第59話 ライアーの実力

「そんなさっきまでそこには風の紋章があったはずなのに」

「えぇ。それもごまかしだったんだ。でも、紋章が消えるなんてね」

「え? 消える? えっと黒い紋章が視えない?」


 フィアに確認した。僕には確かにライアーの黒い紋章が視えている。


「黒い紋章? 視えないけど……」

「私には視えるよ。凄く禍々しい紋章」

「スピィ!」


 どうやらエクレアには紋章が視えてるらしい。これはやっぱり僕の賢者の紋章が視えるようになった影響だろうか。そういえばスイムも反応している。


「――やっぱりあんはんにはこれが視えてるんやな。しかし驚いた。そっちのエクレアはんにも視えてるなんてなぁ。ま、どちらにせよわいらには邪魔や。全員始末させてもらうで」

「――ッ!?」


 空気が変わった。ライアーの殺気が膨れ上がっていく。本気で僕たちを、殺すつもりなのか。


「――町の人がおかしくなったのもあんたの仕業ってことでいいのね?」


 力のこもった声でフィアが問う。そうか――この状況で黒の紋章が刻まれた相手だ。町の騒ぎに関係していてもおかしくない。


「さぁ? どやろか。ま、関係ないやろ。お前らはここで死ぬんやで?」

「そう簡単にやられるわけないでしょう! 爆魔法・爆裂破!」


 ライアーの立っていた場所に爆発が生じた。フィアの魔法によってだ。彼女の魔法は爆発を引き起こす。破壊力だけで見るなら勇者の紋章を持つガイにも負けていない。


「おお、こわ。全く遠慮ないんやなぁ」


 だけどライアーは魔法が来ると呼んでいたのか後方に逃げていた。ダメージは無さそう。


「勘のいい奴ね。でも次は外さないわよ」

「へぇ。随分と自信があるんやな。せやけど残念。その魔法わいも使えるんやで」

「は?」


 ライアーの発言にフィアが怪訝な声を発した。フィアの紋章は希少だ。そうそう使えるのはいないはずだけど――


「なにそれはったり?」

「はは。実際にその目でみたらえぇ。言うておくけどわいの魔法の方があんさんより強力やからな。爆魔法――」


 ゾワッと悪寒が背中を走る。嫌な予感がする。


「みんな離れて!」

「爆裂破――」


 大急ぎで僕たちが後方に逃げると僕たちが立っていた場所から凄まじい轟音が鳴り響いた。熱気と衝撃が駆け抜け勝手に体が仰け反り飛ばされてしまう。


「くっ、みんな大丈夫?」

「スピィ……」

「な、なんとか」

「そんな――本当に私と同じ魔法が――」


 エクレアもフィアも無事みたいだ。僕もかすり傷程度だけど――路地は大変なことになっていた。


 左右に立っていた建物が破壊され道が無理矢理拡張されてしまっている。


 しかも爆発が起きた地点には大きな窪みが出来てしまっていた。


 最初のフィアの爆発も威力は高かったけどここまでではなかった。本当にあの男の魔法の方が威力が高い。


「どや? わいの力は?」

「はぁあぁあぁあああ!」


 得意がるライアーに向けてエクレアが疾駆した。鉄槌を手に距離を詰めると槌に電撃が迸る。


「中々やな。せやけどわいの動きはもっと速いで」


 動きが速い――魔法だけじゃなくて体術も使いこなすってことなのか?


「関係ないわ! 武芸・雷撃槌らいげきつい!」


 跳躍し振り下ろした鉄槌がライアーを捉える、かと思えば風のような素早い動きでエクレアの鉄槌から逃れてしまう。


「言うておくけどわいに電撃は利かへんで!」


 鉄槌を振り下ろした直後地面を伝って電撃が放射状に広がった。ライアーも電撃を浴びるけど――平然とそこに立っていた。


「う、うそ。どうして?」

「言うたやろ? わいに電撃は利かへん。それだけやない。あんはんの技もわいは使いこなせるで。今の技より強力なのをや」

「馬鹿言わないで。この技は槌と雷のあわせ技なのよ」

「それをわいは拳でやるんや。雷撃拳としてこうやってな! 武芸・雷撃拳らいげきけん!」


 ライアーが地面を殴りつけるとエクレアがやったように、いやそれ以上の電撃が広がった。


「きゃ、きゃぁああぁあ!」

「エクレア!」

「スピィ!」


 電撃でエクレアが大きく吹き飛んだ。まずい咄嗟に飛び出した僕は水の鞭を生み出し飛んできたエクレアを受け止めた。


 けど、僕も大きくバランスを崩して地面に倒れることになった。でもクッションにはなれたかな。だけどあいつ、フィアの魔法だけじゃなくてエクレアの技も使いこなすなんてそれが黒い紋章の力なのか――

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