第284話

「君に率直に聞きたい。特殊個体を倒せるか?」


 倒せるかと言われてもなぁ……

 そりゃあ黒オーガを倒すために新魔法を開発しようとしてるけど、そんなことギルドに言うことではないしな。


「強力な助力が得られればあるいは」


「強力な助力とは?」


「一緒に戦ってくれるメンバーですね。

 コーディスさんも見てたでしょう? 自分とグリードさんが奴と戦っていたところを」


「もちろんだ」


「黒オ……特殊個体を引かせることができたのは運が良かっただけです。

 1等級とかその上の実力者で討伐するべき相手ですよ」


 以前ロイター子爵は、1等級や金級・銀級はその地位に相応しい力がない、能力を維持できてないと言っていたが、それは魔物の大軍勢と相対する戦略レベルの話で、特定の個体を標的とした戦術レベルでなら相応の活躍ができるのではないだろうか?


「討伐依頼を出したとしても彼ら1等級が応じることはないだろう。

 名誉・地位・金銭、全てを得ている彼らが戦う理由が何もない」


「緊急招集で強制的に戦わせるとかはできませんか?」


「緊急招集はあくまでも冒険者全員に対して強制力を発揮するもので、特定の冒険者に限定して何かをさせるということはできない。

 その緊急事態な状況を利用して1等級を巻き込むことはできるかもしれないが、そのためには彼ら1等級をバルーカに呼び滞在させるという大問題をクリアしないといけない」


「以前城内ギルドは1等級冒険者のケルトファーを招いて指導に当たらせていましたよね? 2ヶ月近く前のことですが」


 ケルトファーは5等級への昇格試験の時に審判をしていたギルド職員だ。

 あまりに強烈な威圧感を放っていたので不審に思い、わざわざ壁外ギルドで調査を依頼したのだ。(もちろん有料で)

 調査の結果、特に不審な点はなくケルトファー自身もバルーカから去っていることが判明した。


「あぁ、そんな奴もいたなぁ……」


 なんか期待してた反応とは違うな。

 現実に1等級をバルーカに呼んだ実績があるのだから、黒オーガ討伐にも1等級を集めて欲しいのだけど……


 コーディスに不審の目を向けていると、


「!? わ、私は元は斥候職でな、指導部へは専門性の高い斥候職の育成を手伝うためにたまに顔を出す程度なんだよ。

 なのでそのケルトファーという1等級冒険者のこともよくは知らない。

 (バルーカの)ギルドにいたのも短期間だったらしいしな」


 なんか部署が違うのでよくわからない、なんて大企業に勤める社員みたいな返答をされたぞ。

 でも案外間違いではないのか?

 確かレドリッチ(=バルーカギルドマスター)も国で2番目に大きいギルドだと言ってたし。

 冒険者側から見るよりも職員の数が多かったり出入りが激しかったりするのかもしれない。


「いずれにしても確実に言えることは、その1等級冒険者を呼べたのはギルド幹部の誰かの個人的な伝手があったからだろう。

 そしてそのような伝手は繰り返し何度も使えるという類のモノではない、と推察する」


「つまりギルドとしては特殊個体を積極的に討伐することは……」


「……やらないだろうな。

 既に隣街のメルクのギルドと特殊個体に関して積極的な情報交換を行っていて、それを元に新たな方針を立てるようだ」


「どんな方針です?」


「特殊個体は魔物の集落を討伐する際に姿を現して攻撃して来るので、今後はメルクと同じように集落の討伐はせずにその個体数を減らすことに注力するみたいだ」


 えっ?!

 メルクで聞いた一本角も俺とグリードさんが戦った二本角も確かに集落討伐時の遭遇だが、俺がアルタナで倒した三本角は明らかに違う。集落討伐とは一切関係がない。

 これは俺がアルタナ王国での戦闘をギルドに報告してないのが原因なのか?

 依頼で赴いたことではないので報告自体は義務ではないが……


「魔物の集落を討伐しないからと言って、特殊個体が現れないなんて保障は一切ないかと思いますが」


「もちろんその通りだし、ギルド内でも懐疑的意見が多数ある。

 しかしだ、特殊個体を倒さない…………いや、倒せないのなら、なるべく刺激しない方針を取るのは間違ってはいない……と思う」


「なるほど。

 コーディスさんとしては理解はしつつも納得はできないので、特殊個体を倒せるか自分に聞いたというわけですか……」


「そんなところだ」


「軍には協力を要請できないのですか?」


「無理だな。

 軍自体が一個体に対して動くような集団ではないし、バルーカの防衛といった名目があるならともかく、それ以外となると王都のギルド本部が軍本部に対して政治的に動く必要が出てくる」


「だとしたらやはり冒険者ギルドには、実力者が前線で働くよう知恵を絞って頂きたいですね。

 これはバルーカだけのことではなく、ギルド全体の問題としてですが」


「それも難しい問題だな。

 ギルドが民間組織である以上冒険者に対して限定的にしか強制力を持つことができない。

 それ以上踏み込むには国を巻き込んでの新たな仕組みや枠組みが必要だろう」


 裏を返せば冒険者の意向を最大限尊重している現状のギルドは健全な組織なのかもしれないな。

 魔物の脅威がある中でそれが良いことなのかは別にしてだけど……


 黒オーガに関しては軍の意向も確認しておくべきだろう。



「ところで話は変わりますが、明後日バルーカにはいつ頃帰る予定なんです?」


「昼頃の出発でいいのではないか?」


 昼?


「ここまで来るのに1日を要してますけど……」


 そりゃあ夜までに帰らないといけないなんて決まりはないけどさ。

 帰還が深夜になる依頼なんて聞いたことがない。

 って当たり前だよ! 夜には城門が閉まって中に入れないのだから。

 城門が閉まるのって何時だったっけ? 確か東門と北門で閉門時間が違ってたような……

 まぁ壁外区に住む俺とロザリナには関係ないし、他の人も壁外区の宿に泊まればいいだけだけど。


「ん?

 北の街道に出てバルーカ行きの馬車を捕まえれば問題ないはずだが?」


 その手があったか!

 電車やバスの特定の地点で乗降車するというイメージが強過ぎたのだ。

 しかし、


「この人数を運べます?」


 乗り合い馬車の定員は車体のタイプにより様々だが、メルクからの客も乗せているのだから厳しいだろう。


「メルクバルーカ間はそれほど混まないし、全員が乗れ切れなかったら次に通る馬車を捕まえればいい」


 そりゃそうか。

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