第10話 いざブルーフォレストへ

「お久しぶりでございますね勇者ガイ」

「ハイルトンか……」


 ネロと別れた後、ガイ達が歩いていると杖をついた執事風の男が近づき挨拶してきた。

 

 それを認めたガイが彼の名を呟きつつ険しい顔を見せる。


「ところで先程の様子を見させて頂きましたが、随分とネロと仲よさげではありませんか」


 片側の目にだけ掛けられた眼鏡を押し上げながら、冷たい笑顔を浮かべる執事。それを認めたガイが眉を顰めた。


「……覗き見とは悪趣味だなハイルトン」

「はは、旦那様もそろそろしびれを切らしておりましたからね。しかしどういうつもりですかな? あの塵がまだ生きてるとは」


 その態度はどこか高圧的であった。ガイも今まで見せてきたような強気な態度は消え失せやりづらそうに対応している。


「貴方にはあの塵の始末をお願いしていた筈です。それなのに話が違うようですが? しかもあのように和気藹々とされていると、こちらとしても見過ごせませんぞ」


 指でレンズを直しつつハイルトンがガイに指摘する。


「勘違いするな。仲良くなんてしていない。そもそもあいつは俺達のパーティーから追放してやったんだ」

「……ほう追放、ですか?」


 ハイルトンは片眼鏡を外し布でレンズを拭きながら、それで? と言わんばかりに言葉を返す。


「……勇者パーティーを追放されたとなればあいつの信用は地に落ちる。社会的に死んだも同然だ。これであの人も満足だろう」


 ガイがハイルトンに向けて告げる。その言葉からこれで手打ちにしたいという空気も感じられた。だが話を聞いたハイルトンが明らかな不満を示す。


「旦那様はそのような事を望んではいない。それぐらいお前たちだってわかっているはずだ」


 ハイルトンがガイに厳しい目を向ける。口調も変わり立場がどちらが上かを知らしめているようだった。


「旦那様はあのような無能の塵がこの世に生き残っているのが許せないのだ。屋敷から追放という形を取ったのは自らの手を汚すのも憚られる程の汚物だからに他ならない。それを追放?」


 片眼鏡を掛け直しながら噛みしめるようにガイの言葉を繰り返す。


「そのような中途半端なやり方で旦那様が満足されるわけがない。これは問題だぞガイ。まさか貴様旦那様に逆らうつもりではあるまいな?」

「……そんなつもりはない。だが考えても見ろ。俺たちはこれでもギルドで評判が知れ渡ってきている。そんな俺達が幾ら使えないからといって仲間を殺すなんて外聞が悪すぎる。あの人――ギレイル様も俺たちが活躍することで旨味があるはずだ」

「……確かにそれも一理ありますかな。アクシス家が目をかけてやったマイト家の貴様が勇者として活躍すれば旦那様も鼻が高いというもの」


 どうやらハイルトンはガイに対して一定の理解を示したようだ。


「――とは言え旦那様がそれで満足されるわけがない。それぐらい上手くやれないようでは余計な怒りを買うだけですぞ?」

「……チッ」


 ガイが思わず舌打ちする。ハイルトンはそんなガイを冷たく見つめていたが、ふと何かを思いついたように笑みを深めた。


「――ですが貴方のお気持ちもわかります。ですのでここは私もご協力致しましょう。その代わりと言ってはなんですが少々私にも見返りが欲しいところではありますが」

「は? 何を勝手に――」


 ハイルトンがそう持ちかけるもガイは納得していなかった。だがガイの返事を待つこと無くハイルトンがその場から消え失せる。


「ま、待てハイルトン!」


 ガイが叫ぶがハイルトンからの答えはなかった――






◇◆◇


 セレナが生命の水を作成してくれた後、町を出てブルーフォレストまでやってきた。


 ブルーフォレストは文字通り青々とした森だ。ここには樹木から葉っぱに至るまで色の青い植物しか存在しない。


 そしてここの特徴は、やっぱり植物系の魔物が多く出てくることだろうな。


「スピィ!」

「うん。あれはトレントだね」


 フルールは植物系の魔物が出るって心配してくれたけど、ここの魔物には結構間の抜けたタイプもいる。


 例えば今スイムが指摘してくれたトレントだけど、見た目は灌木で森に出てくると木々に紛れてとても紛らわしい。


 だけどこのブルーフォレストではかえって目立ってるんだよね。だってこの森の植物は青一色だから普通の樹木にしか見えないトレントはもうバレバレ。


「水魔法――水鉄砲!」


 魔法により僕の指から水弾が連続発射される。


「――ッ!?」


 僕の水鉄砲に撃ち抜かれたトレントは萎れたようになって朽ちていった。


 トレントは長い枝で攻撃してくるタイプの魔物だ。だから気がついたら早めに対処した方がいい。


 勿論襲ってくる位置にいなければ無難に通り抜けるけどね。


「さてこの調子でブルーローズを集めようか」

「スピッ!」


 そして僕たちは更に奥を目指した――

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