第215話

「ツトム君、殺気が漏れているよ」


「す、すいません」


 俺にも殺気なんてものが出せたのか!?

 もっともほんの少ししか出せてないのを子爵は漏れてると勘違いしたみたいだけど。


「私や伯爵が中立派なのは知っているね?」


「はい。ナナイさんから聞きました」


「殿下絡みで何か問題が起きたら私か伯爵に必ず相談するように。

 何とかすると確約することはできないが、先方と話し合う場を作るぐらいはできるはずだ」


「ご迷惑をお掛けすることになりませんか?」


「もちろん何も問題を起こさないのが一番だし、君には不用意な言動は厳に慎んでもらいたい。

 だが、君と国軍がぶつかるような最悪な事態こそが、私や伯爵にとっては迷惑この上ない状況だからね。

 それに比べればどうということないから遠慮しなくていいよ」


「すいません。よろしくお願いします」


「うん。

 殿下は王位争いに敗れたとはいえ、国内外に未だ一定の影響力をお持ちだ。

 今の君は政治的にはある程度殿下に守られている状況下にある。特に他国に対してはね」


 そうなんだよな。

 この間の帝国の何とかという貴族(=ランドール侯爵家のこと)からの調査も先手を打って断れたのは姫様だからだろうし。


「あとは直接的な戦力だが、これは君自身でどうにかすべき問題だろう」


「はい……」


 俺自身は例え襲われても魔盾も回復魔法もあるからどうとでもなる。

 問題なのはルルカ達だ。

 ロザリナを護衛に付けたり、新しい護衛を買おうとしているのは、犯罪行為に対する備えであり抑止の為だ。無論本音の部分では女性を増やす為の口実でしかないが……

 今後はもっと大きい集団や組織を対象とした防衛策を考えなければならない。



「今日最後の用件だ。

 君は王都にある魔術研究所に入る為に閣下の紹介状を欲していたね?」


「はい」


 今日にも紹介状をもらえるのかな?

 戦力ということなら死霊魔術の可能性に大いに期待したいし!


「閣下の紹介状を渡すには、君がアルタナ王国で開催される武闘大会に出場することが条件となる」


「武闘大会ですか……」


 くっ……

 紹介状ってタダでくれるモノなんじゃないのか!?


「どうかな?」


「やらさせて頂きます!」


 これは断れない。

 今の俺の状態(唯一のイリス派)なら紹介状は姫様にお願いすることもできるが、それをしたら既にお願いした伯爵やロイター子爵の顔に泥を塗ることになる。

 まして今後中立派である2人にお願い事をする可能性が大いにあるだけに、ここはやる以外の選択肢は存在しない。


「そうか。

 一応本選に進んでくれたら無条件で紹介状を渡そう。

 仮に予選で負けてしまったとしても、相応の相手ならば条件を満たしたこととする。

 その場合は予選を扱った冊子を買ってくること」


「わかりました。

 一つ質問しても?」


「なんだい?」


「自分が武闘大会に出場することで、伯爵様やロイター様にどのような利点があるのでしょうか?」


「特にはないよ」


「するとひょっとして今回のことは冒険者ギルドから……」


「正解だ。

 なんでも君は自分に来る指名依頼を全て受け付けないようにしてるそうじゃないか。

 君らしいやり方だとは思うがね」


 以前昇格試験に助っ人した見返りとしてレドリッチ(=城内ギルドのギルドマスター)とそのように取引をした。

 実はレドリッチにはもう1回だけ好きに願い事を言うことができる。

 それにしてもレドリッチめぇ……

 直接指名できない代わりに軍を経由して俺を動かそうとするとは。


「軍が冒険者ギルドと定期的に連絡会議を開いてるのは知っているだろう?」


「はい」


「先日の会議でギルド側にお願いされてね。

 軍としては冒険者ギルドに対して借りが溜まりに溜まっているから、ここらでわずかでも返済しておきたいんだよ」


 まして日頃から対魔族の最前線である南部領の軍は冒険者ギルドとの関係性を重要視しているからな。


「大会みたいなものに出るのは初めてのことなのでご期待に添えるかわかりませんが、全力を尽くします」


「うん。期待しているよ。

 武闘大会に関する詳しいことは冒険者ギルドで聞いて欲しい」



 所持金   74万2,570ルク →174万2,570ルク

 帝国通貨 893万6,500クルツ




 レドリッチのいる城内ギルドで武闘大会のことを聞くのはなんとなく癪に障るので、壁外ギルドでミリスさんに聞くことにした。俺は壁外ギルドの所属だしね。


「ツトムさん、武闘大会に出場なさるのですか……」


「ええ、訳あって出ざるを得なくなりまして。

 大会っていつからなんでしょう?」


「ちょっと待ってくださいね。大会要綱をまとめたものが確かここに……

 あ! ありました!」


 受付の後ろにある棚を漁っていたミリスさんが1枚の書類を持ち出してきた。


「えっと……、大会の参加受付は3日後から7日後の5日間で、4等級以上は等級に応じて本予選でのシード権を得ることができます」


 姫様とのご褒美面談が5日後だから問題ないな。


「ツトムさんの場合は受付して即予備予選に出場することになりますね」


 予備予選?


「ひょっとして予備予選を勝ち抜かないと本予選には出られず、数多あまたの強者がシードされている本予選を勝ち抜かないと本選には出場できない?」


「もちろんです!

 本選の出場枠は16で、冒険者で本選に出れるのはほとんどが1等級か2等級ですね」


 ハードル激高っ!!

 例えるなら無名高校の野球部に入って甲子園目指すようなもんだろ?

 メジ〇ーの主人公だって甲子園出てないんだぞ。

 プレイボ〇ルの谷〇君だって甲子園無理だったのに……


 うん。本選出場は諦めよう。

 予選で相応の相手に負けることで条件をクリアする。

 問題なのが相応の相手というのがどの程度を指しているかなのだが……

 いくらシードとはいえ4等級は論外だろうな。3等級相手もメルクでの昇格試験で勝ってしまっているだけに難しいかもしれない。

 となると、2等級以上と対戦することが条件になる訳か。


「冒険者以外で本選に出てくるのは軍関係ですか?」


「そうですね。

 今回の開催国はアルタナ王国ですから、獣人の凄腕近接職が多数出場してくるかと」


 ランテスみたいなのがたくさん出てくるのかよ。これまたやべぇな。


「今回このギルドからの大会参加はツトムさんだけになりますので、頑張ってくださいね!」


「頑張りますが、あまり期待しないでくださいね」




 壁外ギルドを後にして壁外区の北の草原地帯を目指す。

 ここのところ日課にしている魔法の練習をする為だが、それに武闘大会に向けての対策も加えなければならない。

 付け焼き刃だがやらないよりはマシだろう。


 我が家が見える路地を通り過ぎようとした時だった。

 家の前に豪華な馬車が停まっているのを目撃した。

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