第144話

「指名は指名を呼び込む……」


「1回でも指名されればそれが実績となってギルドとしても依頼者に推薦し易くなるの。

 それに依頼する側も信頼できる低等級パーティーを探していたりするのよ。

 ちょっとした依頼を安価で引き受けて確実に遂行してくれるパーティーをね」


「依頼主が満足すればそれだけ指名される確率も高くなる……ということですか」


「そうね。昨日の依頼主もあなたの名前聞いてきたのよ?」


「で、でも! 昨日の依頼主は5等級の冒険者だと依頼を受ける際に聞きました。

 また依頼するかどうかもわからないのに名前を覚えられても……」


「それは逆よ。あんな規格外に名前を覚えてもらえるなんてラッキーじゃないの」


「き、規格……外ですか?」


「王都では活動してないから無名だけどね。ギルド内部ではちょっとした噂になっているのよ。

 1日でオークを800体以上売却したとか、ここで指導員していた現役2等級冒険者と互角にやり合っていたとか。

 言っておくけどどちらも事実だからね」


「現役の2等級ってもしかしてあのランテスさんですか?

 す、凄い……」


「地道にそして誠実に依頼に取り組んでいれば必ず評価する人が現れるわ。

 その証拠はほら、あなたの手の中にあるじゃないの」


「あっ!?」


 アリサは手にある8枚の大銀貨を見つめる。


「ま、まさか、依頼主は私にそのことを教えたくて成功報酬を……」


「それはわからないけどね、年下の依頼主でもきちんと評価してくれるってことよ」


「と、年下!?

 5等級で! ランテスさんとも互角に戦えて! 8,000ルクも追加で出してくれる冒険者が年下なの?!」


「まぁこういう規格外の人のことは気にしなくていいけどね。

 でもギルドが戦闘力を重視している以上は何年経っても6等級止まりで次々と後輩に追い抜かれていく……

 それがあなた達の冒険者人生なのよ?」


「そ、そんなぁ……昇格試験を突破するのは無理なんじゃないかと薄々は感じていましたけどぉ……」


「あなた達が目指すのは街中のエキスパートなのよ!

 どんなに悔し涙で枕を濡らしても、その悔しさを必死で耐えて丁寧且つ積極的に依頼をこなしていくのよ!!」


「は、はい! 頑張りますっ!」


 受付カウンター越しに手を取り合う2人。



[アリサのパーティー]

 比較的裕福な一般家庭の子女で構成されていて、万年6等級のお嬢様"風"パーティーと揶揄されながら、『街中の依頼ならアリサのパーティー』と言われることを目標に日々依頼に取り組んでいる。

 その傍らには熱血指導を行うショートカットのギルド職員の姿がいつも目撃されている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「……ム様、…き…下さ…ツ……様、起きてください、ツトム様!」


「ん、う~~ん」


 気持ちよく寝ていたらロザリナがやや必死に俺の体を揺らして起こそうとしている。


「どうした? またしたくなったのか?」


「ち、違います! ギルドのミリスさんがいらしてますよ」


「ミリスさんが?

 あ、あれ? 俺ミリスさんに家の場所教えたかなぁ?」


「あ、それでしたら私が最初にギルドで剣の指導を受ける際に名前と住所を提出しました」


「なるほどね」


 別に知られても不都合はないけど。


 王都へ行った日から2日後、朝起きてイチャイチャした後2度寝するという退廃的な生活をし始めたところでロザリナに起こされてしまった。


「しかしロザリナは回復して元気になるの早いなぁ。

 今朝も何度も〇ってグッタリとしていたのに」


「ツ、ツトム様に喜んで頂けるのならば……その、……もっと乱れたく思います……」


「お、おぅ、ロザリナ、ありがとな」


「い、いえ……」


 寝起きなのにそんなド直球で攻めて来ないで欲しい。返事に困るよ!



 リビングに入る直前で立ち止まる。


「え?!」


 リビングからは異様な緊迫した空気ともの凄いプレッシャーが漂ってくる。


「(オイ、ロザリナ。どうなってんだよ、これは!?)」


「(わ、わかりません! 私は直接ツトム様を起こしに行きましたので)」


 リビングではテーブルを挟んでルルカとミリスさんが対峙していた。

 プレッシャーを掛けているのは無論ルルカのほうだ。


「あ、あのっ!」


 ミリスさんが意を決した感じでルルカに話し掛ける。


「なんでしょう?」


「ルルカさんはツトムさんの……」


 ピクッ!


 マ、マズイ!!

 『……お母様でしょうか?』

 あるじである俺でさえその地雷を踏むのはずっと避けていたんだぞ!

 今この瞬間に割って入って止めなければ……

 くっ……俺の脚、動け、俺の脚、なぜ動かん!?


「……お姉様でしょうか?」


 その瞬間プレッシャーが消え、何なら幻想の花びらが舞い始めた。


 セーフ! セーーフ!!

 ミリスさん良くやった!!

 長年受付嬢として海千山千の冒険者どもを相手にして来たのは伊達ではなかった!!


「やですわ、もう! ツトムさんの若いお姉さんだなんて!!」


 ルルカは手をヒラヒラさせて喜んでいる。

 若いだなんてミリスさんは一言も言ってないがな!


「ルルカさんはお綺麗で美人さんでいらっしゃいますから。

 もし可愛い系でしたら妹さんと勘違いしていたことでしょう」


 ミリスさん踏み込み過ぎだって!

 そんな無茶なお世辞はいくらなんでもルルカには通用しない……


「いやだわ。そんなに若く見えるのかしら?」


「それはもう! ルルカさんの透き通るような白い肌は凄くお綺麗で羨ましいです!」


 通用している?!

 バ、バカな……そこにいるのは本当にルルカか?

 主のことを蔑むような目で見下して来るあのルルカは一体どうしたんだ??


「ミリスさんもお綺麗な方で、ツトムさんが楽しそうにギルドに行くのもわかりますわ」


 えー!? 俺そんなに楽しそうにギルドに行ってるかなぁ?


「それがツトムさんは私に全く興味がないようでして。

 ルルカさんのようなお綺麗な方が傍にいるのでしたら私など路傍の石コロも同然の扱いなのも頷けますよ!」


 最近はそのような扱いをしてることも無きにしも非ずだが。


「(ツトム様、そろそろ出ていかれたほうが……)」


「ほほほほ。ミリスさんはお上手ですのね」


「おほほほほ。ルルカさんのお美しさの前には何事も霞んでしまいますわ」


「(俺、あの2人の間に入って行きたくないよ)」


「(そう仰らずに。それに遅れれば遅れる程ルルカさんの機嫌が……)」


「(そ、そうだな……この家の主は俺なんだし!)」


 勇気を振り絞ってリビングへ!!

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