第307話
「王都にある冒険者ギルドの本部から特殊個体討伐のため2等級パーティーがバルーカに派遣されてきた」
ぬっ!? 黒オーガを討伐するのか!!
「ついては君には明日から行われる討伐に同行するギルド職員の護衛を頼みたい。どうだろうか?」
護衛か。
色々聞きたいことはあるが、まずは……
「詳しいことを聞く前に、自分への指名依頼はお断りするという約束だったはずでは?」
以前グリードさんパーティーの3等級昇格試験を手伝った際に、ギルドマスターであるレドリッチに対して2つの貸しを作った。
その内の1つを使って、今後俺への指名依頼を受け付けないことを約束させたのだ。
「もちろんこちらとしてはその約束を反故にするつもりはない。
今回は明日同行するコーディスが君に護衛を頼みたいと言ってきたのだ。
なんでも君はコーディスに借りがあるとか。
この際彼の頼みを引き受けてスッキリしたらどうかね?」
くっ……、昇格試験の時の帰りの馬車代のことか!
やはりタダより高いモノはなかったな。
護衛の内容次第ではあるが、俺はこの依頼を引き受けても良いと考えている。
特殊個体……黒オーガの情報は得ておきたいし、他の冒険者が黒オーガに対してどんな戦いをするのかも大変興味深い。俺自身の黒オーガ対策の参考になるかもしれないし、そこまでではなくとも何かのヒントぐらいは掴めるだろう。
「依頼内容を聞いてから判断しようと思います」
「良かろう。何を聞きたいのかね?」
まずは昇格試験で夜見張りをしていた時にコーディスに聞いたことからだろうな。
「冒険者ギルドは特殊個体の討伐はしない方針だと聞きましたが?」
「ウチ(=バルーカギルド)のギルドではな。
ギルド本部へ特殊個体のことを報告した際に討伐隊の派遣を要請したのだが、今回なぜだかそれが受理されてな。
こうして2等級パーティーがバルーカに派遣されてきたというわけだ」
「今の口ぶりですと、普段はギルド本部へ要請は却下されてるみたいですが……」
「本部へ討伐を要請すること自体が滅多にある事ではないが……
私は職員時代を合わせれば20年以上ギルドに勤めているが、このようなケースは初めてのことだ」
「今回はどうして討伐隊を派遣したのでしょう?」
「本部の意向はわからないので、あくまで私の推測になるが」
「お願いします」
「ふむ……
1番はこちらからの報告内容だろうな。
3等級の剣士と5等級の魔術士2人で撃退したのだから、2等級パーティーを派遣すれば必ずや特殊個体を討ち取れると踏んだのだろう」
「あの時の特殊個体との戦いは死と紙一重のところで撃退できたのですが……」
「本部に送った報告書で君のことは実質3等級クラスの魔術士と注釈を入れてある。
なので本部も特殊個体の強さを過少に見積もってはいないはずだ」
だといいのだが……
もっともランテスみたいなので構成されているパーティーなら二本角にも普通に勝てるのかもしれない。
「…………冒険者ギルドは今、国や軍からの批判に晒されている。
トップクラスの冒険者達がほとんど活動していないためだ。
いずれは一般にもその批判の輪は広がるだろう」
1等級以上は全盛期を過ぎて能力が劣化してるので、その等級に相応しい働きができないのだったか。
「将来的には活動の見られない冒険者の資格を停止する措置を講じることになるだろう。
だが現状ではまだ各国のギルドとの意見調整に取り掛かってる段階だ」
1等級への昇格は順番待ちになってしまっているってランテスが言ってたっけ。
「そのような情勢下において今回の特殊個体を放置して犠牲者を増やす事態にでもなったら、ギルドへの批判がより強まることになる。
本部が討伐隊を派遣することにした背景はそんなとこだろうな」
討伐が成功したらギルドの功績にもなるって感じか。
「次は討伐の流れを教えてください」
「うむ。
今回の討伐は2日間を予定している。
初日で特殊個体を討伐できたら当然2日目はなしだ。
場所はバルーカ南東の森。
君達が以前特殊個体と遭遇した近辺のオーク集落を攻撃することで標的を誘き出す計画だ」
「こちらはどのぐらいの戦力を出すのです?」
「いや、君以外のバルーカの冒険者は参加しない」
「えっ?!」
てっきり幾つかのパーティーと合同での討伐と思っていたけど……
「オーク集落への攻撃も特殊個体の討伐も2等級パーティー単独でやってもらう」
「自分も戦闘に参加しなくていいのですか?」
「君への依頼はあくまでも同行するギルド職員の護衛だ。戦闘に加わる必要はない」
マジか?!
黒オーガと単独パーティーで戦うのはわかるにしても、オーク集落まで単独で殲滅させるなんて大変だろうに……
本命と戦う前に体力とか魔力を相当消耗してしまうのではないだろうか? 大丈夫か?
あぁ、集落は別に殲滅させなくてもいいのか。黒オーガが現れてくれればいいのだから。けどそれにしてもなぁ……
「……不満かね?」
「いえ、不満というよりも心配でしょうか。
特殊個体には万全の体勢で臨むべきです。消耗した状態で倒せるような簡単な相手では……」
「今回はこちらに指揮権はない。
2等級パーティーのリーダーがギルド本部の代行として現場での指揮を執ることになっている。
彼らとの打ち合わせでこちらからの加勢は無用だと断られたよ」
手柄を独り占めしたいとかだろうか?
「指揮するのでなければコーディスさんは何のために同行するのです?」
「戦果確認のためだ。
こればかりは直接報告を受ける必要があるのでな」
なんかお互いに信用してない感じだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます