第283話
偵察から帰り出発する。
なるべく魔物と遭遇し易そうなルートを指示するが、基本的には東に向かう中での微調整に過ぎないのでどのぐらい効果があるのかは不明だ。
問題だったリュードパーティーも戦闘を重ねていくにつれ、オークを倒すまでの時間が段々と短くなっていった。
少し慣れてきたのと、ロザリナの指導のおかげだろうか?
リュード達は10代の多感な時期の割には大人のロザリナの言うことを従順に聞いている。
自分達が足を引っ張っているという自覚があるのかもしれない。
しかし、この日7体目となるオークとの戦闘でリュードパーティーは再び苦戦するようになってしまった。
理由は単純明快で、魔術士が魔力切れで攻撃できなくなったためである。
ダメージを全く与えられてないこの魔術士の魔法でも、牽制という意味においてはパーティー内で大きな役割を果たしていたようで、魔法攻撃がなくなった途端に他の攻撃陣の手数がガクっと減ってしまった。
「ツトム様……」
『こればかりは自分ではどうにもできないので何とかして下さい』といった感じの視線で訴えてくるロザリナ。
何とかと言われても魔力を分け与えるとかできない以上俺でもどうにもできないわけで……
とりあえずは全体に休憩を宣言して対策を考える。
1番の問題はこの魔術士が放つ魔法の攻撃力の無さだ。
俺なら1発、スクエラさん(=タークパーティー所属)でも2~3発で倒せるオーク相手に10発以上撃ち込んで尚且つそれが牽制にしかならないのではすぐに魔力が枯渇しても仕方ないだろう。
魔法に関する基礎的なことをアドバイスできない俺ではこの問題を解決に導くことはできない。
であるなら、牽制攻撃の代替えとなり得る手段を提案するのはどうだろうか?
それなら何も魔法攻撃に拘る必要はなくなる。
「ちょっとよろしいですか?」
魔術士に話し掛ける。
年齢は16か17歳ぐらいだろうか?
「ハ、ハイ」
「魔力切れみたいですが、槍で攻撃してみませんか?」
「槍……ですか……」
収納から最近全然使わなくなった槍を渡す。
「あなたが攻撃参加することで他の仲間もかなり助かると思うのです」
本当は俺達が昇格するためだけどね。
「……や、やってみます」
受け取った槍で素振りをする魔術士。
まるっきり素人という感じはしないぞ。
「ひょっとして以前使ってました?」
「実戦経験はありませんが、道場に通っていた時に一通り習いました」
魔術士なのに道場に通うものなのだろうか?
いずれにせよ過去に習っていたのなら素人の俺が口出しするべきではないだろうな。
「ロザリナ!」
事情を話して後の指導を任せた。
魔術士が槍で攻撃参加するようになったリュードパーティーは、最初こそ連携が乱れていたものの徐々に慣れていき、その日の終わり頃には魔力の回復した魔術士が槍と併用して魔法でも攻撃してオーク撃破に大きく貢献できるようになった。
初日のスコア
ウェルツパーティー …14体
ムドゥークパーティー…13体
リュードパーティー …11体
明日1日中狩りができるのなら、ウェルツパーティーとムドゥークパーティーは明日中にノルマを達成できるかもしれない。
リュードパーティーも3日目にはなんとか……
夕食は皆にルルカとディアの作ったシチューを振る舞い、テントなどを設営して夜間見張りをする順番を決めた。
テントと言っても現代風の一般的な個人用の三角の物ではなく、遊牧民系の中が広いパーティー単位で使うタイプだ。
かなりしっかりとした造りなので値段もそれなりで、8万ルクもした。
休憩用の小屋くらいなら魔法で簡単に作れる俺にとってはそんな高価な物は必要とは思わなかったが、1ランク下の価格帯の物と比較すると材質からしてかなり差があったので購入に踏み切った。
今後、魔法を使うことが
組み上がった状態で収納に入れておくので、地面に杭を打つだけで即使用できるのは大変便利だ。
一方で収納持ちの魔術士がいないパーティーはどうしてるのかと言うと、駆け出しの頃は俺が王都への護衛でやったような寝袋か最悪そのまま地面に寝たりする。
テントを持参できるようになってもパーティーで分担して持ち運ばなくてはいけないし、野営の都度組み立てて出発する際は分解しないといけないのでかなり手間が掛かる。
上の等級のパーティーでも魔術士がいないと寝袋で野営なんて割と普通で、戦力度外視で収納魔法が使えるというだけで下の等級の魔術士をパーティーに加えるケースもある。
見張りは6等級の各パーティーにロザリナ達と俺1人の5交代制で、リュードパーティーを1番手にしてウェルツパーティーから1人念のため応援として加えさせた。
2番手に1人少ないウェルツパーティー、3番手がムドゥークパーティー、4番手にロザリナ・サリアさん・ゼアータさん、最後が俺である。
前線の森の中での野営は初めてだったが、夜間だからといって魔物が凶暴になるわけでも活発化するわけでもなく、集落や集団が近くにない限りは特別危険ということはないらしい。
もちろん絶対ではないので警戒を疎かにすることはできないが。
夜行性の動物もいるがこちらが集団だと襲ってはこないとのこと。
最初ロザリナに聞いていたのだけど、途中サリアさんとゼアータさんも説明に加わって来た。
1人だけ布団を敷いて寝るわけにもいかず、寝袋も当然ながらロザリナとは別々なので、テントの中で女性3人に男1人という状況もあり少しだけ悶々としてしまった。
2人から見えないようにロザリナと手を繋ぐ。そのまま指を絡ませながら眠りに落ちていった……
…
……
…………
「少しいいだろうか?」
ロザリナに起こされて3人と見張りを交代して30分ほど経った頃、同行しているギルド職員のコーディスが声を掛けてきた。
こちらが頷くと焚き火を挟んだ対面に腰を下ろした。
コップを出して果汁水を注いで渡す。
「すまない」
雑談しに来たって感じではないな。
わざわざ俺が1人になるのを狙って早く起きてきたっぽい。
「特殊個体に関する君の意見を聞きたくてね」
特殊個体……黒オーガのことだった。
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