第415話

「あの規模の魔物をたった1人で退かせたなんて信じられるかっ!

 しかも王都に現れた異形がいたというのも眉唾まゆつばモノだ!」


 これは自分に好意的でない部隊幹部の意見だ。

 見届け人みたいな人を置いてくれれば証言してくれたのだろうが、部隊の人間を残しておけるような余裕のある状況ではなかったから仕方ない。


「よもや自らの手柄を誇張して報告しているのではあるまいな?!」


「決してそのようなことは…………」


 そんなことをしても俺には何のメリットもない。

 この国の軍人ではないので出世に繋がるわけでもなく、報奨金が出るわけでもないのだ。


「ここで言い合いをしたところでどうしようもなかろう。

 明日にでも要塞から新たな斥候が送られるはずだ。

 事の真偽はその時にわかるだろう」


「むぅ…………」


 仲裁に入ったのは中立的な立ち位置の人だ。

 まぁ厳しく言って来る部隊幹部の気持ちもわからないではない。

 アルタナ軍でも、ましてやアルタナ国民でもない隣国の冒険者に大きな顔をされては、心中穏やかではいられないのだろう。


 ここで収納した4000体を超えるオークの死体を見せれば、ある程度の証明にはなるかもしれない。

 でもそれはしないでおく。没収されるかもしれないし…………

 4000体超と言っても回収することを最優先したので、状態の悪い死体がかなり含まれている。

 仮に買取価格の高い帝都(=グラバラス帝国の首都ラスティヒル)で売ったとしておよそ3000万クルツ、ルクに換算すると3300万ルクぐらいだろうか。

 莫大な金額だが、軍や部隊の予算規模からしたら大した金額ではない。

 兵士1人の給料が年150万ルクだとしたら20人分にしかならないからだ。

 なので没収となる可能性は低いのかもしれないが…………収納に出し入れするのも面倒くさいしな。


「ツムリーソの働きのおかげで犠牲者を出すことなく退却できたことは事実です。

 このことは心に留めておくように」


「「ハッ」」「くっ…………」


「ひとまず解散とします。

 ツムリーソは引き続き残りなさい」


 部隊幹部たちが退出していく。


「お姉様(=イリス・ルガーナ殿下)へのお礼の書状をしたためます。

 しばらく待ちなさい」


「はい…………」


 現在の時刻は15時過ぎ。

 朝一番で出立したおかげで、なんとか夜にはバルーカに帰れそうだ。


 それにしてもお腹空いた…………

 昼食が要塞に退却中のレイシス姫の部隊との合流後に渡された硬いパンだけだったのだ。

 本来はファンタジーの定番、干し肉をスープで柔らかくして食べるはずが、要塞への帰還を優先して行軍中にパンを食べるだけに変更されてしまった。

 自分だけ収納から料理を出して食べるなんて真似ができるはずもなく、仕方なくパンをかじりながら歩いたのだ。

 部隊兵士への夕食は早めに提供されるよう手配したと、さきほどの報告会の議題で出ていたが、俺はどうしたものかな…………

 俺に反感を抱いてる人もいる中で部隊の人と共に食事するのも微妙か。

 全速で帰ってルルカの手料理を食べるほうがいいな!


「異形は…………何か言葉を発していましたか?」


 姫様への書状を書きながらレイシス姫が問いかけてきた。


「わからない言語を使ってました。魔族の言葉みたいですが」


 他はコロセとしか言ってなかったしな。

 アルタナ王都で人間に化けていた時は流暢りゅうちょうに話していたのだから、異形の姿に戻ると発声器官も変化して人語を喋れなくなるってことだろうか?


「捕獲できればこれまで未知の存在だった魔族のことを知る手掛かりとなり得るのですが…………

 捕まえられそうですか?」


「どうでしょう…………それほど強くない個体と思われますので、状況さえ整えば捕縛する機会はあるかと」


 今日対峙してみても強者特有のプレッシャーのようなものは感じられなかった。

 異形単体であれば3等級パーティーあたりでも十分捕まえられると思う。


「ただ、今回のようにワイバーンが上空に待機していて特殊個体が降下してくるとなると、自分以外では厳しいかもしれません」


 ちなみに死霊術のことは報告していない。

 黒オーガたちを冒険者ギルドで登録しているので隠す意味はあまりないのだが、アルタナ王国は一応他国なので言わなかっただけだ。


「我が国には獣人の精鋭が揃っています。

 こと強さに関しては決してツムリーソにも引けは取りません」


 いくら獣人が身体能力に優れていても、特殊個体相手に求められるのはあの硬い肌を抜く圧倒的な攻撃力だからなぁ。


「アルタナ王都での異形騒ぎの際に、共にいたランテスという獣人の2等級冒険者を覚えておられますか?」


「ええ、もちろんです」


「武闘大会では準決勝まで進んだ猛者なのですが、そのランテスをしても特殊個体相手には攻撃が通じないのです」


「…………特殊個体に関してはベルガーナとコートダールから報告を受けています。

 ですが、軍内部では我が国の精鋭なら討伐可能と楽観視する声も多いのです」


 そうか。

 今日もそうだが、前のレグの街救援の際も俺がいち早く特殊個体を討ち取ってしまったから、この国は未だに特殊個体との交戦経験がないのか。

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