第58話 助けを求められるネロ
「いや良かった。探してたんですよ」
「僕たちをですか?」
あの細目の男性が駆け寄ってきて安堵した様子で言った。どうやら僕たちに用事があったようだ。
「えぇ、あ、前はいい忘れていたけど僕、ライアーいいます。それで見ての通り突然人々が暴れだして、それで友達のガルが大変な目にあっていて助けて欲しいんです!」
ガル、そうかもう一人の桑を持った男性だね。
「――貴方その友だち置いてきたの?」
するとフィアが険しい目つきで問いかけた。確かに今の話を聞くに、彼が一人で来てることを考えるともう一人を置いてきたのかもしれないけど緊急事態でどうしようもなかったのかな――
「その情けない話ですが、あ、ただ通りがかった冒険者に助けてもらったんです」
なるほど。そうだったんだ。確かに今も暴徒を止めようと動いている冒険者の姿があるよね。
「だけど彼らも暴徒を相手するのは厳しいらしくて応援を呼んで欲しい言われて。自分も本当なら戦えればいいんですが、君には以前僕の紋章について話したよね?」
「えぇ。風の紋章でしたよね」
以前の話を思い出しながら答えた。するとライアーが手の甲に刻まれた紋章を見せながら答えてくれた。
「そうです。だけど自分はそもそも戦いとか興味なかったんで紋章の力とか使えないんです。そこで貴方達の事を思い出して――ですからお願いです! 友だちを助けてください!」
必死に助けを求めるライアー。流石にここまで言われたら放っておけないよね。
「わかりました。案内してください!」
「スピッ!」
「はい! こっちです!」
「急ぎましょう」
「……」
ライアーが先頭を走って案内してくれた。結構足が速いね。
「あの路地裏に入ります!」
ライアーが途中で折れて路地裏に入っていった。表通りに比べたら少し狭い通路だ。この辺りは空きビルが多くて人も住んでない寂しい場所だった筈。
だから暴徒の姿もあまりない。それでここを選んだのかな?
「フィア、どうかしたの?」
エクレアがフィアに問いかけた。見るとフィアの眉間に皺が寄っていた。何だろう? 何か気になることがあるんだろうか。
「貴方、どうして私達があの辺りにいるってわかったの」
「――はは、わかりますよ。貴方は魔法師のフィアさんですよね? ラッキーなことに助けに入ったのは今をときめく勇者パーティーのガイさんとセレナさんだったんです」
「え? ガイが?」
「はい。それでガイさんが教えてくれたんです。仲間が食堂にいるってね。頼りになる仲間だから呼んできてくれと――」
「二人とも止まって!」
「え?」
「何?」
「スピィ?」
フィアが突然叫んだ。思わず僕たちが足を止めると火球がライアー目掛けて飛んでいき着弾――爆発した。
「えぇ! ちょ、フィア何を!」
「全くかなわんなぁ。何や突然危ないやないか」
え? かわなん、なぁ? それにやないかって――
「ずっとおかしいなとは思っていたわ。だいたい戦う力もなくて臆病風に吹かれて助けを呼びに来たなんて言っておいて、真っ先に前を走るなんて変でしょう?」
杖を向けてフィアが言った。爆発が収まった先には薄ら笑いを浮かべるライアーの姿があった。
「いやいや、それだけで疑われたんや、かなわんで」
「いや、てか何なのよその口調……」
「スピィ……」
エクレアとスイムはライアーの急変ぶりに戸惑ってるようだ。確かに口調も妙な感じだよ。
「そうかもね。でも貴方爪が甘いのよ。言っておくけどガイはそんな簡単に助けを呼べなんて言わないし、まして頼りになる仲間だなんて絶対に言わない。あいつ性格捻くれてるからね。断言してもいいわ!」
フィアが言い放つ。な、何か酷い言われようだねガイ――
「それともう一つ。あいつはこの程度の暴徒に苦戦するほど弱くはない」
あ、それは確かにそうかも……勇者の紋章を持つガイはそれ相応に強い。
「ハハッ、なるほどなるほどそこまでは頭まわらんかったなぁ」
するとライアーが開き直ったように笑い出した。
それを認めフィアが更に考えを述べる。
「そもそも私の魔法を避けた時点で戦う力がないというのが嘘だとわかるけどね」
そう言われてみればフィアの言うとおりだ。今の魔法を避けた動きは常人では不可能だと思う。
「――なるほど。やっぱ勇者パーティーは一筋縄ではいかんゆうことか」
そう言ってライアーが右手の甲を翳した。そこには既に風の紋章が消えていて、代わりに黒の紋章がハッキリと浮かび上がってたんだ――
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