第347話
商都を飛び立つ。
最初の目的地はレグザール砦とした。
昨日の今日でよもやとは思うが、万が一ということもあるので無事であることは確認しておきたい。
しかし、初報のみでレグザール砦の防衛をポイントに挙げていたロイター子爵はさすがだな。
こちら(=コートダール)の司令部では、あまり砦への危機意識みたいなものはなかったのに。
当事者より一歩も二歩も引いたところで見ている部外者のほうが、客観的な物の見方をできるとかだろうか?
そのレグザール砦が見えてきた。
特に昨日から変わった様子はなさそうでひとまずは安堵する。
西の防壁の修復に人手が出ているようで、多くの者が作業に当たっている様子が見られる。
降りてジェラード隊長に挨拶しようかと思ったが、昨晩別れてから半日も経ってないのに大げさと考えそのまま通過することにした。
砦の無事を確認したところで、次は砦から南へと続く峡谷沿いを南下する飛行ルートに変更する。
眼下にはイズフール川か、もしくはその源流となる細い川が流れている。
峡谷地帯が終わると河川は東へと向きを変えて海へと流れていく。
このイズフール川を利用する形でコートダール南部を守る防御ラインが構築されており、南側から侵攻してくる魔物を防いでいる。
コートダール側はこの防御ラインに絶大な信頼を置いているようで、レグザール砦のジェラード隊長も防御機構をおまけと評するほどにイズフール川を天然の要害と見立てていた。
戦記モノや歴史モノを読んだことのある身としては、河川をせき止めて水攻めをしたり、オーガを使って大岩を投げ入れ足場を作って渡河を容易にしたりと色々な攻略方法がありそうだが、そういうことは行われてないようだ。
魔族側にそのような発想がないのか……
偶然か何らかの因果関係があるのかは不明だが、俺がこの世界に来たのと同時期から魔族側が人族に対して新戦法を繰り出すようになってきている。
例え今は大丈夫でも今後魔族側が新たな戦術を仕掛けてくることは十分に予想される。
いくらイズフール川が天然の要害だとしても、それに頼り切っていてはいつかは足元をすくわれかねないと思うが…………
そのようなことを考えながらも飛び続け、峡谷地帯の終点を抜けると…………
「へっ???」
高低差のおかけで見れなかった景色が一気に広がり、その光景に驚いて慌てて旋回して峡谷の端の崖の上に降り立った。
眼下に広がる景色を呆然と眺める。
まず、思ってた以上に高低差が激しい。
今立っている峡谷の崖の上から地上まで下手したら1000メートルに届くのではないだろうか?
レグザール砦はかなり高地に築かれた砦だったようだ。
飛んで移動してたから気付かなかったのか? だとしても…………
そして何より、イズフール川の巨大さに圧倒されてしまう。
川幅がメートルではなくキロ単位の雄大さで、もはや河川ではなく大河と呼ぶべき規模だ。
先ほどまで懸念していた水攻めや投石やらがバカらしくなるぐらいのスケール感だ。
これまでこの世界で見た中で一番大きかった川は、コートダールの商都とグラバラス帝国の帝都ラスティヒルを繋ぐライン川だった。
帆船が航行するぐらい大きな川だったが、日本人である俺の想定を超えるような河川ではなかった。
しかしこのイズフール川の巨大さは想定を遥かに超えてて、それどころか理解不能ですらある。
どこからこれだけの水量が流れて来るのか全くもってわからないのだ。
峡谷の中を流れていた細い川だった源流も、低地を流れていたためそう見えたようで、思ったよりも水量は豊かだ。
南の魔族側からも河川が合流してるのが見えるし、当然地下水も豊富に流れ込んでいるのだろう。
だとしても、東へ流れる大河の半分の水量も賄えてないように思える。実に不思議な光景だ。
大体ロイター子爵のところで見た地図にも、商都の軍司令部でレイチェルさんに見せてもらった地図にもこのイズフール川の規模は表記されていなかった。
いくら縮尺が正確ではないといっても、これはきちんと記述すべきだろうに。
まぁいつまでも驚いてるわけにもいかないので、防御陣地を見て行くことにする。
一応魔族側の飛行種と誤認されないように陣地の内側、イズフール川の北側を飛ぶ。
ロイター子爵が『実態はもはや要塞』と言っていたが、レグザール砦の西側防壁と同じぐらいの高さの防壁、その内側には2~3階建ての施設が建ち並んでおり、北側の森林地帯と南側の大河に挟まれた大自然の中でそこだけは異様な光景を現出させていた。
現在は魔物による大攻勢の最中のはずだが、戦闘が行われてる様子は一切ない。
そもそも魔物はどうやってこの大河を渡って攻撃を仕掛けて来てるのか、という話ではあるが…………
しかしここの防御指揮官になると、
『計算しろ!
というセリフを言うことができるわけか…………
胸熱だな!!
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