第247話
回復魔法を掛けて起こしてあげる。
「やられたわ、貴方の勝ちよ」
『回復魔法が使えるのね。近接戦闘中に使えるなんて大したものだわ』
「こちらもこんなに魔法が破られるなんて思いませんでした」
「貴方なら本選出場できるわ!」
『私達の分まで頑張ってね!』
「ありがとうございます。
第1シード相手でも簡単にはやられませんよ」
2人?と握手を交わす。
会場内が温かい拍手に包まれて、3人?で客席に手を振って応えた。
…
……
…………
「準決勝進出おめでとうございます! こちらをどうぞ」
予備予選決勝の時と同じ建物で運営員からまたカードを渡された。
前のと同じカードかと思ったが、書かれていた数字は『14ー6』だった。
この数字の意味は簡単だ。14組のトーナメント表の6番目の選手ってことだ。
「明日は2ヵ所の会場に分かれて試合を行います。
各組の準決勝を全て終わらせてから各組の決勝戦を行いますのでご注意を」
「2ヵ所同時に試合をするのか?」
「はい。明日は全部で48試合消化しなければなりませんので、試合が長引いたりしますと1つの会場では厳しく……」
第1シードが出てくる明日の試合はこれまでの予選のように流れ作業で多くの試合を消化させる訳にもいかないのだろう。
「会場は組の前後半で分けますので、明日のツトム様は11試合目となります。
朝一番で会場入りする必要はないかと思いますが、試合に遅れないよう注意してください」
「遅れたら不戦敗になるのか?」
いくら予選とはいえもう準決勝なんだし試合を後回しにして待つぐらいの対応をしてもいいと思うけど。
「受付を済ませて会場入りされていれば準備や用足しなどで遅れてもお待ちできますが、会場入りされてないと失格となります」
「わかった」
会場入りしていれば多少の遅れは許されるのか。
宮本武蔵を真似るのも俺の不意打ちメインな戦い方からすれば十分アリなんだが……、俺は剣士ではないからなぁ……
ロザリナの試合会場に行く前に、明日の観戦チケットを買うことにした。
昨日観客席で話した女性も第1シードが出てくる明日の試合は盛り上がると言ってたので、チケットが完売する前に確保すべきだろう。
チケット売り場に行くと、
一般券が6000ルク、指定席券が1万2000ルク、と昨日買った時の倍の価格になっていた。
昨日買ったチケットは1組分の試合しか観戦できないので、1つの会場で行われる24試合全てを観戦できることを考慮すれば妥当な価格か。
早速買おうとしたところで脳内で待ったがかかる。
(何枚買えばいいんだ?)
ルルカとディアの分で2枚は確定なので、要はロザリナが今日勝ち残れるかどうかが問題だ。
準々決勝で当たる第2シードは3等級クラスなのでロザリナには厳しい相手だ。
しかし勝負に絶対はない。
3枚買って置いてロザリナの勝敗に応じて対応するか。
『私が負けると思われていたのですね……』
どちらに転んでも言われそうではあるが。
ん?
指定席券を3枚買ったところ、もう1つの会場のチケットとかなり売れ行きの差があるのに気付いた。
無論売れてるのは別会場のほうのチケットだ。
「なんでそちら(=別会場のチケット)はそんなに売れているんだ?」
販売員に聞いてみる。
「こっちは本予選1~8組の試合が行われる会場の観戦チケットだからですよ」
それは知ってるねん。
その理由を知りたいねん。
「あー、第1シードの人気選手がこちらの会場に固まっていますので大半がそれ目当てのお客さんですね」
俺がわかってない顔をしてたのを察してかさらに説明してくれた。
そう言えば異名持ちがいるのも8組目までで、9組目以降は第1シードに異名持ちはいなかったような。
まぁついさっき対戦したノルレインみたいな例外もいるけど。
結局あの『魅惑の二重乱舞』って異名が別人格のマリアンヌとのことを指しているのだとしたら……
絶対ダブルなんとかってルビ的なカタカナ名称が付けられているに違いない。
ロザリナが試合をしている会場に移動する。
指定席で観戦している2人の内、ディアを1つ移動させて2人の間に座る。
「ロザリナはどんな感じだ?」
「もう3回勝ちましたよ」
「次が4回戦だ!」
結構試合進行が早いな。
「あの! ツトムさんのほうは……結果は……」
「ゴ、ゴクリ……」
「もちろんちゃんと勝ったぞ!
何も問題なしだ」
「お、おめでとうございます」
「(本人がいつも言ってるように本当に強いのか?)」
「今日の試合はどうだった?」
「はい。炎の鳥が空に昇っていく様子はとても綺麗でした」
おぉ~、感触はバッチリだ!
「次の試合では炎の鳥がすぐに掻き消えてしまって残念でしたけど……」
火鳥風撃は今一つな感じか。
1発目の火魔法の鳥はダウンから立ち上がる際の演出だったけど、審判から警告を受けたからもう試合では使えないしな。
「(模擬戦では不利と言われる魔術士が、大会に出てるような強者を相手に見せ方に拘りながら勝つなど尋常ではない。
なぜそんなことをしているのかはよくわからないが……)」
「そうだ!
夜にでも王都の外に行って火魔法の鳥を見てみるか?」
複数打ち上げたりもっと大きくしたり練習がてらルルカに見てもらうのもいいかもしれない。
「そこまでして頂かなくても……
ここは他国ですし、家に帰った後で機会があればその時に」
「そうか……そうだな。
ん? ディアどうした? 難しい顔をして」
「い、いや、大したことでは……
あっ! ロザリナが出てくるぞ」
ワァー! ワァー! ワァー! ワァー!
ロザリナが舞台上に出てきた途端、会場中から歓声が沸き起こった。
「結構な人気なんだな」
俺が舞台に上がったぐらいではこんな歓声は起きない。
さすがに火魔法の演出時はこれよりも大きな歓声だったが。
「女性が勝ち上がっていくのが珍しいからではないでしょうか?」
そんなものだろうか?
シード枠にも女性がいるとはいえ、確かにノーシードから勝ち上がっていく女性は珍しいか。
審判が手を振り降ろし試合が始まる。
対戦相手の男性は4等級ぐらいだろうか?
剣の腕では若干ロザリナを上回ってるように見える。当然パワーも上だ。
ロザリナが上なのはスピードだな。
足を止めて打ち合わずに、なるべく相手の攻撃をいなすように細かく動きながら戦っている。
改めて観客席という客観的な視点から試合を見ると、ロザリナは俺と奴隷商で戦った2ヶ月前より強くなってるのがわかる。
2人で狩りに行った時から薄々気付いていたことではあるが。
俺に買われて以降、1人あるいは冒険者ギルドで修練のみに専念した結果何かを掴んだのだろう。
冒険者として活動していた時は長期間パーティーから離れて剣の腕を磨くなんてできなかっただろうし。妹のサリアさんも同じパーティーにいるのなら尚更だろう。
人気が出るのも頷けるその舞うようなロザリナの戦いぶりに、俺はいつのまにやら目を奪われていた。
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