第304話

 翌日、前日朝早かった反動からゆっくりベッドで過ごしてからルルカと王都へ向かった。

 途中で休憩がてら今日王都へ行く本当の目的をルルカに話した。


「…………そうでしたか。ディアの首飾りを……

 ひょっとしてディアの母親のも本日買われるのですか?」


「もちろんだ。敢えて後日に回す理由もないからな」


「すると近い内にディアの実家のほうへ行かれる予定でしょうか?」


「現時点でその予定はないが、ディアの両親については元気らしいこと以外のことは聞いてなくてな。

 ルルカはディアから両親や故郷のこととか何か聞いてないか?」


 なんやかんやでルルカが1番ディアと一緒にいるからな。


「ディアとはツトムさんのことやバルーカのこと、それとその……、奉仕に関すること以外の話は特には……」


「ルルカ……」


 膝をポンポンと叩くとルルカはすぐに察して俺の膝に乗ってくる。


「ディアのご主人とお子さんが亡くなられてることは知っているか?」


「はい。ロザリナと一緒の時に本人から聞いております」


「いずれはディアもご両親に会わせないといけないが、場所とか距離的な問題もあるし具体的なことはもっと情報を集めてからだな」


 そもそもディアのいたヘクツゥーム族がどこで暮らしているのか、現時点ではグラバラス帝国の北に広がる辺境領域としかわからないのだ。

 ディア自身も部族全体で取引したという帝国の貴族の下や幾つかの奴隷商を経由して帝都に来たため、移動に費やした日数なども参考にならないという。


 帝国の辺境領域にある街か村でヘクツゥーム族のことを聞き込むことから始めるか……

 いや、それ以前に帝国の辺境領域とはどんな所かを知らないといけない。


「ルルカはディア達ヘクツゥーム族が暮らしているという帝国北方の辺境領域のことは何か知っているか?」


「この大地で1番高い山々、帝国北方のアララト連峰を超えたところにある雪に閉ざされた地域と聞き及んでおります」


「他には何か知らないか? 代表的な街とか?」


「さぁ……、商業ギルドならば詳しいことがわかるのではないかと」


 商業ギルドか……

 郵便事業みたいなことをしているのなら辺境領域の概略ぐらいは把握しているだろう。

 しかしタダでは教えてくれないだろうし、かと言って金銭を支払えば教えるというものでもないと思う。

 まぁダメ元で聞きに行ってみるかな……


 あとは冒険者ギルドの資料室で調べるか。有料ではあるけど。

 ただあそこは雑多な書物が置いてあるだけで、このような特定の調べ物には向かない感じだ。

 検索するだけで無数の情報を得られるネット環境が懐かしい……


 やはり帝国の北部の街で地道に辺境領域のことを聞き込むことから始めないといけない…………いや、待てよ……

 確かミリスさんはアルタナ王都の冒険者ギルドに依頼を出して賭け札を買っていた。普通の人も利用できる方法だと言っていたな。

 離れた場所のギルドに依頼を出せるなら、わざわざ現地まで行かなくても帝国北部の冒険者ギルドに依頼を出して辺境領域やヘクツゥーム族のことを調べてもらえばいい。それなりの時間と費用は掛かるだろうが労力面ではこれが最も効率的な方法だと思う!

 早速王都のギルドで…………待て待て!? 壁外ギルドで依頼を出したほうが多少なりともミリスさんの立場を改善するのに役立つのではないだろうか?


 なんにせよ良い方法を思い付いた自分へのご褒美とばかりにルルカの服の中に手を入れていく。


「ツ、ツトムさん?! 今朝したばかりですのに……

 せめて帰りに……」


「どうしてだ?」


「だって……、この後ティリアの家に行くのでは?」


「もちろん行くが、それはそれ、これはこれだ」


「ティリアにしたのがバレ……あっ……」


 ティリアさんに気付かれたところで今更だと思うが……

 それにこういう反応のルルカも最近では珍しいので余計に興奮してしまう。


「そんなっ……は、激しく…………んっ……あんっ……」




……


…………



 王都に着いて最初に以前ノーグル商会から紹介された貴金属店でディアと母親の首飾りを購入する。

 休憩の時にちょっと強引にしたので不機嫌だったルルカも首飾りは真剣に選んでくれた。

 雪の結晶のようなデザインをした首飾りを2つ購入。もちろん同じ物ではなく微妙にデザイン違いの物だ。

 雪国出身者に渡すデザインとしては安直過ぎないかとも思ったが、かと言って南国風のモノを贈るのもどうかと思い口を出さなかった。

 もっともこの世界では南は魔族の支配領域なので南国風のデザインなど存在しないが……


 前回来た時と同じ店員で俺とルルカのことはバッチリと覚えられていたので、今回も少し値引きしてくれた。


 次に行くのは貴金属店に紹介された酒店だ。

 各方面に好評だった高級酒を酒精の強弱合計で50本購入する。1本2万ルクなので計100万ルクだ。


「いくらなんでも買い過ぎなのでは?

 お酒に100万ルクって……」


 ルルカはもはや呆れを通り越して諦めた表情をしている。


「良い物はとことん買う。それが俺の正義だ!!」


「(ジトーーーーーー)」


 前回も似たようなやり取りをした気がするが……


 その後残りが少なくなってきた王都のパンも補充すべくパン屋へと行ったのだが、仕入れの都合で大量注文は断られてしまった。残念。


 昼時だったので適当に食事を済ませてからティリアさんの家に向かった。




「ティリアさん、お久しぶり……ぶっ!?」


 ドアを開けた途端に強引に家の中に引きずり込まれて唇を塞がれてしまった?!


「ちょっ……、ティリアっ!!」


「お待ちしておりましたのよ、ツトムさん」

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