第329話

 ドンドンドンッ! ドンドンドンッ! ドンドンドンッ! ドンドンドンッ!


 玄関のドアを激しく叩く音が聞こえる。

 3人が目覚めようとしている中、ズボンを履いて玄関へと向かう。

 現在の時刻は3時過ぎ、あと2時間もしない内に日が昇る。

 俺がこんな時間に起きれたのは、不測の事態に備えて即応体制でいたから…………そんなわけはない。

 昼に寝てたから眠りが浅かったってだけだ。たくさんしたらそりゃあ眠くもなる。


 ドアを開けると、


「ツトム殿ですね。ロイター子爵が至急登城するようにと。

 城の3階に案内の者が待機しております。そちらへ」


「わかりました」


「では失礼します!」


 伝令の男性は帯剣していたが防具は身に着けておらず軍服姿だった。


「ツトムさん……」


 3人とも起きてきたようだ。


「聞いた通りだ。緊急性の高い動きがあったようなので城に行ってくる。

 そのまま現地に向かう可能性が高いからそのつもりでいてくれ」


 薄手の服を羽織っただけのルルカ。2つのお山を隠し切れずにエロさを猛烈にアピールしている。

 ピチピチのTシャツにパンツ1枚のロザリナ。胸の形が丸わかりで中々のアピールだ。

 ロザリナとは逆にダボっとした大きなシャツを着たディア。出来れば俺もそのシャツの中に入りたい。

 すぐにも3人の手を引いて寝室に戻りたい誘惑にあらがいつつ、


「……長期間に渡って、というのはまずないと思うけど念のために」


 収納から大金貨を出してそれぞれに渡していく。

 ルルカに30万ルク、ロザリナとディアに10万ルクずつだ。


「ツトム様……」


「ロザリナ、ルルカとディアのことを頼むな」


「はい。ツトム様も御武運を」


「ツ、ツトム、だい…………」


「大丈夫だからディアも心配しなくていいからな」


「あ、あぁ……」


 ディアの背中をポンポンと叩いてからルルカを抱き寄せる。


「後のことは頼むな」


「はい。ツトムさんもケガなどなさいませんように」


「わかった、ちゃんと注意するから安心して待っててくれ」


「んッ…………」


 ルルカのほうからキスをしてきた。ネットリと濃厚に舌を絡めてくる。

 両手でお尻をモミモミしながら、『この場でしてからでも……』という悪魔の囁きが脳内で聞こえてくる。

 これ以上楽しんでいるとますます我慢できなくなるので、やや強引に切り上げてロザリナとディアにもキスをして家を出る。


「ご無事で」


 ルルカに手を振って応えて飛び立った。


 所持金 →592万5500ルク

 帝国通貨→318万6500クルツ




 一旦城壁の上の通路のとこで降りて飛行許可証を首にかけた。

 何故かその場の流れでルルカ達と大げさな別れ方をしてしまったので許可証を取り出せなかったのだ。


 再び飛び立ち、内城の3階にある飛行魔術士専用の出入り口へ。

 待機していた男性にロイター子爵の執務室に案内された。

 ちょっとだけナナイさんが待っていてくれるのではと期待してたけど、さすがにこの時間ではあり得ないか。



「こんな時間に呼び出してすまないね」


 執務室に入るとロイター子爵が開口一番謝って来た。


「いえ、ここ数日は冒険者を休みにして待機していましたので問題ありません」


「休みか、冒険者は自由でいいね。私なんかここ3ヵ月ほどロクに休みなんか……」


「……お疲れ様です」


 うわぁ……、この人は貴族でしかも子爵なのにそんなブラックな環境で働いているのか…………

 普段は残業とかはなさそうなのでそこは救いなのだろうけど、こういった緊急時には有無を言わさず出仕しなければならない。


「もっとも君は最前線で戦っているのだから、休める時はきちんと休まないといけないよ」


「心得ております」


「うん。軍務卿に魔族の攻勢に関しては即伝令を飛ばして欲しいと要望しておいたのだが、それがさっそく活きた形となった。

 もっとも、そのおかげでこんな時間に登城しなければいけないのだが……」


 そうだよな。バルーカに直接伝令は来ないのだった。

 各国からの情報は一旦王都に持ち込まれて、そこからベルガーナ王国内の各地に伝播されていく。

 本来であれば翌日の朝に王都を発して午前中にバルーカに届くはずだったのを、昨晩王都に急報が来た段階でバルーカに届けさせたってことだ。


「…………ツトム君、コートダールに対して魔物による大攻勢が始まった」


「は? コートダール? アルタナ王国なのでは??」


「現時点ではアルタナ王国側に動きはない」


 アルタナ王国南のルミナス大要塞からさらに南下した地点に魔物が集結中ということだったはず。


「まさか…………陽動、ですか?」


「うん。その可能性は否定できないね。

 これを見てくれ」


 ロイター子爵は机の上に地図を広げた。

 コートダールの国内が描かれた地図で、他にグラバラス帝国の南東部、ベルガーナ王国の北東部も描かれている。

 俺がコートダールの商都で購入した地図よりも3倍以上大きいサイズで、俺の地図にはない村や主要道以外の道みたいな細かい情報も記入されている。

 軍事機密満載な特別製のようだ。


「コートダールの南国境沿いにイズフール川が流れている。

 この河川沿いに強固な防御陣地を築いてコートダールは長年魔物による攻勢を防いできた。

 陣地と呼称したがその実態はもはや要塞と言っても過言ではないぐらいに強化されている」


 ロイター子爵は地図に描かれているイズフール川を指でなぞりつつ説明を続けた。


「頻繁に、というほどではないが幾度となく魔物に攻められている地域なので、本来であれば緊急事態というわけではないのだが、今回の魔物の攻勢にはそれまでとは相違点が2つある」

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