第193話
午後からは内装関連に取り掛かっていく。
細かい作業も多くなるがイメージが反映される魔法で行う分、思っていたより早めに終わりそうだ。
こんなに苦労して(あくまでも今まで一気に作っていた小屋やタワーや訓練場と比較して)建築・施工したのだから1ヶ月やそこらで崩れてしまうのではもったいなく思う。
土魔術士が補修することによって耐用期間が延びるとナナイさんは言っていたが果たしてどの程度伸びるモノなのか……
もし耐用期間が術者のMPや魔力、土魔法のスキルレベルに依存するのであれば、一般的な土魔術士の2倍~3倍の長さは堅いだろう。
そうだ!!
西の森の拠点の壁を少し切り取って自宅に置いておこう。これが崩れたらその後1ヶ月ぐらいでここも崩れることになる…………いや待て待て。拠点の壁は確か一昨日に補修を試して経過を見ることにしたのだった。補修を施していない拠点内の小屋の一部を持ち帰ればいい。
脱衣所を製作中に冷蔵庫を作るかどうかで悩む。
氷の補充問題はこの砦には魔術士が多数常駐しているので氷結魔法の使い手もいるはずだ。
やはり大浴場の風呂上りといえばコーヒー牛乳だろう。問題はあの味を再現でき……!!!! そもそもこの世界にはコーヒーがなかった……
名前が違うだけで実在してたりしないだろうか?
あ!! 丁度良いところに、
「ナナイさん!!」
建物内を点検していたナナイさんに聞いてみることにした。
「どうかされましたか?」
「ちょっと聞きたいのですが、黒くて苦い飲み物をご存知ありませんか?」
「…………何かの比喩でしょうか? それとも謎解きとか?」
「い、いえ、普通にそのような飲み物があるのかを知りたかったのですが……」
この反応では期待できなさそうだなぁ。
「たまに苦みがある香り水を飲む機会はありますけど、黒い色というのはちょっと……」
香り水とは紅茶やハーブティなどの様々な種類を混ぜたような飲み物で、葉っぱの匂いの濃い紅茶みたいな味だ。ぶっちゃけ全然美味しくない。
品質が安定していないのか市販の物を使っても毎回同じ味にはならず、これに加え各家庭で独自に栽培してたりするので千差万別な味を楽しめる。美味しいと感じるならだけど……
おそらく紅茶などが色々な種類に細分化される前の状態で多種多様な茶葉をごちゃ混ぜにして出荷しているのだと思う。
ちなみに我が家では果汁水一択である。
「ひょっとしてツトムさんの出身であるニホンで飲まれていたのですか?」
「そうなんですよ。ただこちらにはないようでして」
異世界側にない物多過ぎ問題。時代も違うから仕方ないけど……
もしかして神様(仮)に生産系の能力を希望する道もあっただろうか?
生産チートに至る前に殺されそうだなぁ…………いや、比較的安全なとこに引き籠ってスキルレベルを上げるのに専念したらどうだろう?
大局的にはバルーカが夜襲された際の被害が拡大するだろうな。それにアルタナ王国がどうなるか……40日ちょっとで黒オーガを倒せる強さがないといけない。生産系は後半強くなるイメージあるから無理かな。
「失礼します!!」
脱衣所の中を覗くように兵士が入って来た。
「ツトム殿!! 司令官閣下がお呼びです!! 指揮所までお越し下さい!!」
「わかりました」
この兵士は同じ部屋にいるのに何故そんなに大声で叫ぶのかは謎だが、ナナイさんと共に指揮所のある建物へと向かった。
…
……
…………
「なぜです? 我々だけでも出撃させてください!!」
「だから申したであろう。
君達はこの砦を防衛する為にここに来たのだ。
それ以外で損害を被る可能性のある行動は控えられよ」
「納得できません!!
損害など出しませんので是非とも我らに出撃の許可を!!」
「ならん!!
君達には私を説得できるだけの
「ぐっ…………」
指揮所に入ると団長(=ゲルテス男爵=南砦の司令官)に冒険者数人が詰め寄っていた。
近くにいる若い雑用係(男性)に事情を聞く。
「昨日バルーカを襲撃した魔物の残党が北東の森に集結しているようなのです。
数は不明ですが、最低でも100体以上はいるらしくて……
冒険者の方達は森で狩りをするバルーカの冒険者が危険だからと討伐を願い出たのですが団長が……」
後は先ほどのやり取りになる訳か。
「教えて頂きありがとうございました」
「い、いえ!」
見習士官だろうか? 実に初々しい感じだ。俺より年上だけどね。
「ナナイさんはこの状況をどう見ます?」
「男爵閣下が冒険者の出撃を認めないのも当然だと思います。
犠牲者が出てしまうと軍と冒険者ギルドとの関係にも影響してきますし」
ロイターのおっさんも最初に会った時から冒険者との関係の重要性を言ってたしな。
「かといって軍が出撃するというのも……」
「はい。出撃してる間に砦が襲撃でもされたら大問題になってしまいます。
まして再びこの砦を奪われたりでもしたら……」
責任問題どころか下手したら罰せられるぐらいの失態になる、か。
これは俺が何とかするという流れなんだろうな。
「もしバルーカの冒険者に犠牲者が出たらどうするおつもりか?!」
「どうもこうもない。冒険者とはそういった危険を孕んだ仕事であろう。
ただし、伝令を出して冒険者ギルドに注意喚起はしよう」
「それでは不十分です。
集結している森の魔物を殲滅する以外解決策はありません。どうかご再考を!!」
「許可しないと何度も申しておる!!」
あちらでは団長と冒険者との激論が続いている。
場所は視界が遮られる森の中で敵は100体以上か……
北東の森は密林タイプの西側の森とは違って木々の間隔が広くある程度のスペースは確保されてはいるが、それでも死角からの不意打ちを喰らわないように常に地図(強化型)スキルをチェックしながら戦う必要がある。
後は魔物の残党の中に強い個体がいるかどうかだな。
敗走せずにある程度踏み止まっているということは統率している個体がいると考えるべきだろうか?
いると想定して行動すべきか。
……色々と自分の考えをまとめながら団長の下へと向かった。
「団長!」
「おお、ツトムか!
作業の途中ですまないな」
「いえ、事情は既に聞いております。
残党の一件は自分が行って片付けて来ましょうか?」
「そうしてくれるか?
報告された残党の位置はここから北東の……」
「お待ちください!!」
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