第35話 ダンジョンで狙われる

「はぁ。本当こんなの極一部だって思いたいのに。ねぇ確認だけど君たち冒険者なんだよね?」

「――答える必要あるか?」


 僕が問うと、逆に聞き返された。これって、もしかして冒険者じゃない?


「お前は余計なことなんて知る必要ないんだぜ。どうせここで死ぬんだからな!」

「ま、あっちの女は持つようなら愉しませて貰うがな」


 こいつら――チラッと見てみたけど、強化したレッドベアは楽な相手ではなさそうだけど、気を引き締めたのかエクレアは上手く立ち回っている。

 

 それなら僕はまずこいつらを何とかしよう。どうやら僕が水属性だからって侮ってるようだし。


「こいつを倒すだけで一人100万だって言うんだからちょろいぜ。死ね!」


 100万? 一体何の事だろう?

 疑問に思っていると長柄の斧を持った男が攻撃を仕掛けてくる。後二人が持ってるのはナイフと鞭だ。


「水魔法・水守ノ盾!」


 目の前に盾が浮かび男の一撃を防ぎきった。


「な、何だこりゃ! こんなただの水に何で俺の武器が!」


 男が驚いているけど水の理を知らなかったのが仇となったね。


「水魔法・水鉄砲!」

「ガッ!」


 至近距離から行使したことで指から発射された水弾が纏めて男の腹に命中した。


 鎧が砕け男がゴムボールみたいに飛んでいく。この魔法近接だと侮れない威力だ。


「な、なんだこいつ! ただ水が使えるだけの雑魚じゃなかったのかよ!」

「し、しるかよ。とにかく二人でやるぞ!」


 一人が鞭を振り回し、もう一人がナイフをチラつかせながら動き回る。


 でも何だろう? 鞭使いの方はあまり怖くない。動きも拙いし――もしかして紋章に適した武器じゃない?

 

 可能性はあるね。鞭使いは魔獣を利用していた。だとしたらレアではあるけど獣使いの紋章持ちの可能性がある。


 話に聞いたことがあるだけで、見たことはないから手の甲にある紋章がそうとは断言出来ないけどね。


 ただ、その可能性は高いと思う。だとしたら鞭を使うにしてもそこまで恐れることはない。どうやらあのレッドベアを使役するのがやっとみたいだから他に魔獣がいる心配はなさそうだし。


「どこ見てやがる!」

「スピッ!」


 ナイフ使いが迫りスイムが注意を呼びかけてきた。こっちは間違いなく短剣の紋章持ちだろう。


「武芸・三方投げ!」


 ナイフ使いが同時にナイフを三本投げつけてきた。正面が一本、残り二本は横に広がるような軌道。


「水魔法・水ノ鞭」

「な!?」


 水で鞭を顕現しナイフを全て絡め取った。更に増やした鞭でナイフ使いを吹っ飛ばす。これでまず一人を無力化した。


 残ったのは鞭使い。だけどこいつは魔獣を扱うのがメインの筈。それなら本人は決して強くない筈だ。


「今、お前俺が弱いと思ったな?」


 鞭使いから問われる。まさに今僕が思っていたことだ。


「だとしたら大きな間違いだぜ。俺にはこれがある!」


 鞭使いが腕輪を取り出して装着した。腕輪には宝石が嵌っているけどこれは――


「スキル発動! 炎の鞭!」

「え?」


 突如鞭から炎が噴出した。しかもスキル――まさか!


「その腕輪に嵌ってるのはスキルジュエル!?」

「はは。よくわかったな」


 鞭使いが笑って答えた。スキルジュエル――ダンジョンでのみ手に入るとされている希少な宝石だ。スキルジュエルはミスリルなどの特殊な素材で作成された腕輪に嵌めることでスキルと呼ばれる特殊な効果が発動出来るとされる。


 確かスキルの効果は宝石の種類で変わるはず。効果が一番大きいのはSランクのダイヤモンド――あいつの腕輪に嵌ってるのは見たところサファイヤ。確かCランクだったはず。


 とは言え侮れない。あのジュエルのスキルは炎の鞭? あいつがそう叫んだだけだから実際そうかはわからないけど、確かに鞭がメラメラと燃えている。


「行くぜ!」


 鞭使いが鞭を振り回す。炎が追加されただけで厄介にも思える。


「ははは、ただ燃えただけだと思うなよ!」

「くっ!」

「スピィ!」


 スイムも怯えている。鞭を振るうと鞭から炎が広がる仕組みだ。その分間合いが広くなっている。


 ただでさえリーチの長い鞭でこれは厄介――僕が水でなければね!


「水魔法・放水!」

「なッ、何ぃッ!」


 魔法で水を放出し鞭に当てた。みるみるうちに火力が落ちていくのがわかる。


「残念だったね。水は火に強いんだ」

「ば、馬鹿なぁあぁあぁあああッ!?」

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