第252話

 テント型の個室に戻って休んでいると、


「ツトム! いるか!?」


 グリードさんがテントに入ってくる。

 決勝戦を戦った後のようだ。

 見たところどこもケガしてる様子がないので、


「勝たれたみたいですね。おめでとうござ……」

「いんや、負けた!」


 はぃ?


「傷ひとつなさそうに見えるのですが」


「変な言い方だが、こっちがケガするようなまともな戦いにすらならなかった。

 ありゃあバケモンだわ」


 そんなに強い相手だったのか……


「それですぐバルーカに帰るから挨拶だけでもと思ってな」


「この後すぐ? 明後日の本選はご覧にならないので?」


「パーティー全員で来ていればそうしたんだがな。

 リーダー1人だけアルタナ観光するわけにもいかないさ」


 ナタリアさん達は一緒じゃなかったのか。

 そうだ!


「この後の自分の試合だけでも見ませんか?

 試合後にバルーカまで運びますから」


「ツトムは飛行魔法が使えるのだったな。だったら…………

 いや、やっぱり止めておこう。

 緊急時とかならともかく、何が悲しくて男2人で抱き合って飛ばないといけないんだ?」


「それもそうですね」


 例え女性を抱いて飛んでも、魔法行使中は下半身的な興奮は一切沸かないのだけどな。

 まぁ男を抱えて飛ぶのと女性を抱いて飛ぶのとでは気持ちの上で大差があるのは事実だ。


「それじゃあツトム、頑張れよ」


「グリードさんも道中お気を付けて」



 グリードさんが去って割とすぐ運営員が呼びに来た。

 準決勝の時と違って明らかに進行スピードが早くなっており、決勝戦になって第1シードが本気を見せ始めてきた感じだ。

 俺の決勝戦の相手は、


 チャルグット・38歳・男性・人種・グラバラス帝国・騎士・元軍人・前々回大会ベスト16・戦闘ランク172


 元ではあるが軍人と対戦するのは初めて…………か?

 ひょっとしたら予備予選で戦った中にいたかもしれない。受付の列で並んでいた時に話したおっさんのように。

 どうして軍を辞めたのかとか、帝国軍のこととか、金髪ねーちゃんは知ってるかとか色々と聞きたかったけど話しかける暇もなく舞台へ移動となった。


 チャルグットは漆黒の鎧に身を包んだ偉丈夫で、この大会ではほとんどの出場者がスピード重視で軽装備な中で一際異彩を放っている。

 そして手に持つ武器は騎乗用のランスだ。もちろん先端はカットされていて丸められている。


「はじめっ!!」


 とにかく先手必勝!

 火鳥風撃!!


 チャルグットは体の前でランスを高速回転させて完璧に防ぐ。


 炎の鳥はともかく、風槌の弾幕をあんな方法で防御するなんて……

 何発か回転するランスの隙間をすり抜けてヒットしてもよさそうなんだが。


「さっきの準決勝は見させてもらったよ。

 その魔法は私には通用しない」


 その重厚な見た目とは裏腹にやや甲高い声だ。


「今度はこちらからいくぞ!」


 こちらも重そうなランスを軽々と振り回して攻撃してくる。

 反射的に剣で合わせてしまうが、


 ゴキッ!?


「ぐっ!?」


 剣で防いだ意味もなく、そのまま押し切られて肩に直撃してしまい、骨に大ダメージを負ってしまう。

 もちろん即回復させるが、


「大したモノだ。通常であれば今ので私の勝ちなのだが……」


 あのランス……

 もはや槍というより鈍器だ。


「ならばこれならどうだ!!」


 チャルグットはランスを小脇に抱えるように持ち、突進して来た!

 本来ならば騎乗しての攻撃なのだろう。ランスチャージってやつだ。

 魔盾で防御するが、魔盾を突き破りそのまま俺の体ごと突き進んでいく。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 最後にランスを突き出して円形の舞台の外、場外へと俺を突き飛ばした。

 このまま場外へと落ちてしまうと当然負けてしまうので、飛行魔法で舞台中央へと戻る。


 ワァー!! ウォーー! ワァー!! ワァーワァー! ワァーワァー!


「飛行魔法まで使えるのか……多彩だな」


 一連の攻防に観客は大盛り上がりだが、防戦一方な俺はそれどころではない。


 とにかく攻撃だ。

 こちらから仕掛けてなんとかペースを握らないと、相手の流れのまま攻撃を受け続けてはこちらに勝機はない。


 火弾を射出していく。

 今大会初使用で実戦でも久しぶりに使うが、チャルグットの鎧なら大したダメージにはならないと踏んでの攻撃だ。


「ぬっ!?」


 またもやランスを高速回転させて防がれてしまう。

 しかし狙いはここからだ!

 こちらの攻撃を防いだ後に攻撃へと移行するタイミングを狙って、


 風槌アッパー!


 単発ではなく次々と撃ち込む!!


 しかし、ランスを横向きに盾代わりに使われてことごとく防がれてしまう。


「そろそろ手札は尽きたか?

 ならばこの試合、勝たせてもらおう!」


 チャルグットが猛攻を仕掛けてきた!


 どうしてそんな鎧を着込んで素早く動けるのかは謎だが、急所だけはなんとか防御しつつ、ダメージを負ったら即回復魔法を使い、回復魔法の合間を縫って魔盾でも防いでいく。

 ランスの柄の部分すら武器として使う凄まじい連続攻撃に反撃する隙間がまったくない。


 どのぐらいの時間が経ったのだろうか?

 勝機の見えない出口のない防御戦が続くことに心が折れそうになる。

 だが……

 観客席ではルルカ達が見ているのだ!

 ここで為す術もなく負けてしまえば彼女達は主に失望するだろう。

 そんなものなのかと。

 普段偉そうにしてるのにその程度かと!


 防御一辺倒だったがなんとか耐えていると、若干ではあるがチャルグットの動きが落ちてきたのに気付いた。

 そうだよ!

 チャルグットの年齢は38歳。肉体的なピークは既に過ぎている。


「いい加減……諦めろ!」


 大振り!!

 ランスを振りかざそうする脇が少し空いたのを俺は見逃さなかった。

 魔盾でいなしてようやく訪れた僅かな間に、


「俺が諦めるのを…………諦めろ!!」


 火鳥風撃!


「その魔法は通用しないと言ったはずだ!」


 チャルグットは3度ランスを高速回転させる。


 だが…………


 ゴンッ!!


 ドサッ!!


 後頭部への攻撃にチャルグットは昏倒した。


「1、……2、……」


 最後の一撃は模擬戦用に先を丸くした土刺しで、後ろからチャルグットの後頭部をどついたのだ。

 疲労と焦りで集中力を欠いていたのだろう、万全の状態なら回避されたはずの攻撃だ。


「……9! ……10! 勝者ツトム!!」


 ワァー!! ワァー!! ワァーワァー! ワァーワァー!


 観客席に手を振って帰ろうとすると、


「君は勝ったのだからこっちだよ」


 これまでとは反対側の建物を指差された。


「あとコレ、元に戻してね」


 舞台から斜めに伸びている土刺しの棒をコンコンと叩きながら審判が言う。

 自分で直さないとダメなのね……

 舞台を直し、ついでに倒れているチャルグットに回復魔法を、攻撃した場所が場所だけに慎重にかけた。

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