第339話
2体の二本角の黒オーガと対峙する。
おそらく今空を見上げればこの2体を運んだ飛行種を目撃できると思うが、対峙している2体から目を離すことができないでいる。
どちらの黒オーガも通常のオーガより一回りほど大きい体躯をしていて、2体共に棒のようなものを持っている。
(槍…………か?)
しかし棒のどちらの側にも槍の穂先のような部分は見当たらなかった。
(こん棒にしては太さが全然足りないし…………
前にバルーカで戦った二本角(両手持ちトンファーブレード)とは別個体なのだろう。
体格もこちら2体のほうが少し大きい感じがする。
(二本角相手にたった1人で、しかも2体同時に相手するなんて絶対無理だろ!?)
何せ二本角相手にはグリードさんと2人で戦って死にかけたのだ。しかもそれで退けるのが精一杯だったという…………
(逃げるという選択も…………ワナークに知らせて商都に住人を避難させれば…………
ダメだ!! ここを突破した魔物が必ずしもワナークや商都に向かうとは限らない。
むしろイズフール川の防衛線を内側からズタズタにする可能性のほうが高い!)
そんな事態になったらコートダールの陥落というロイター子爵の懸念が現実味を帯びてしまう。
(ここでこの2体を倒す! それしかない!)
黒オーガ(しかも二本角)2体相手に同時に戦うなんて無謀行為でしかない。
しかし先手を取って最初に1体倒してしまえば残りは1体、通常の1対1に持ち込める。
それには先制攻撃こそが肝心なのだが…………
結局ずっと取り組んできた必殺技クラスの新魔法の開発は失敗に終わってしまった。
もっともこのような新規開発は1ヵ月2ヵ月といった短期間ではなく、年単位の長期間を要することを想定するべきなのかもしれない。
その代わり最近の練習では風槍・零式の改良に力を入れて取り組んできた。
改良そのものは終わっておらず、言ってみれば未完成状態なのだが、それでも一定の威力は出せるまでになっている。
"風槍・零式改"
「いきなり喰らわしてやる」
風槍・零式改の準備を始める。
「!!」
突然2体の黒オーガが前後の並びで突っ込んできた!
(先制攻撃を潰された?!)
こちらの魔法発動に反応して仕掛けてきた感じだ。
前にいる個体が棍を構えて身体ごとぶつけるような突きを放ってくる。
「くっ……」
改良型でも魔法の威力と発動時間がトレードオフなのは変えられない。
零式改の発動を止め、紙一重でなんとか横へと回避する。
ドゴォォォォォォォン!!
突きを避けられた黒オーガがそのまま砦の防壁へと突っ込んだ。
間髪入れずに後ろの個体が上段に構えた棍を振り下ろしてくる。
魔盾を2枚重ねてガードする。
ガシッ!?
1枚目は破られたが2枚目できちんと受け止めた。
「ぐふっ?!」
不意に脇腹に衝撃を受けて吹き飛ばされた!
(な、なにが起こった??)
あばら骨を何本か折られたようで酷く痛い。
地面を転がりながら回復魔法を施し何とか立ち上がる。
どうやら最初に突きを放って防壁に突っ込んだ黒オーガが、そのままの体勢で後ろに振るった棍が俺の脇腹に直撃したみたいだ。
その黒オーガの突きを受け止めた防壁は大きく破壊されている。
砦内部までは貫通してないようだが、もう1度同じ部分を攻撃されたら大穴が開くことは確実だろう。
ナナイさんには、『特殊個体(=黒オーガ)は城や砦のような拠点を攻めて来ない』って言っちゃったけど、今回はモロ拠点攻略のために出張ってきた感じだ。元々大した根拠のない楽観論だったとはいえ。
投石攻撃が失敗したら2体の黒オーガで防壁を破壊して、このレグザール砦を陥落させる
それは何としても阻止しないといけないが…………
大きくえぐられた防壁の破壊跡を見る。
あの突きによる破壊力は相当ヤバい。
バルーカで戦った二本角のトンファーブレードによる斬撃なら、例え手足を斬り落とされても回復魔法で繋げることができる。
身体を斬られても深くなければ治療は可能だ。
しかし、あの突きが手足に直撃したら修復はまず不可能だ。身体にヒットしても死亡は確定だろう。この革製の軽鎧ではとてもじゃないが防げるとも思えない。
あとは魔盾を重ねてどれだけ威力を減衰できるかなのだが…………試さないほうが無難だろう。
この世界に来てまだ3ヵ月と少しとはいえ、これまでの強敵との戦闘経験からあの突きはこちらの魔盾を突き破ってなお俺の身体を破壊し得るとの結論を導き出せる。
つまりあの突きは100パーセント回避しなくてはいけない。
幸い……と言っていいのかわからないが、突き以外の棍による打撃はそこまでの威力ではない。あくまでも突きと比較してであって、先ほどのように無防備で喰らえば大ダメージは受けてしまうが、頭さえきちんとガードすれば回復魔法でなんとかなるはずだ。
吹き飛ばされて距離の開いた俺に、間髪入れず2体の黒オーガが迫ってくる。
これまで対戦した黒オーガは、大ダメージを受けても立ち上がってくる俺を不思議そうに見ていた瞬間があったが、この2体にはそのような傾向もないみたいだ。
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