【WEB版】水魔法なんて使えないと追放されたけど、水が万能だと気がつき水の賢者と呼ばれるまでに成長しました~今更水不足と泣きついても簡単には譲れません~

空地大乃

第一章 追放された水使い

第1話 不遇な追放

「ネロ。今日限りでお前はパーティーから追放だ。わかったらとっとと荷物をまとめて出ていけ」

 

 それは突然の宣告だった。僕が入っていた勇者パーティー『栄光の軌跡』から追放すると言われてしまった。


 一瞬何を言われたかも理解できずキョトンっとしていた僕に向けて、勇者がやれやれと被りを振りそして突き飛ばしてきた。茫然となっていた僕は床に尻もちをついてしまう。


「うわっ! な、何するんだ!」

「ふん。お前がボケっとしてるから目を覚ましてやったんだよ。それと何度も言わせるな。お前は追放だ今すぐ荷物を纏めて俺達の前から消え失せろ」

 

 勇者に改めて言われた。彼は勇者ガイ。勇者の紋章を授かった男でこのパーティーのリーダーだ。


「そんな。この一年ずっと一緒にやってきたのにどうしてだよ」

「そんなの決まってるだろう。お前の属性が全く使い物にならない水だからだ」

 

 ガイがはっきりと言い放つ。そう僕の属性は水。属性は年齢が十二歳を迎えた時に儀式によって手の甲に浮かび上がる紋章で発覚する。

 

 正直言うと僕は生まれた頃から魔力が高かった。だからきっと良い紋章を授かる筈と両親からも期待されていた。この世界には属性がありそれは紋章によって決まる。紋章には武系紋章と魔法紋章が基本としてある。武系紋章は剣や槍、斧などで紋章に応じた武具の扱いに長けるようになり紋章を持つことで武芸という特殊な力を閃き扱えるようになる。


 一方で魔法紋章は文字通り魔法が扱える紋章だ。代表的なのは火・水・土・風で僕はその中の水属性にあたる水の紋章を授かった。


 そして十二歳を迎えた時、僕の場合左手の甲に水の紋章が浮かんだ。片方しか浮かばない場合は大体利き腕が多いのだけど僕は逆の手だった。


 とにかくこの紋章が僕の運命を決めた――


 水の紋章は文字通り水の属性を扱える紋章だ。だけど一般的に水属性は不遇とされていた。ガイが言っているのはこのことだろう。


「水だけは自由に出せるから補給係としてパーティーに加えていたが、それもこれまでだ」


 水だけはだせる――そう水属性の魔法は魔力を水に変換して生み出す【給水】などが扱える。僕は魔力の量だけは多いからこの魔法で割と無尽蔵に水が出せる。


 だから迷宮内で水不足だけには陥らない。


「俺たちは魔法の水筒を手に入れたからな。これでもう貴様は必要ない」

 

 魔法の水筒――見た目よりも多くの水を入れておける水筒だ。確かにそれがあれば僕の魔法が無くても余裕を持って探索が出来る。

 

「で、でも水筒だって容量には限度があるし――」

「くどい。そもそもお前は戦闘に役立たない。水魔法があっても敵に水をかけてちょっとびっくりさせる程度だ。動じない相手だっている以上意味がない。これが役立たず以外の何だというのだ?」


 う、それを言われると辛い――確かに水魔法は戦闘面ではさっぱり役に立たない。水には攻撃に利用できる威力がないからだ。


「これは俺だけが決めたことじゃない。そうだろう皆?」

「……そうね貴方の魔法じゃ今後足手まとい」

「きっとこれも神の思し召しなのでしょう」

 

 赤髪の女魔術師フィアと白ローブ姿の回復術師セレナが言った。フィアは爆属性を有しセレナは生属性。爆は火属性の上位でその火力は凄まじい。凄まじ過ぎて僕の魔法で鎮火したこともある。


 セレナの属性は回復魔法に最適な属性だ。彼女のおかげでパーティーは安全に旅が出来た。


 二人ともパーティーへの貢献度は僕とは雲泥の差だ。僕に出来るのは精々セレナの回復魔法を込めた生命の水を作る為の水を提供出来るぐらいだし。


「これが三人の総意だ。満場一致でパーティーからの追放決定だなこれでもまだ不満があるか?」

「――そう。わかったよ……」


 結局僕は追放を受け入れることにした。最初はそれでも一緒に入れたらと思ったけど全員が僕がいなくなることを望んでるなら仕方ない。


 それに――水属性が使えないのはわかっていた。だからこそ僕は家からも追放されたんだ。それでも冒険者として活躍して少しでも見返すことが出来ればと頑張ったけど結局一年で追放だ。


 ガイに言われたとおり僕は荷物を纏めて勇者パーティーの家から出ていくことになった。ここは勇者がパーティーの為に所持していた持ち家で僕も暫く厄介になっていた。


 だけど追放された以上ここにはいられない。でも明日からどうしようかな――


「じゃあみんな、さようなら。あ、部屋に魔力水は置いておくから」

「チッ、そんなものを作って恩着せがましい奴だ」

「……別にいらなかったら捨てていいよ。じゃあね」

「あぁ。これでやっとせいせい出来る。あぁそうだ。せめてこれぐらいくれてやるよ」


 そう言ってガイが床に布の袋を投げ捨てた。拾って見てみると中にはお金が入っていた。

 

「手切れ金だ。後から不当な扱いを受けたやら面倒な事を言われたくないからな。それを持ったら俺たちの前から消え失せろ。この町からも出ていけ。暫くしてまだこの町にいるようなら全力で叩き潰すからな!」

「は? 何だよそれは。そんな条件ならいらないよ」

「黙れ! それはあくまで手切れ金だ。一度出したものが引っ込めるか! 貴様俺に恥を欠かせる気か?」


 えぇ……そんな返すと言ったら文句を言われるなんて思わなかったんだけど……


「いいから受け取ってさっさと出ていけ。たたっ切られたくなかったらな!」

 

 そう言ってガイが剣を抜いて恫喝してきた。な、何だよそれ意味がわからない――だけど尋常じゃない殺気を感じたから結局袋を受け取って出ていくことになった。


 はぁそれにしてもこれでこれから一人でどうしようかな――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る