第306話

 現在ティリアさん宅を辞してルルカを抱えてバルーカへ飛んでいる。

 帰着したら壁外ギルドに赴き、帝国北部の冒険者ギルドに辺境領域やヘクツゥーム族(=ディアのいた部族)についての調査を依頼しに行く予定だ。

 ルルカの柔らかい身体を感じながら(※飛行魔法が発動中なので興奮はできない)、ティリアさん宅でのことを思い起こす。



『…………武闘大会でこれだけの結果を残したのだから、ツトム君のところには貴族からの誘いが殺到するのではなくて?

 断り方を失敗すると大問題に発展するからとっても面倒よぉ』


『その辺は大丈夫です。実は……』


 ティリアさんに殿下(=イリス姫)派に所属したことを伝えた。


『まぁ!? ツトム君も大胆な決断をなさるのね!』


『大胆……でしょうか?』


 未だどうして自分が姫様に忠誠を誓うことになったのか不明なままだ。

 高価な首飾りを献上したからだろうか?

 しかし献上品という形で謝意を表すのが通常のやり方だと教えてくれたのはノーグル商会だしなぁ。


『当然よぉ。

 王位継承争いに敗れて自身の派閥を解散させ都落ちした姫君は、辿り着いた南の果ての地にて全てを失った自らに忠誠を誓う少年騎士と出会った!!

 …………まるで戯曲の一幕のようだわ!!』


『自分は騎士ではありませんが……』


『そこはいいのよぉ。冒険者だと金銭の匂いがして浪漫がないわ!』


 そんなものだろうか。

 それにしても南の果ての地って……


『ティリアさんのご主人は現国王派に属しておられるのでしょうか?』


『旦那? 旦那は関係ないわね。騎士爵なんて一代限りで貴族扱いされてないのだから派閥争いとも無縁なのよ。

 この家を見ればわかるでしょう?』


『良い家じゃないの』


 手入れの行き届いたティリアさんらしい家屋だと思うけどな。

 俺が現在住んでいる借家より小さいが、王都とバルーカ壁外区とでは立地条件に天地の差がある。


『第一区画に建ち並ぶ本物の貴族の屋敷や館と比べるとどうしても……ね』


『でもそれだけ旦那が忙しいのは期待されてるってことなのではないの?

 出世するのも遠い日ではないような……』


『忙しいのは中枢から追われた姫様派の穴埋めをするためなのよ。幾つかの役職を掛け持ちしてるらしいわ。

 出世は…………どうなのかしら?

 爵位が上がればトッドに継がせることも可能になるけど、手柄を立てないとそれも難しいわ』




……


…………



 バルーカに到着後ルルカを家に降ろして1人で壁外ギルドへと向かった。

 ギルドの中はまだ夕方前の時間帯なので早めに依頼を終えたパーティーが何組かいるぐらいで、混雑するのはこれからだろう。


「あっ!? ツトムさん丁度良いところに」


 ミリスさんに先に見つけられた。


「依頼を出そうかと……」

「先ほどギルドマスターからツトムさんへ呼び出しの通達がきました」


「…………」

「…………」


 嫌な文言が聞こえてきた。


「これからツトムさんちに伺うところだったんです。城内ギルドへは本日中に来てほしいとのことです」


「えっと……、依頼の手続きをしてから」


「その依頼はお急ぎなのですか?」


「急ぎというわけではないのですが……」


 ミリスさんは笑みを浮かべているが目が笑っていない!

 『とっととギルドマスターに会いに行け』ってことなのだろう。


「……わかりましたよ。行ってきますね」


「お願いしま~す♪」


 もっとも俺が壁外ギルドに所属してるせいでこのような雑用を押し付けられるのだ。

 それなりに協力はすべきだろう。


 とはいえ、それはあくまでも自分達のことを優先した上での話だ。

 なので一旦家に帰ることにする。




「「「お帰りなさいませ」」、早かったのですね」


 3人揃って出迎えられた。

 一々出迎える必要はないと言ってるのだが、なぜか無視され続けてる。


「予定変更になった。城内のギルドから呼び出しされているのでこれから行ってくる。

 遅くなるかもしれないから夕食は先に食べていてくれ」


「わかりました」


「ツトム様、私も供に!」


「何の用件かもわからないから俺1人で行ってくるよ。家で待っていてくれ」


「……わかりました」


 城内ギルドと敵対してるわけではないが、ギルドマスターとの面会に冒険者資格を停止中のロザリナを連れて行くのは避けたほうがいいだろう。

 警戒し過ぎかもしれないが、レドリッチ相手に余計な隙を見せたくはない。


「それとディア」


「なんだ?」


「これを……」


 収納から贈答用に包まれた首飾りを渡す。


「わ、私にか?!」


「ああ。ルルカとロザリナにも同等のモノを渡しているから遠慮なく受け取ってくれ」


 ディアは包みを開けると中の首飾りをマジマジと見ている。


「良かったわね!」

「ディア、おめでとう!!」


「あ、あぁ……、ありがとう! ツトムありがとう!!」


 喜んでくれたみたいで満足だ。

 しかしなんでおめでとうなんだ??




 徒歩で城内のギルドに行き受付で来訪を告げ、今回も受付嬢の案内を断って3階の執務室でギルドマスターであるレドリッチと対面する。


「まずは4等級昇格おめでとう」


「……ありがとうございます」


「この調子で3等級を目指して欲しいが、君の場合はパーティーを組むのが先だな」


 4等級昇格試験の時のパーティーが実質解散したのを知ってる口ぶりだ。

 当たり前か……

 サリアさんとゼアータさんがバルーカを去る際に挨拶した人達の中には、当然ここのギルド職員も含まれていただろうし、ロザリナが冒険者資格を停止する手続きを行ったのもここのギルドでだ。


「だが今日君を呼び出したのは別件なのだ。パーティーの件についてはまた今度にしよう」


 今度も何も3等級を目指すつもりはない。

 4等級になったのだってロザリナを昇格させるのが主な理由だったし。

 まぁ今はそのことよりも別件とやらについてだな。

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