第185話
幾度となく失敗を繰り返しつつ徐々に正解に近付けていく。
魔法はイメージだ。
建物と内部の構造を正確にイメージして…………浄化!
やった! 成功だ!!
ちゃんと内部が綺麗になったのを確認して砦の施設を外から一気に浄化していく。
これでこの作業はすぐ終わるだろうし、そして何より浄化魔法が一段階進化したと喜んだ矢先に外からの浄化に失敗してしまう。
何故? と疑問に思ったがすぐに建物の違いという事に気付いた。
つまり違う形の建物だと内部を正確に把握できていない為に失敗してしまうということだ。
砦内部の建物はほとんどが軍事施設だからか幸いにも先ほどまで成功していたのと同じタイプの建物が多く、まずはそれらを一気に片付けてから残りの違う形状の施設の浄化を終わらせた。
匂いの発生元を綺麗にしたので発生していた臭気問題も解消されて、浄化作業が完全に終わる前から徐々に兵士の姿が見られるようになった。外で待機していた部隊も続々と砦に入り始め、防御を固める者以外は荷下ろしや建物の修繕などに従事していく。
俺はナナイさんに自分に宛がわれた部屋の場所を聞いてから魔法練習の為に砦の外に出た。
適当な場所で砦側に大きな壁を作る。
別に特別なことをする訳ではないので見られたとしても何も問題ないのだが、砦を守る兵士達の邪魔をしないようにしたいのと、何と言うか……砦にいる教え子達(かつて城からの依頼で指導した魔術士)に一人で練習している姿を見られたくないのだ。師匠としては!(←たった2回指導しただけ)
最初に練習したのは急降下ドロップキックだ。
これは敵を蹴った後(=魔盾で足をガードした後)に滞空魔法で着地することを忘れなければいいだけの話なので簡単に習得できた。
蹴った際にバランスを崩した場合や敵が回避したり反撃することを想定した練習も行い、さらに応用編として上半身から体当たりするパターンも練習する。これは緊急時には飛行魔法で飛ぶ体勢のまま突っ込んだ方が手っ取り早いからだ。
次は風刃ファ〇ネルで、これはもう反復練習あるのみだろう。
特に奥側から自分に向けて放つ風刃を徹底的に繰り返した。
最後に空中で落下しながら魔法を撃つとどうなるか試してみる。
着地失敗はもうこりごりなので滞空魔法を念頭に置きながら何度も試した。
結論、無理だこれ…………
当てるのは難しいだろうという事前予測は丸っきり外れて、自然落下しながらだと魔法を撃つだけで精一杯でとてもじゃないが的を狙うなんてできなかった。そもそも最初の内は魔法を撃つことすらできなかったのだ。
もっと高度を上げて落下すれば狙う猶予ぐらいは作れるかもしれないが、そんな高いところを飛ぶ必然性も高度を上げる必要性もないのでこの攻撃方法は没にすることにした。
他の魔法についてもじっくりと練習するべきなんだろうが、初日ということもありここで切り上げることにした。
自分の部屋は砦の司令部から近いところにある建物の2階の一室で、5畳ほどの空間にベッドと小さな机と椅子が置いてあり、この世界に来たばかりの頃に宿泊していた壁外区の安宿の個室よりややマシといった感じだった。
これでも大部屋でザコ寝な一般兵と比べると破格の待遇だし、個室が用意されているのは指揮官クラスだけみたいなので十二分な扱いをされていると考えるべきなのだろう。
とりあえず部屋付きの安物な寝具を王都で買った物と交換して、腹ペコなので砦内の食堂を目指すことにした。
浄化作業をする過程で確か大きな食堂も綺麗にした記憶があるのだが、あれはどこの建物だったか……
外に出て兵士達の流れに混じって歩いて行く。
統一された軍装の集団の中で一人毛色の違う軽鎧姿……しかも若干破損している……は酷く目立っているのではなかろうか?
ひょっとして絡まれたりしちゃう?
異世界アルアルな定番ネタが遂に…………
かなりドキドキしながら歩いて行くと何事も無く食堂に辿り着いた。
皆さん真面目なのだろうか? いや、変に絡まれたりしないのは良い事ではあるのだが…………
食堂ではお盆……というよりトレーを持って列に並び配膳を受ける。学校の給食方式だ。
パンが二つにスープと肉野菜炒めとポテトっぽい何かだ。
味は安い定食屋より美味しく、これがおかわり自由である。
軍が職業として人気なのも頷けるというものだ。
長テーブルの端に座って一人で静かに食べているので、当然他の人の会話が聞こえて来る。
「ここの厨房は少し前に使えるようになったばかりだろ? 調理班の連中はいつ料理したんだ?」
「このスープは予め準備していた物で魔術士の収納に入れて運んだらしいぞ」
「他は外で待機している間に陣地で作ってたんじゃないか?」
「パンはバルーカから荷馬車で運んだものだぞ」
「この砦では焼かないのか? 俺は焼きたてが好きなんだけどなぁ」
「バルーカから運んだ方が安上がりなんだろ。
近いしパン自体は軽いから荷馬車にたくさん積めるしな」
バルーカから砦まで徒歩だと半日以上掛かるがこの世界の人基準だと近いという感覚なんだよな。
「お前が出世でもすれば特別に高級パンでも焼いてくれるんじゃないか?」
「出世なんて俺達平民出だと手柄を立てたとしてもせいぜい部隊長止まりだろ。
幹部クラスにでもならない限りずっと食堂メシのままさ」
「お貴族様に生まれていればなぁ」
身分制度のある社会の現実だよなぁ。
もっとも食堂メシと蔑まなくてもそこそこ美味しいけど!!
「しかしあんなに汚かったのに随分と綺麗になったものだな」
「匂いも最悪だった……」
「やめろよ! メシが不味くなるだろ」
「こんな短時間でどうやって掃除したんだ?」
「魔法で綺麗にしたみたいだぞ」
俺がやったんだと名乗り出たいのを抑えるこの気持ち!!
「魔法? 水魔法か? それにしてはどこも濡れてないけど……」
別に隠す必要はないのだし名乗り出てみるかなぁ。
「魔術士隊の連中に聞いたらどうやら浄化魔法らしい」
「浄化魔法って?」
「なんでも魔法を習う時についでに覚える汚れを落とす魔法らしい。
水で洗ったほうが手っ取り早く綺麗になるから使うこともなく忘れる魔術士も多いみたいだ」
え? そうなの?
使用した回数で言えば浄化魔法と収納魔法でツートップ確定なんだけど……
さすが俺がこの世界に来て最初と二番目に覚えた魔法だけのことはある。
尻拭く為に覚えた魔法だろ? とか最初に使った時は残念な気持ちになった癖に! という事実は一切ない。
「でもこんなに綺麗に……」
「役に立たない魔法を極めたおかしな奴がいるんだよ。
バカの一つ覚えって奴さ」
「ふぅぅん、世の中には変な奴もいるもんだなぁ」
な、名乗り出ないで良かった………と思うこの気持ち!! チクショー!!
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