第346話

投稿時間を過ぎてしまい申し訳ありません。

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 翌日はゆっくりと起きた…………いや、正直に言うと寝坊した。

 現在は午前9時過ぎ。

 夜早く寝て日の出前には起きるのが普通なこの世界では大遅刻だ。

 これも昨日の午後にレグザール砦の宿舎で爆睡してしまったので、明け方まで寝付けなかったのが原因だ。移動の疲労等の仕方ない事情なので自分自身に恥じるところはないのだが、問題はそんなことを知らない他人がどう思うのかだ。

 特に俺の担当補佐官(らしい?)のレイチェルさんがどう思うのかが…………




「ツトム殿、おはようございます。ゆっくりお休みになられましたか?」


 むっ?! 開口一番で寝過ごしたことに対する皮肉だろうか。

 意訳すると、

 『他国者よそものがウチのベッドでグ~スカ寝よってからに、皆ここに泊まり込みで働いてるのにええご身分じゃのォ~』

 ということなのだろう。


「おかげさまで。やはり昨日の特殊個体との激闘の影響が残っていたようでして…………」


 無論そんな影響などは微塵もないが、『俺はアンタらの国のために強敵と戦って討ち取ったのだぞ』と言外にアピールしてみる。


「どこかお怪我でも? ツトム殿の回復魔法で治せないとなると相当深い傷なのでは?」


 むむっ?! これも意訳すると、

 『オドレが回復魔法を使うのは、マルっとお見通しなんじゃっ!』

 ということか。


「傷のほうは問題ないのですが、回復魔法では気力体力を癒すことができないので…………」


「そうですか。

 ツトム殿の此度の働きに対し、閣下(=クリュネガー軍司令)からくれぐれもお礼を申すように言付かっております」


 『ワレも良い働きじゃったのぅ。褒めて遣わすぞよ』って、これは意訳の必要はなかったか。


「自分は援軍として来ているのですから、貴国のために尽力するのは当然のことです」


「閣下も直接ツトム殿にお礼を述べたい意向でしたが、あいにく今朝から軍事統括官との会合のために中央に出向いておりまして…………」


「軍事統括官?」


「あぁ。他国ですと軍務卿に該当する役職ですね。軍事部門のトップになります。

 我が国には国王も貴族もおりませんので」


 ここでレイチェル先生の商業国家コートダールに関しての授業が始まった。

 要約すると、



 コートダールはその昔、いくつかの都市国家が合併して成立した国家なのだそうだ。

 最初はそれぞれの都市国家の長たちが集まって国政を執り行っていたのだが、すぐに各長たちの利害が対立するようになり、それが原因で半ば内乱へと発展してしまう。

 そのような状態が長期間続いて国内が荒れてしまい、当然ながら各都市国家も衰退していくことになる。

 各々の都市国家の軍事力を背景にしていた各長たちも力を失っていき、それに代わり台頭してきたのがこの内乱で商売を伸ばしてきた複数の商会だった。


 商会もそれぞれの都市国家を代表するという意味では各長たちと同じなのだが、ここで彼らが賢かったのは権力を掌握するに際して、比較的被害の少なかった現在の商都に全ての商会が拠点を移したことである。

 国の中枢ちゅうすうと各都市の軍事力が分離したことにより、国内が急速に安定化していった。

 反抗する勢力がいても国内の物資の大半を掌握している商会連合には抗することができず、ここに商売を基軸とした商業国家コートダールが成立することになる…………



 なるほどねぇ。

 コートダールが軍事力が弱いというのも、国家の成立からして軍事力を切り離した状態だったからか。

 それにしても思わぬ形でレイチェル先生の講義を受けることになったが、中々良かったな。

 強いて言うならエロさが不足してたことぐらいか。

 胸元を大胆に開けたスーツ姿だったら完璧だったのだけど…………


「ツトム殿の本業は冒険者をされているとか。

 そこでいかがでしょう? 我が国に拠点を移されては?

 我が国は冒険者稼業に力を入れてますので報酬も他国と比べて高いですし、ツトム殿を特別に待遇するよう軍部から冒険者ギルドに要請することもできますよ?」


「ありがたいお誘いなのですが、自分はイリス殿下に仕えてる身ですのでバルーカを離れることができません」


「そのような事情でしたら仕方ありませんね」


 姫様バリアは優秀だな。楽に断ることができる。

 まぁコートダール単体なら色々条件良さそうだし、ついでにルルカの実家も近くなるしで悪くはないのだけど、帝国(=グラバラス帝国)が色々な意味で近いのが不確定要素なんだよなぁ。


 しかし、言葉の刃が飛び交ったり授業が始まったり勧誘を受けたりで、中々にプレッシャーのかかる状況が続いている。

 これが外交交渉って奴なんだろう。

 かと言って出撃するには何か適当な理由でもないと…………そうだっ!


「ところで戦況はどうなってますか?」


「特に急報が届いたという話は聞きませんので、どこの防衛も問題ないはずです。

 とはいえ昨日もツトム殿にそのように言っておきながら、レグザール砦は大変なことになってしまっていたので、堂々と言える資格はないのですが…………」


 昨日は砦の飛行魔術士の戦死という不運があってのことなので、別にレイチェル先生に落ち度があったわけではない。


「そういうことでしたら自分はこれから前線の様子を見に行ってきます。昨日は結局レグザール砦だけしか行けてませんので」


「わかりましたわ。

 どうぞお気をつけて」


「それではレイチェル先生! 行ってきます!!」


「せ、先生???」

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