第147話

「昇格試験では殺傷能力の高い攻撃は規定で禁止されている。

 この前みたくご自慢の魔法を全力で撃って脅して降参を促すことはできないぞ。そんな魔法を放った時点で即失格だからな」


 この建物を貫通させた土甲弾は通常仕様で全力で撃った訳ではないがな。


 ただ、レドリッチが言う事ももっともだ。

 『4等級の壁』という言われ方をしているだけあって、5等級と4等級では明確な差が存在している。

 対戦相手の強さが数段上がるのに、魔術士に対する魔法使用の制限はそのままという仕様なので難易度も相応に上がってしまっている。

 同条件である魔術士相手なら格闘戦も可能な俺の優位性はそのままだろうが、問題なのは近接戦闘職相手だ。

 5等級と対戦した時のような隙を突いての風槌アッパーは通用しないと考えたほうがいいだろう。自力で相手の体勢を崩した後でのフィニッシュ技としてなら活用できるかもしれないが、俺の剣技レベルではまず無理だ。

 一応は別の手段を用意してはいるものの……果たして通用するかどうか……


 しかし、レドリッチは自分で自分の首を絞めていることに気付いているだろうか?

 4等級昇格試験の難しさを俺に説くのは、より困難さを伴う3等級昇格試験への助っ人を俺に頼んでいる自らに跳ね返ってくるモロブーメラン状態なのだぞ。


「………………………………大丈夫なんだろうな?」


「何がです?」


「無論こちらが依頼している3等級昇格試験のことだ」


 さすがに気付いて心配になったみたいだな。


「そんなのわかりませんよ。

 3等級と対戦したことなどありませんし。

 あなたが仰る通り4等級相手に勝ちを計算できないのであれば当然3等級には……」


「くぅっ…………」


 2等級とは戦ったことはあるがな。

 せいぜい不安がらせて心胆を寒からしめてやろう。


「等級が2つも上の格上相手なんです。

 せいぜいたくさん勉強させてもらいますよ」


「むぅぅ…………」


「まぁ勝負ごとに絶対はありませんから、4等級の昇格試験すら難しいと言われている自分でもひょっとしたら勝つチャンスがあるのかもしれません」


「い、いや、5人抜きは無理だとは言ったが勝てないとは言ってない…………」


「メルクで試験が行われるということは私達にとっては敵地での対戦になりますよね?

 消耗度合いも違うでしょうし、ギリギリの状況下で僅かな勝機を見つけたとしても、果たしてそれを掴むだけの気力が残っているかどうか……

 『ああ! どこぞのギルドマスターが熱烈な応援をしてくれていれば勝つことができたのに…………』

 なんて事態にならないといいですが♪」


「こ、こいつめぇ…………人の足元を見よって…………」


 俺にとってはバルーカでの試合でもアウェー同然だろうけどな。

 なんなら城外ギルドですらアウェー感あったりするし!


「………………………………何が望みだ?」


「はい?」


「望みがあるなら私でできることなら最大限叶えよう。

 昇格する可能性が少しでも上がるのであればそれを惜しむ状況でないのは今まで説明した通りだ」


 これはラッキー。

 からかっていたら…………コホン、苦戦は必至なアピールをしていたら思わぬご褒美ゲットのチャンスが……

 ただレドリッチが用意できる範囲内で欲しいモノなんて特になさそうなんだよなぁ。

 今1番欲しいのは魔術研究所に入る為の紹介状なんだが、領主クラスのモノでさえ月単位で待たされるのにギルドマスターの紹介状では年単位で待たされそうだ。

 こういう時は、


「今思い付くことはないので、試験で自分が3等級相手に1人勝つ毎に貸し1つでどうです?

 もちろん3等級に昇格できなかった場合でも貸しは有効でお願いします」


「構わないが……、あれだけ厳しい予測をしておいて複数に勝つつもりでいるのかね?」


「念の為ですよ。

 対戦方法もわかりませんので不要なことかもしれませんが、そちらにとっても1人に勝ってノルマ達成で次戦あっさり終わるより良い事なのでは?」


「まあ…………な。

 良かろう。その条件を呑んでやる。

 なので全力を尽くして欲しい」


「了解しました!」


「既に指名依頼は出してあるので1階の受付で手続してくれ」


「わかりました」


 席を立とうとしたところで思い止まる。


「あの、3等級に拘る3つ目の理由って何ですか?」


「ああ、3つ目を言ってなかったな。

 3等級冒険者以上だと2年に1度開催される武闘大会で予選を大幅に免除されるのだよ」


「武闘大会?」


「なんだ、知らないのかね?」


「い、いえ……」


 マズイな、怪しまれるか?

 それにしてもやっぱりあるのだな、武闘大会。


「試合形式の対人戦ではどうしても魔術士は不利になるから関心がないのも無理ないか」


 お!? 上手い具合に自分で納得してくれたな。


「もっともギルドの昇格試験よりは制約は緩めなので君ならそこそこ戦えるかもしれないな。

 どうだ? こっちも出てみないか?」


「その、自分に参加資格があるのかすらわかりませんので……」


 冗談じゃないよ! そんなよくわからん大会に出なきゃならない理由なんて1つもない!


「年齢制限はなかったはずだが……いや、毎回死人が出るんだ、何らかの規制はあったか……

 調べさせようか?」


「い、いえ、お構いなく!

 自分如きが出れるような舞台ではありませんので」


「急に謙虚になったな」


「それよりも! その武闘大会がどう関係してくるのでしょうか?」


 各地のギルドによるチーム対抗戦でもあるまいし、個人の出る大会をどうしてレドリッチは気にするんだ?


「私がここに赴任する以前からバルーカ勢の大会での成績が悪いのだ。

 もう何大会か連続で本選にも進めていない状況でね。

 なので3等級に昇格して有利な状況で予選突破を目指して欲しいのだよ」


「その大会で本選に出るとギルドにとって何か良い事でも?」


「一言で言うのなら宣伝効果だな。

 大会の結果は南部3国の各街と主要な村々に掲示される。

 本選の経過は詳しく書かれるので冒険者が本選まで進めば出身地に加えて所属ギルドも記載されるのだ。

 その効果はかなり大きくてね、新規冒険者獲得に置いて無視できない要素だ」


 『大会で活躍した〇〇のいるギルドで冒険者になりたい!』みたいな志望理由も多いのかな。

 娯楽や話題の少ないこの世界だとオリ〇ピック以上の波及効果があるのかもしれない。

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