第270話

 帰りに明日レイシス姫に届けるために、プリンとアイスクリームを買いに行く。

 もう19時近い時間帯だが城内大通りはそこそこ人で賑わっている。

 『そこそこ』というのは現代日本基準で、人口が少ない(と思われる)この世界だと大賑わいと言っていい。

 やはり領主であるグレドール伯爵も南砦を奪還したことで、転移による襲撃はもうないと判断したのだろう。

 以前は要所要所に配備していた兵士の姿も今は見かけなくなっている。


 遅い時間だったので店が閉まってることを心配したがまだ営業していた。

 店員に聞くと20時過ぎまで店を開けてるとのこと。

 働いた後で1杯飲んで良い気分なったおっさん連中が、家への土産に買うことが多いそうだ。

 俺も飲んではいないものの家への土産という意味では同じか……


 プリンとアイスクリーム、各20個ずつ計36,000ルクで購入。


 所持金  800万2,500ルク → 836万6,500ルク

 帝国通貨 353万1,500クルツ




「お、「「おかえりなさいませ」」」


 なんだ!?


「ただいま。何かあったのか?」


「いえ、特には何も」


「普段は3人揃って出迎えなくてもいいからな」


 ビックリするだろ!


「本日はたまたまですので」


「(ルルカの言うたまたまって、大体いつものことやん)」


「何か仰いましたか?」


「いや、別に…………ん?」


 料理の匂いが漂ってきた。夕食の準備をして待っていてくれたのだ。

 しまったな。アルタナから帰った今日ぐらい外食にして料理の負担を減らすべきだった。

 そして、


「俺の帰りが遅かったら、3人で先に食べ始めていいからな」


 俺の帰りを待つメリットは一応ながらあるにはある。

 収納に入れてある普通のパンも焼き立てなので美味しいのだ。

 もっとも他の料理もあるので、パン単体にそこまで拘る必要はあまりないけど。


「そういう訳にもまいりません」


「そう言わずに。ディアなんて待ちきれないだろう?」


「そこで私の名を出すな!」


 この中では一番の食いしん坊だからなぁ。


「やはりツトムさんの帰りを待って皆で食事にするべきです」


「でも遅くなる時は自分の判断で外で食べて帰ることもあると思うぞ?」


「それでもお待ちしております」


 ルルカも1度言い出したら強情だからなぁ。

 こうなったらいつものように、


「あっ……」


 ルルカをしっかりと抱き締める。

 ルルカのほうが背が高いので今一つかっこいい感じにならないけど。


「俺が先に食べてて欲しいと望んでいるんだ。

 じゃないと外で安心して活動できなくなるし、『早く帰らないと』という想いが焦りを引き起こすことも考えられる」


「そうかもしれませんが……」


「こんなことで命令したくはない。頼むよ」


「し、仕方ありませんね。そこまで仰られるのであれば」


「ルルカ、ありがとう!」


「きゃっ!? ツ、ツトムさん!? んっ……んんっ…………」


 ルルカをさらに抱き寄せて唇を重ねる。


「(ツトムはいつもああやってルルカさんを説得してるのか?)」


「(そうよ。ルルカさんはツトム様にああされると弱いから……)」


「こんなところで……ダ、ダメっ、……あっ……んっ……」


 ダメと言いつつ背中に手を回して来るルルカ。


「(……終わる気配ないけど)」


「(私達は料理を温め直しましょう)」


「(そうだな!)」


 残念ながら謁見用に買った新品の服は既に古着へと着替えられていたが、それでも存分に柔らかい女体を堪能した。




……


…………



 食後、1人2個ずつプリンとアイスクリームを出した。


「ディアは初めてだろ。感想を聞かせてくれ」


「わかった!」


 ディアがプリンに手を伸ばそうとしたところ、


「ディア、食べるのは隣のアイスクリームからにしなさい」


 ルルカからの謎のダメ出しが入った。

 まぁ溶けない内にアイスを食べろってことなんだろうけど。


「う、うむ……」


 北方部族出身のディアがアイスをどう評価するのか気にはなるが、


「食べながら聞いてくれ。

 本日城で伯爵閣下の紹介状を頂くことができた」


「それはおめでとうございます」


 3人を代表してルルカが祝辞を述べる。


「ありがとう。

 それで早速明日にでも王都に行って、魔術研究所への立ち入り許可の申請を行おうと思う。

 その帰りにアルタナに寄って、レイシス姫に献上品を差し上げる予定だ」


 頭を抑えながらディアが手を挙げる。

 北方部族でもアイスを食べると頭がキーーンってなるらしい。


「ツトムが死霊術の習得を目指すのは、収納に入れてあるオークの上位種を操るためだと聞いた。

 そんなものを復活させてツトムはどうしたいんだ?」


「どうするって、そりゃあツトム軍団を結成してだな……」


「そもそもオークなんかどこに置いておくつもりなんだ?」


「門番として家を守ってもらうとか?」


「ツトムさん、家の前にオークがいたらさすがにご近所迷惑ですよ」


「ご近所だってオークキングが警備してたら防犯になるって逆に喜ばれたりしないか?」


「それはあり得ませんね」


「むぅ……」


 オークキングや黒オーガが警備するなんて貴族すら羨むぐらいの戦力なんだけど。


「家の中とかは…………っ!? ダ、ダメだよな、さすがに……」


 無言で睨んで来るルルカの圧力に負けてしまった!

 役に立つからとアピールしたところで、オークは男女見境なく襲うことが知れ渡っているのですこぶる印象が悪い。


「となると西の森の拠点に置くか……」


 あそこに置いて魔物の進出を防がせるという手もある。

 ただその場合は初期の頃のように壁外区北口を出たところでの狩りができなくなってしまう。

 俺自身はそこで狩りをする必要はなくなったが、冒険者育成の観点からどうだろうか?


 明日王都に行く前に冒険者ギルドに行って聞いてみよう。

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