第212話

 収納から買い溜めしてあるパンとビーフシチューもどきを出し、ルルカの調理した肉料理で夕食にする。

 先ほどの話の影響からか場の雰囲気が重たい。

 妊娠・出産なんて経験者であるルルカはともかく、俺とロザリナにとっては初めての事柄なので仕方ないけど。

 とりあえず軽い話題を……


「俺の依頼中は2人は何をしてたんだ?

 まずはルルカから」


「私は実家で家事や店の手伝いをしておりました」


 えっ?

 それだとあまり休めてなくないか?


「体調はどうなんだ? 疲れてないか?」


「久しぶりの本格的な家事でしたので疲れはしましたが、ご心配頂くほどではありませんよ」


 無理しているようには見られないが……

 実家に帰らせたことを後悔はしてないが、休めなかったというのは完全な計算外だ。

 帰省中はてっきり実家でダラダラと過ごしているもんだとばかり思っていたけど。

 異世界事情や時代背景が要因とも思ったが、どちらかといえばこれは各家庭によりけりなのだろう。

 なんにせよ落ち着いたらルルカに休暇をあげないと、


「ルルカには後日改めて休暇を与えよう。

 そうだな……、王都の宿で数日のんびりと過ごすというのはどうだ?」


「休暇など頂かなくとも大丈夫です」


「しかしだな……」


 ロクに休みもないでは職場環境がブラック過ぎるだろう。


「この件はまた今度話し合おう。

 次はロザリナだな」


「私はギルドで剣の指導をしたり、妹と買い物をしたりしました」


 ロザリナの場合剣は趣味も兼ねているから休み方としては健全だろう。

 しかしギルドではもう完全に指導員の立場なのだな。


「次の機会にはサリアさんの依頼を手伝ったりしてもいいぞ」


「よろしいのでしょうか?」


「危険な依頼はダメなのと、冒険者ではなく一個人として手伝うこと、当然報酬は受け取らないこと、これらの条件を満たすように」


「わかりました」


 報酬無しは可哀そうかなとも思ったが、報酬を受け取ると責任も発生してしまうので無しにせざるを得ない。もっともサリアさんが余分に報酬を受け取るのだからロザリナとしても不満はないだろう。


「最後は俺だな。

 依頼初日にバルーカが魔物に襲撃されたのを撃退して、2日目にその残党を殲滅して以降は戦闘は一切なく、ひたすら待機するだけだった。

 明日は城に行き今回の依頼の報酬を受け取り、明後日に帝都で奴隷を見てくる」


 最後の奴隷のとこで2人に少し反応があった。具体的には2人の目元がピクッとしたのだ。


「あと2人に告げておかねばならないことがある。

 俺は新国王陛下の姉君であらせられるイリス・ルガーナ殿下にお仕えすることとなった」


「「!?」」


「正直どのような経緯でこうなったのか俺には全くわからないのだが、王族の方々に忠誠を誓うのは王国民の義務でもあるし、ましてイリス様は俺のことを気に掛けてくれる素晴らしいお方でもあるので全力でお仕えしたいと思う」


 ご褒美目的だけどな!!


「ロザリナ、何をしたから派閥入りしたかとかわかるか?」


「い、いえ、父は騎士爵でしたので派閥とは無縁でした。

 ですのでまったくわかりません」


「ルルカはどうだ?」


「私にもまったく…………ただ……」


「ただ?」


「ロクダーリアで商売していた時に、所属していた商工会でお貴族様に贈り物をするということで、その一部5万ルクを負担したことがあります。

 そのお貴族様はロクダーリアの内政を統括されていた方ですので、今にして思えば商工会全体でその方の派閥に入ったのではないかと」


 贈り物をしたから派閥入りをした?

 思い当たるのは当然あのバカ高いキラキラした首飾りだけど……

 王族なんてあちこちから贈り物をされるだろうから、それを一々派閥入りさせていたらキリがないと思うけどなぁ。


「その5万ルクを払った見返りは何かあったのか?」


「年間2~3万ルクの利益を見込める仕事を紹介して頂きました。

 荷馬車が魔物に襲われずにあのまま商売を続けていたらかなりの利益を生んでいたでしょう」


「支払った額以上の価値はあるわけか……」


 しかしルルカはよくその貴族に目を付けられなかったな。

 普通は5万ルクなんていらんからワシの相手をしろ~的な展開になると思うけど。

 きっとその貴族はロリ野郎に違いない!

 でもそのおかげでルルカが無事だったのなら、ロリ貴族には酒の1本でも贈るべきかね。


「ツトム様、質問があるのですが」


「なんだ?」


「殿下に全力でお仕えするとのことですが、城にご出仕なさるのでしょうか?」


「いや、あくまでも忠誠を誓うだけで家臣になる訳ではない。

 冒険者なのはそのままなので、商人が派閥入りするのと同じ扱いらしい」


「ツトムさん、私からもよろしいですか?」


「いいぞ」


「イリス殿下の派閥に入ったことでツトムさんにどのようなメリットがあるのでしょう?」


「そんなの姫様のごほ…………ごほんっ!? ごほ! ごほ!…………」


「?」


 あぶねぇぇ。

 姫様のご褒美以外のメリットは……


「失礼。

 殿下の……強いては王家の御威光に守られるということだな。

 現に俺にちょっかいを掛けてきた帝国のなんとかという侯爵家を殿下は一蹴されている」


「以前にも帝国に誘われていましたよね?」


「今回は単に引き抜きということらしい。

 前回は下っ端ながらも貴族にということだったからかなり扱いに差があるな」


 もっとも金髪ねーちゃんも初対面の俺に真剣に求婚したわけではないだろうから、どちらも大して差はないのかもしれない。


「他に聞きたいことはあるか?」


「いえ」「ありません」


 食事も終わり普段なら風呂でのイチャイチャタイムなんだが、まだ若干微妙な雰囲気なんだよな。


 そうだ!!

 西の森の拠点に作った空中風呂に入ろう!


「以前に行った森の拠点に露天風呂を作ってある。

 今日はそこに行こう」


「露天風呂……ですか?」


「どんなのかは行ってのお楽しみだな。

 作ったのが10日以上前だからとりあえず様子を見てくる。

 2人は家で待っててくれ」


「わかりました」


「ロザリナ、森の拠点へはもう夜だし飛んで行くからそのつもりで」


「か、覚悟はできております」


「目をつむっていればすぐ着くから気持ちを楽にな」


 3人目の奴隷を購入したらロザリナと狩りに行くことも可能になる。

 その時の為に徐々に飛行魔法での移動に慣れてもらわないと。




 西の森の拠点へは全速で飛べばあっという間だ。

 拠点も空中風呂もどちらも健在で崩れたりはしていない。

 展望台から伸びる階段を浄化魔法を使いながら登っていき安全性を確かめる。

 頂上の風呂で水を入れていくが、家の風呂の3倍は大きいので時間がかかる。

 水の重さで支柱が折れやしないかと心配になり、更に強度を上げるように増強することにした。



 帰りは壁外区の北の草原で魔法の練習を少ししてから家に戻った。

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