第146話

「それは良かった。何としても彼らの3等級昇格をサポートして欲しい」


 ただ、怪しいという程ではないが妙に3等級に拘っているのが気にはなるな。


「聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」


「構わんよ」


「3等級に拘っているのには何か訳でも?

 昇格試験を段取るのが難しいという理由だけではないようですが?」


「ふむ……」


 レドリッチは目を閉じて腕組みをして考えている。

 依頼に関係していることとはいえ、そこまで知りたいという訳でもないのだが今さら言い出せない雰囲気になってしまっている。

 やがてレドリッチは目を開けて、


「主な理由は3つある。

 まず最初にここバルーカギルドは(ベルガーナ)王国でも2番目の大きさのギルドだ。

 何故だかわかるかね?」


 1番目は王都か。

 "大きさ"と言ってはいるが施設の大きさではないだろうな。なぜなら王都のギルドは東西の出張所合わせてもバルーカより小さい。恐らく帝都のギルドと事情は同じで土地の確保が難しかったのだろう。

 ということは所属している冒険者の数だろうか? こんなのロクにギルドに顔を出していない(行くとしても解体場だけのことが多い)俺にわかる訳がない。

 ああ、そういうことか。


「都市の規模ですか?」


「まぁ半分正解だな。

 規模だけで言うのならバルーカより交易都市であるロクダーリアのほうが大きい」


 ルルカの出身地だな。


「あとの半分は拠点としての重要性だ。

 南部防衛の要衝であるのはもちろんのこと、三軍(領軍・王国騎士団・帝国騎士団)の根拠地であり住民もその多くは軍関係者だ」


 城内に2度の魔物の侵入を許し住人にも犠牲者が出ている割には目立った混乱がないのもそういう理由なのか。


「なのでここバルーカは国内最大の軍事拠点であり、ここを抜かれると王国は魔物に蹂躙されてしまうことになる」


 某スペースオペラのイゼ〇ローン要塞的な感じなんだろう。もちろん同盟が所有していた時の。


「冒険者に国防の義務が課せられている訳ではないが、冒険者ギルドの活動や性質、王国内における立ち位置などの総合的観点から、我らも防衛の一翼を担う責任があると私は考えている。

 最近の魔物の活発な動きからしても戦力強化は急務であると言えよう。

 にも拘わらずだ。

 大抵のギルドにはいる3等級冒険者すらいないようでは話にならないのだ」


 あくまで戦力強化の為の最初の目標といった感じなのかな。


「2つ目の理由は主に育成面だな。

 若い冒険者にとって同じギルドに所属しているトップパーティーは憧れであり目標であり手本となる存在でもある。

 目指す存在が高ければ高い程有望な者が育つのは当然だろう」


 そんなもんかねぇ。

 過去のトップパーティーである瞬烈にも、現在のトップパーティーであるグリードさんを始めとした4等級のパーティーにも俺は何の感情も抱いてはいないが……

 もちろん壊滅した瞬烈は気の毒に思うし、魔術士だったか? あのねーちゃんはけしからんほどエロかったが。


「あまりピンと来ないようだな」


「え、ええ。言われるような意識を抱いたことがないので……」


 レドリッチは何故かため息を吐いている。


「一般的な冒険者はそうなのだ。

 大体君はパーティーを組んでいないのはもちろん、6等級に昇格する時以外ロクに依頼すら受けてないだろう?

 敢えて言うならまともに冒険者活動をしているのかさえ怪しい状態なんだぞ」


「ちょっ!?

 自分程バルーカで活躍している冒険者は他にいませんよ!!」


 まったく失礼な!!


「ほぉ……、どんな活躍をしたのかね?」


「そりゃあ魔物をりまくって自分が通った後は屍山血河しざんけつがのありさまですよ!!」


「その山のように積み上げた魔物の死体をどうしたんだ?」


「そりゃあ売ったに決まっ……」

「ここに壁外ギルドからの君に関する報告書がある。

 君は確かに見習いの頃は頻繁に魔物を売却していたが等級が上がるにつれその頻度は減っていき、最近では全然だそうじゃないか」


「うっ……」


 まとめて他の街(王都と帝都)で売却したのが仇となったか。


「前回君の実力は見せてもらったし、別に嘘を吐いているとか言っている訳ではない。

 私が言いたいのは君は低等級の内に身に着けておくべき冒険者の基礎的な知識だったり、依頼のやり方やパーティーの組み方・連携を始めとした諸々の技能を習得していないのではないかね?」


「くっ……」


 痛いところを突いてきた!


「本来は見習いの頃から毎日でもギルドに通ってより多くの依頼を受けないとダメだろう。

 ああ、その前にちゃんとパーティーに入るべきだった。

 飛行魔法は最近覚えたようだが、魔術士の収納魔法持ちなら入るパーティーなど好きに選べたはずだ」


 くそっ!?

 なんか説教モードに入ってないか? これ?


「パーティーメンバーとの親睦を深め、友情を育み、絆を強くして、強固な信頼関係を築き、互いに切磋琢磨して腕を上げて困難に立ち向かっていく。

 これが冒険者のあるべき姿なのだ」


 またいい歳して青臭いことを言いやがって……

 前回呼び出されたいきさつがあるだけに一方的に言われるだけなのはさすがに腹が立つぞ。


「しかしながら……今、この時、この場であなたの前にいるのは自分です」


「む!?」


「冒険者活動の知識に豊富な者ではなく。

 数多くの依頼をこなした者でもなく。

 信頼できるパーティーメンバーに恵まれた者でもない。

 試験を受けるパーティーリーダーからの要請があったとはいえ、大事な3等級昇格試験においてギルドマスターであるあなたが頼ったのは、友を捨て、仲間を持たず、刃の欠けた血刀を振るい、穂先の欠けた槍で突き刺し、己の魔力のみを信じ数々のオリジナル魔法で魔物を屠って来た、戦いの日々に明け暮れてきた自分なのです」


「ふんっ……言うじゃないか」


 真実を伝えてないだけで嘘は言ってないぞ。


「君の強さは認めるが……今からでも遅くはない。自分に合うパーティーを探してみたらどうかね?

 5等級で未だソロなんて私はこれまで聞いたことが無いし、ましてこの先4等級を目指すのだろう?

 また臨時にパーティーを組んで昇格試験を乗り切ろうという魂胆なのだろうが、4等級を相手にして5等級試験の時のような5人抜きなどできるとは思わない事だ」


 メンバー自体はロザリナ妹の返事次第で何とかなるんだ。臨時色が強いのは否めないが……

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