第253話

「おめでとうございます!」


「凄い快挙ですよ!」


 予備予選決勝と準々決勝の時と同じ建物に入るといきなり2人の男性に歓迎された。

 大会運営員ではないようだが。


「えっと…………?」


「失礼しました。私共はライオネル商会の者でして……」


「本選出場が決まったツトムさんに大会冊子発行の為の取材を是非ともさせて頂きたく」


 冊子発行…………あっ!?

 収納から例の冊子を取り出し、


「この冊子を書いたのはアンタらか?!」


 戦闘ランク8なんてふざけたことを書きやがって!


「本予選の冊子ですね。それを販売しているのは別の商会ですよ」


「巻末をご覧ください。販売元が書かれていますよ」


 ホントだ。別の商会の名が……


「とりあえず取材は後ほど……ということで、まずは本選に関する説明を行います」


 運営員が割って入って来た。

 まだ取材の了承はしてはいないが……まぁいいか。


「大会本選は明後日、王都の南にある闘技場で開催されます。ここではありませんのでご注意してください。

 当日は試合前に開会セレモニーが催されます。

 王家の方もご出席なさいますので、くれぐれも遅れないようにお願いします」


 また面倒くさそうな匂いがプンプンと……

 大会の雰囲気に飲まれて思わず勝ってしまったけど、チャルグットに負けても良かったんだよなぁ。今更だけど。


「本選の対戦組み合わせは、明朝闘技場で発表されます。以上です」


 あれ?


「カードは? 本人確認するための初代王様の絵柄の……」


「本選にカードは必要ありません。

 受付の者が皆様のお顔とお名前を覚えておりますので」


 顔パスって奴か!

 だとするともしかして……


「なら第1シードとそれ以外との待遇の差もなくなる?」


「はい。本選からは皆様一律に対応させて頂きます」


 これでようやく不快な思いをしなくて済むな!


「ではツトムさん、こちらへ」


 2人の記者……と言っていいのだろうか? に連れられて衝立に囲まれた談話所のようなところで腰を下ろす。

 よく見ると、この部屋の奥にある同じような談話所では前の試合の勝者に対する取材が行われているようだ。


「改めまして、本選出場おめでとうございます!」

「おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「早速ですが、本誌に掲載される際のツトムさんの似顔絵を描かせてもらってよろしいですか?」


 似顔絵か……俺が買った本予選の冊子に載ってるアレなんだろうな。

 別に有名になりたくてこの大会に出たわけではないし、個人情報を晒すのは極力避けるべきだろう。


「似顔絵はお断りします」


 もっとも名前と住んでる国と街は公表されるので、似顔絵を断った程度ではあまり秘匿効果は期待できないだろうけど。


「わかりました。ではシルエットのほうで」


 やけにあっさりと引いたな。

 もっと食い下がってくるのかと思ったけど。


「一時期本選出場者への弟子入り志願が急増しましてね。

 新規の方は大概似顔絵掲載は断られてますよ」


 意外そうな表情をしていたのだろう。あちらから説明してくれた。

 弟子って俺がネル先生に飛行魔法を教わったような指導を受けるのではなく、師匠と寝食を共にする古い意味での弟子入りなのかな?


「もっとも現役を退いて道場を開いている方は似顔絵を公開されてますけどね」


 宣伝目的か。

 この大会の宣伝効果はかなり大きいとレドリッチ(=バルーカの冒険者ギルドマスター)が言っていたな。


「では、本選出場を決めた今の心境を教えてください」


 思えばこんな風に取材を受けるのは前の世界含めても初めてのことだ。

 ハッちゃけた回答をしても…………うっ……

 …………目立ちたいわけではないのだ。初出場らしく謙虚な姿勢を見せておこう。

 決して誰かさんに叱られる自分を想像できたからではないぞ!


「まだ実感が沸かないというのが正直なところです。ギリギリの試合でしたので」


「ノーシード(=予備予選からの出場選手)が本選に出場するのは14年ぶりの快挙となります。

 この快挙を成し遂げた要因はどこにあると御自身では思いますか?」


「諦めなかったから、ではないでしょうか?

 戦前の評価は散々でしたが、そこで諦めなかったからこそ今があると思います」


 本予選の冊子をディスりつつ、当たり前のことをさも重要なことのように言う。

 諦めたらそこで試合終了なのだ!


「その戦前の評価なのですが、ツトムさんが魔術士である点が大きかったかと思います。

 魔術士が本選に出場することも非常に珍しいのですが、魔術士の大会参加自体が減少している中でその存在をどうアピールされますか?」


「魔法とは可能性です。

 自分や周りの常識に囚われていてはその可能性を潰すことになります。

 恐れずに一歩を踏み出してください。

 その踏み出す足の先に必ずや希望があるはずです」


 やべぇ……

 自分で言ってて意味がわからん!


「えっと……、魔術士は積極的に大会に参加すべしといったことでしょうか。

 次はツトムさん御自身について伺いたいと思います。

 ツトムさんは現在ベルガーナ王国南部にあるバルーカで5等級冒険者として活動されています。

 冒険者になる前の魔法学院時代はどんな生徒でしたか?」


「自分は魔法学院には通っておりません」


 なんかマズイ流れになりそうだ……


「魔法学院に通われてない?!

 で、ではどのように魔法を学ばれたのでしょうか?」


「基本的なことを諸先輩方から学んで、応用面は冒険者として実戦を経験していく中で試行錯誤しながら習得していきました」


 諸先輩方って誰なんだよ! という話ではあるが、ここで嘘を言うのは仕方ないだろう。

 おおやけにルルカ達に説明したような他所から飛ばされてきたことを言うのは躊躇ためらわれたのだ。変に追及されても困るし。


「しかしそのお若さで……

 昔の大会は年齢を申告する義務がなかったので定かではありませんが、年齢を記載するようになって以降では間違いなく本選出場最年少記録ですよ!」


「はぁ……ありがとうございます?」


 最年少記録だとか言われても若返ってのことなので純粋には喜べないけど。


「では最後の質問となります。

 14年前の大会では増加する大会参加者に対応するために予備予選制度が初めて導入されました。

 まだシード枠も現在のようには整備されておらず、ノーシードからの本選出場も十分可能でした。

 その後、予選制度が整った後はノーシードが勝ち上がるのは夢のまた夢となっていましたが……」


 現在の予備予選→本予選→本選というシステムになってまだ10年ぐらいなのか。


「ズバリ! 本選に勝ち上がるノーシードが今後も現れると思われますか?」


「現れると思いますよ。

 例えば冒険者だとパーティー単位で昇級が決まりますので、低い等級のパーティーにも実力者がいる可能性はあると思います」


「なるほど。ツトムさんのような実力者が今後もノーシードから次々と現れるかもしれないということですね!

 本日は取材を受けて頂きありがとうございました。

 本選での活躍を期待しています」


「こちらこそありがとうございました」


 まずまずの取材対応ができたのではないだろうか。

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