第259話

 しかし大変な事態になってきた。

 人に化ける、奴らの言葉では擬態する魔物…………言葉を発することも含めて"魔族"と呼称してもいいだろう…………のことは、知らせを受けた各国で対策を協議するのだろうが、魔族の擬態を見破れるのは恐らく俺だけだ。

 俺自身の問題として各国に対して魔族発見に積極的に協力するか否かを決めなければならない。もちろんスキルのことは隠したままでだ。

 この決断をするためには、魔族が何の為にアルタナ王都に潜入して来たのか調べなくてはならないだろう。

 人類にとってどうでもいい理由ならば俺としても余計なリスクを負う必要はない。

 だけど結局は調査の為には魔族を捕えなければならないってことになる。


 そして更なる問題が、ルルカとロザリナを王城に連れて来いというレイシス姫からの要求だ。

 今回の俺の無茶なお願いに応えてくれたことで、レイシス姫との貸し借りは0になったという認識なんだが、レイシス姫側にとっては違うのかもしれない。


 なんにせよ会談にあたってすべきこと、ルルカとロザリナとの事前の打ち合わせは必須だ。特に3人目であるディアの存在は知られてないのだから上手く隠さないと……

 あとは…………服か!

 謁見する際にふさわしい服装が必要だ。

 俺なんかは普段着である古着で普通に謁見しているが、女性の場合は新品の服じゃないとダメだろう。

 この辺の事情はロザリナが詳しいはず、明日服を買いに…………いや、今日にも買いに行くべきだ。サイズ合わせみたいなことも必要になるかもしれないからな。


 となると、現在アルタナ王都を観光というかショッピングしている3人と合流しなければいけないのだが…………

 無理!

 スキルでも魔物や魔族の位置はわかるけど人はわかりません! そもそも表示すらされません!


 ここは無難に宿で3人が帰って来るのを待つか。

 ひょっとしたらルルカとディア、2人で観光に行った時のように途中で宿に荷物を置きに来るかもしれないし。




……


…………



 宿で待っていたもののすぐに飽きてしまい、帰ったら待機しているよう書き置きを残して、宿の食堂で遅めの昼飯を食べる。

 今日は元々、闘技場で本選の組み合わせを見る、かけ札を換金する、冊子を購入する、の3件の用事を済ますつもりだった。


 食後、闘技場へと向かう道すがらかけ札を売っているテントを見かける。

 さっそく換金しようとしたが断られてしまった。

 テントの売り場では一定以上の支払いには対応できないので、売り場を管轄している商会で換金しなければならないみたいだ。

 その商会の場所を聞くと、闘技場へ行くのに少し遠回りになるけど仕方ないのでその商会へと向かう。

 飛んで行ってもいいのだが、途中ルルカ達を見つけられるかもしれないので歩きだ。



 かけ札の換金が終了した。

 10万ルクのかけ札が720万ルクに大化けした。

 賭け率は最大値の72倍だった。

 なぜ"72"が最大値なのかを聞くと、この国を含む主要4ヵ国が国教的扱いをしてる聖トルスト教は多神教で、145柱の神々を信仰しているのだという。

 そして人の身でその神々の過半に達することは畏れ多いとして、何らかの数字を決める際は73以上にならないようにそれ未満の数字から選ぶらしい。

 無信仰な自分にはまったく理解できないが、とにかくそういう理由で最大値が72倍と決められたとのことだ。

 正直戦闘ランクの低さや魔術士であるという点から競馬で言う万馬券を期待してたが、それには及ばないものの十分な金額だった。



 大金をゲットして気が大きくなった俺は闘技場へ向かう途中で、道にゴザみたいなのを敷いて農作物を売っていたお婆さんに人生で1度は言ってみたいセリフ、『この店の物を全て買おう。いくらだ?』をかましてしまった。

 本当はお姉さんが店番している小さな店でやろうかと思ったのだけど、所狭しと置かれている商品の数がこちらの想定を軽く超えてそうだったので道端の作物売りに変更したのだ。

 2万ルク近くを支払い、ついでに半端な所持金だった70ルクにいくらか足してお婆さんに渡した。

 近場の村から農作物を王都に売りに来たというお婆さんには大変喜ばれた。

 聞けば護衛を雇うと赤字になるので1人で行商に来たとのこと。

 まったく必要のない野菜や果物を収納に入れながら、お互いラッキーだったと思うことにした。



 所持金  112万8,570ルク →830万9,000ルク

 帝国通貨 353万1,500クルツ



 闘技場に到着してさっそく組み合わせを見る。

 俺の試合は6番目で対戦相手はセリュドゥクだった。

 本予選の冊子では、


 セリュドゥク・36歳・男性・人種・コートダール・剣士・軍人・前々回大会ベスト8・影のセリュドゥクとの異名を持つ。戦闘ランク189


 とあり、1組目の第1シードだった選手だ。

 他の本選出場者もチェックしてみるが、自分以外は皆第1シードばかりだ。

 ちなみにランテスは2試合目で互いに決勝戦まで進めば対戦することになる。


 最後に本選の冊子を購入し見てみる。

 本予選の冊子とは違って戦闘ランクは書いてなく、本選に出場する全選手の昨日行われた準決勝と決勝の2試合の戦評とその後の取材時の内容が書かれていた。

 俺のことは魔術士であることと15歳という年齢の2点にフォーカスされた内容で、魔法学院出身でないことにも触れられていて、『これだけの才能が野に埋もれていたことは驚きである』で締められていた。


 ついでにランテスのページも見てみる。

 なになに、若手最強剣士だとぉぉ!? 今大会における優勝候補の一角だぁ??

 過大評価なんじゃないか?


 他の選手のページもじっくり読みたいところだが、15時も過ぎた頃合いということもあり宿へと帰ることにする。




 宿に戻ると3人は部屋で待っていた。


「ツトムさん、何かありましたか?」


 俺の書き置きを見せながらルルカが聞いてくる。


「ちょっと大変なことになった。

 明後日の午前にルルカとロザリナは王城にてレイシス姫と会談することとなった」


「あのお姫様と……」

「私達が王城に……」

「レイシス姫……?」


「ディアには後で説明するとしてだな、ロザリナ。王城に行くのに古着ではマズイと思うのだがどうだろう?」


「そうですね。派手さを抑えた質の良い服が必要かと」


「決まりだな。これから3人の服を買いに行くぞ」


「わ、私もなのか?!」


「今回ディアにはお呼びがかかってないが、今後着る機会もあるだろうからついでに……な」


 1人だけ買わないというのも可哀そうだし、不満に思われても困る。


「私としてはどのような経緯でこのような事態となったのかを知りたいです。

 ツトムさんは今日あのお姫様に会われたということですよね?」


「そうなんだが、詳しい話は長くなるので買い物の後で頼む」


 高価な新品の衣服を選ぶ。しかも3人の女性が!

 長丁場になりそうだと覚悟を決めて宿を出た。

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