第180話
「ツトム殿! 強力な個体が何体か城へ向かいました!
この場は我らが……ツトム殿はどうか城へ!!」
帝国軍の指揮官らしき人が城(=内城)に向かうように言ってきた。
面識もないのにどうして俺の名を知っているのかは疑問だけど、地図(強化型)スキルでは内城の入り口手前の広場に6つの赤点が表示されている。
「3体逃げられました。後はお任せします!」
味方側の陣に範囲回復をして内城に向かう。
強力な個体か……まさか黒オーガじゃないだろうな。
冗談じゃないぞ、こんな街中であんなのと殺り合うなんて!
いくら回転系の攻撃魔法が効かないと言っても、牽制にも使用できないとなると戦い方の幅が狭くなるし…………いや、むしろ味方がいる状況のほうが却って有利なのだろうか?
そもそも味方がいる状況自体がこれまでそんなになかったので上手く想定できないという…………さらに言うなら味方と連携して戦った事なんて……夜襲を受けた時にゲルテス男爵がオークキングを討ち取った時ぐらいだろうか? もっともあの時は結果的に連携になっただけだから実感なんてないし……
内壁を超えて上空から広場を見る。
パッと見黒オーガは見当たらず、敵は通常のオークより少し体躯の大きいオークリーダーのようだ。
兵士が数人ずつの集団となって各個体と戦っており、何人かの倒れている兵士も見ることができる。
内城の入り口付近ではリーダーよりも更に大きいオークと金髪ねーちゃんことビグラム子爵と二人の騎士が戦っていた。
あれはオークキング……ではないよな? サイズ的にはオークジェネラルだと思うけど……
「リーゼっ!!」
あっ!?
金髪ねーちゃんがジェネラルの剣を受けきれずに体勢を崩してしまった! 危ない!!
「姫様! お下がりください!!」
上空から一気にジェネラル目掛けて急降下する。
このまま蹴りを喰らわせてやる!!
「は、離しなさい!!」
ふと、この速度で蹴ったらヤバくないだろうか? と不安に駆られた。
回復魔法で治せるとはいえ、複雑骨折や開放骨折などしたら簡単には修復できないだろうし、敵にも隙を見せることになる。
ジェネラルを蹴る寸前に飛行魔法を切って足を魔盾でガードする……これしかない!!
ドォォォォォォォォンッ!!!!
やった!! 成功……いたっ……痛い! 痛い痛い! 痛い! 痛い痛い! 痛い! 痛い痛い!! 痛い痛い痛い!!
くそっ、着地に失敗した!!
石畳に激突して体のあちこちが擦り切れ、捲れ、出血してクソ痛ぇぇぇぇぇぇ!!
とにかく回復魔法を…………もう一回…………
「ふぅ……………………大丈夫ですか?」
「…………血だらけのそなたにそう聞かれても何と答えて良いやら…………
とにかく助かりました…………いえ、助けが必要なのはそなたの方なのでは?」
大分混乱しているな。
原因はいきなり血だらけで登場した俺にあるのだが……
浄化魔法で身綺麗にしてから、射線の通っているリーダー3体に向けて風刃を放つ。
「ツトム気を付けなさい! 普通のオークではないわよ!!」
金髪ねーちゃんの言葉と俺が風刃を放ったのはほぼ同時だった。
「マジか……」
風刃は1体に手傷を負わせたものの、残る2体には回避されてしまった。
複数の兵士を相手にしながら俺の魔法を避ける……
コイツは…………強敵だ!
ガシャ! ガシャ!
俺が急降下ドロップキックを喰らわせて吹き飛ばしたジェネラルが、激突した倉庫らしき建物から出てきた。
コイツは明らかに強者のオーラを纏っていた。
オークキングクラスか?
ひょっとしてキングよりも上…………なのか?
それにしても何か違和感が……
ええい、先手必勝!
貫け! 土刺し!!
スッパァァァァァァン!!
ジェネラルは持ってる大剣を一振りし、地面から伸びる土槍を斬ってしまった。
くそぉ、街中だと回転系が使えないし…………待てよ……風槍(回転)なら射程が短いし使ってもいいのではないだろうか?
迷ったり考える暇はない! 敵は目の前にいるのだ!
風槍(回転)!!
「ぐはっっ?!」
な、なんだ??
…………血?
俺の胸元が斬られて…………回復! 回復!
ジェネラルを見ると大剣を横薙ぎに振り抜いた体勢をしていた。
コイツ…………風槍(回転)を剣圧で相殺した? い、いや、相殺どころか風槍(回転)を貫いて俺に攻撃を…………も、もしかしてコイツは剣圧を飛ばせるのでは?
ジェネラルが再び大剣を振るう、今度は2度……
慌てて振るわれる剣の軌道に併せて魔盾を出した。
ザシュッ! ザシュッ!
ふぅ~。何とか魔盾で防御可能のようだ。
このソニックウェーブ的な、かまいたち的な剣圧を飛ばす攻撃は俺の風刃に近い感じだ。
もしかしてランテスも真剣だったら剣圧を飛ばすことができるのだろうか?
剣!?
そうだ! 感じていた違和感の正体は剣だ!!
これまでオークは一番下っ端が棍棒、上位個体は弓や斧を使っていた。
だがこのオークジェネラルは大剣を使っている。
よほど特別な存在…………と考えていいのだろうな。
オークキングや黒オーガのパワーや固い防御とはまた別種の強さだ。以前南東の森で遭遇した技オークに近い系統だろうか?
なんにせよこちらから仕掛けるしか奴を倒す方法はない…………いや、果たして本当にそうだろうか? このまま防御に徹して時間を稼ぐという考え方もある。
外(城外)からの攻撃は小規模と言っていいし各城門で迎撃できるだろう。城内に転移して来た敵もこの広場にいる敵を除けば既に残敵掃討の段階に入っている。つまり時間を稼いでいれば城のあちこちからの援軍が期待できるのだ。
肝心の時間稼ぎが成功するか否かは俺の魔力次第であるが、俺の魔力にはまだまだ余裕がある。
問題なのはむしろ援軍が来たところで奴を倒し切れるかという点にあるかもしれない。
数の暴力で押し切れる相手という訳でもないだろうし、余計な犠牲者を出してしまうとベルガーナ王国とグラバラス帝国との関係にも影を落とすことになるだろう。
やはりこのまま仕掛けて即撃破がベストの選択か。
そもそもが俺に防御に徹する戦い方というのができるのかわからんしな。
手に風槍を圧縮させていく……
風槍・零式。
今のところ俺の最強最大の切り札だ。
今までオークキングや黒オーガといった猛者達を屠って来たフィニッシュブロー。
こいつで奴を倒す!!
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