顔色が変わる。


「ガイ! 今治すからね。生魔法・解毒!」


 セレナが魔法を行使。するとガイの顔色が再び良くなっていった。


「はぁ、はぁ、助かったぜ」

「はは、そういえばお前は回復魔法が得意だったな。へぇ……」


 ガルが真顔でセレナを見やる。


「やべぇ! 逃げろセレナ!」

「はっはっは。悪いが遅いねぇ。一鍬掘り!」


 ガルが畑に向けて鍬を振り下ろすと直線状に衝撃が駆け抜けた。


「アブねぇ!」


 ガイがセレナを突き飛ばす。だがガイは避けるのが間に合わずまともに攻撃を受けてしまった。


「ガイ!」


 天高く舞い上がるガイを目にしてセレナが絶望に近い声を上げた。回転しながら落ちてきたガイに駆け寄り急いで回復魔法を掛ける。


「おお、向こうにもいい肥やしがいたようだなぁ」

「え?」


 額に手を持っていき何かを眺めながら口にするガル。魔法で治療しながらガルの視線の先を見やるセレナ。そこで気が付いた。直線状に掛けぬた衝撃に沿って畑が出来ていたことを。


 そして――


「キャァアアア!」

「ひ、ひぃいい! 人食い畑ぇえええ!」

「やめろ! 離せ離せぇええ!」


 それは畑から伸びた根が近くにいた人に絡みつき畑に引きずり込んでいく光景だった。


「皆さんその畑には近づかないで!」


 畑に引きずり込まれていく人々を認め、セレナが声を張り上げた。人々に危険を知らせるつもりだった。


「ふ、ふざけるな! 街中で頭のおかしな奴らが暴れてるのにこんなところで足止めされてたまるかよ! 俺は一人でも渡るぞ!」

「俺もだ!」

「こんなもの飛び越えればいいだけよ!」

「ダメです待って!」


 セレナには何故人々が慌てているのかわかっていなかった。そして冷静さを失った人々は畑を無理矢理進もうとするが足を踏み入れれば呑みこまれ飛び越えようとしたなら根によって引きずり込まれていく。


「あっはっは! いいねぇ。どうやら仲間がいい仕事したようだ。向こうから畑の肥やしがやってきてくれるぜ! さぁいい感じに作物も育ってきたぞ!」


 先ず畑から巨大な大根が姿を見せた。やはり大量の目玉の生えた大根であり、足の部分が異様に太く逞しい。かと思えば大根が足を振り回し逃げてきた人々を襲い始めた。


 更にかぼちゃが頭になったような異形も姿を見せる。こちらは口があり火を吐いて辺りを燃やしていく。


 かと思えばパタパタと跳ぶキャベツやトマトも現れそれらがセレナに襲いかかる。


「ハッハッハ! 最高だ! 普段は食う側の人間が野菜に襲われ喰われていくなんて最高のショーじゃないか!」

「うぉおお!」


 愉悦に顔を歪めるガル。その時勇者ガイが立ち上がり迫る野菜を切り裂いていった。


「ガイ!」

「――助かったぜセレナ。後は俺に任せやがれ! こんなクソ野郎俺がぶっ潰してやる!」

「ハハッ。威勢だけはいいなこのエセ勇者が――」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る