第246話

「……7、……8、……9、……10! 勝者ツトム!!」


 風槌の乱打を受けた相手は立ち上がれず、2回戦も無事勝利した。


 『火鳥風撃』

 試合の合間に考えたにしては良い技ではないだろうか?

 火魔法の鳥で相手を驚かせたり身構えさせることができるので、その後の風槌の弾幕も非常に撃ち易い。


 ウォーー! ワァー!! ワァーワァー! ワァーワァー!


 そして何よりこの歓声!

 演出的にもバッチリなので試合会場も大盛り上がりだ。

 客席のルルカ達を見ると勝利を祝い拍手してくれている。

 まぁ、キャーキャー騒ぐような年齢でもないか……




 その後、3回戦も火鳥風撃で勝利し、4回戦は対戦相手が前の試合で大怪我したので棄権し不戦勝となった。

 ルルカ達も4回戦時には客席にいなく、ロザリナのほうの会場に移動したみたいだ。


 そしていよいよ本日5試合目、準々決勝第1試合である。


 対戦相手は第2シードの、

 ノルレイン・25歳・女性・人種・グラバラス帝国・剣士・3等級冒険者・前回大会本予選出場・魅惑の二重乱舞との異名を持つ。戦闘ランク105


 3等級冒険者なのに異名持ちだ。


 舞台中央で対峙する。

 長身でロザリナと同じぐらいの背丈だろうか?

 スラっとした体型をしていて、金髪ロングのポニーテールの後ろ髪が背中まで伸びている。


「はじめっ!」


 女性にいきなり火魔法をブチかますのはどうなんだろう?

 とか考えていたら先手を取られてしまった。


「いくわよ! マリアンヌ!」

『ノル! 相手が魔術士だからって油断したらダメよ』

「わかってる……わっ!」


 なんだ?

 誰と話した? マリアンヌ??


『チャンスよ! 相手は戸惑っているわ!』

「一気に畳み込む!」

『いっけぇぇぇぇ~~!』


 剣が話しているのか?

 ま、まさか……魔剣?


 お、落ち着け……

 この大会で使用する武器は刃引きをしなくてはならない。

 希少価値の高い魔剣の刃を潰すなんてありえないだろう。

 何か話す魔道具みたいなものを持っているのだろうか……


 ノルレインは盾を持たずに片手剣でガンガン押してくるタイプだ。

 剣の技量的にはロザリナと同水準だが、身体の動かし方が抜群に上手い。

 女性ならではの体の柔らかさを生かしたトリッキーな攻撃を繰り出してくる。


 当然の流れとして俺の剣技では防ぎきれず何度も痛打を浴びてしまうが、ほぼノータイムで回復させているのでダウンすることはない。

 実剣を使用しているとはいえノルレインの攻撃力もそこまで高くはなく、木刀使用時のランテスのほうが打撃力は上だ。


「くっ、何度もヒットしているのに!?」

『こいつおかしいわ!』


 いや、お前らのほうがおかしいから!!


 回復魔法の合間を縫って水棍での攻撃を試みる。


「水魔法!?」

『当たり前でしょ! 魔術士なんだから!』


 剣で防御しつつ水棍で攻撃するという慣れない戦い方に四苦八苦しつつも徐々に感覚を掴んでいく。


「これまでの試合で水魔法なんか……」

『ノル! 落ち着いて! 冷静さを欠いたらダメよ!!』


 ここでふと気付いた。

 なにも律儀に水棍1本だけで攻撃することもないと。


「2つ同時に!?」

『避けて!』


 2本に増やした水棍攻撃をノルレインはその身体能力の高さでギリギリ避けていく。

 見事に回避してるが……


「3本目!?」

『ノル!』


 3本目の水棍による突きをノルレインは左腕でガードする。


「!?」

『ノル! 次が来るわよ!』


 間髪入れずに水玉を大量射出。

 ノルレインは後方に下がりながら剣を振るって水玉を迎撃した。


「…………マリアンヌ、この水魔法大したことないわ」

『どういうことなの?』

「攻撃力が全然なのよ。まともに喰らわなければどうってことないわ!」


 チッ、バレたか……

 スキルレベルが低いことも影響してるだろうが、水魔法自体が敵を倒すような攻撃力がない。

 ある程度の実力者には脅威にならないだろうことは予想できた。


 ただ、こちらもノルレインのことが少しわかってきた。

 彼女が会話しているのは魔剣や喋るアイテムとかではなく日本で言うところの腹話術だと思う。

 声色を変えたりマリアンヌが話す際にはノルレインは唇を動かしてなかったり結構本格的だ。

 もっともなぜこんなことをしているのかはよくわからないが……

 ちょっと突いてみるか。


「あなたが話しているマリアンヌというのは誰なんだ?」


「親友よ!」

『そうよ! 私とノルは一心同体なんだから!』


 自分でマリアンヌという人格を創ったのか、それとも本当に親友は実在したけど亡くなってしまった……とか?


「だけど俺にはその存在が見えないが……」


「ここにちゃんといるわ! 私のここにね!!」


 ノルレインは自分の胸を何度も叩く。


 まぁ本人がそうだと言ってるのなら別にいいか。

 俺は精神科医でもなんでもないしな。


『そんなことより火魔法の攻撃をしてきなさい!』

「そうよ! 私とマリアンヌで破ってあげるわ!」


 そう言えば途中俺のこれまでの試合を見ていたみたいなことを言ってたな。

 火鳥風撃は不意打ちしたほうが効果的なんだけど……

 しかしこういう真っ向勝負も嫌いではない。

 いいだろう!

 その挑戦、受けようではないか!!


「火鳥風撃……」


「??」

『なに?』


「これから俺が放つ魔法攻撃の名だ」


「ふ~ん、変な名前!」

『センスないわね!』


 くっ……なぜ俺のハイセンスなネーミングが評価されない!?

 絶対異世界言語スキルに問題あるだろ!


「いくぞっ!」


「きなさい!」

『勝負よ!』


 火魔法の鳥発射!

 そして風槌の弾幕で火鳥諸共相手を撃つ!


 !?

 ノルレインは姿勢を低くして腕でガードしながら突っ込んで来た!


『君の欠点はね、魔法攻撃に威力がないことなのよ!』

「そう! 来るとわかっていればこんな魔法なんてどうってことないわ!」


 風槌の弾幕は魔力コスト削減のために攻撃範囲を絞っている。

 下半身の範囲ががら空きなのを見抜かれていたか。

 しかし……


『切り札を破られて気落ちしている今が好機よ!』

「私達の勝ち……ぐはっ!?」

『ノル? ノル?』


 ノルレイン(とマリアンヌ?)が攻撃に意識を傾けた瞬間を風槌アッパーが捉えた。

 不意打ちが最も効果的なのはこの風槌アッパーなのだ。

 剣を振り上げようとした体勢のままノルレインは舞台上に倒れ込んだ。


「1、……2、……」


 審判がカウントを開始する。


『ノル! しっかりして!』

「くっ……、あ、足が……」


「……5、……6、……」


『私達本選に出るんでしょ! パーティーのみんなも応援してるのよ!』

「ごめん、マリアンヌ……」


「……10! 勝者ツトム!!」


 ダウンしながらも腹話術で演じ続けたその強い想いは実にあっぱれだ。

 個人的には恋人と過ごす時どうするのか非常に気になるが……特にイチャイチャする時とか……

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