第141話

 翌朝ロザリナはギルドに剣の指導を受けに出掛けた。

 もっとも最近ではロザリナも指導する側に加わっているらしいけど。


 今日から休むことにしても特にやることがある訳でもなく、いつもよりゆったりとイチャイチャした後でルルカとベッドでまったりしていた。

 つかゲームもネットもない世界だと無趣味なつまらん人間になってしまうなぁ。以前2人に趣味的なものはないかと聞いたのに俺自身がこの世界では無趣味だったというオチだ。

 これまではこの世界のことを知ることが趣味的要素を含んでいたのかもしれない。

 だが今日が丁度この世界に来て50日目という節目でもあり、これからは自分に合った趣味を探していこうと思う。


 そう思うのだが…………これが結構難しそうなんだよなぁ。

 まず読書なんだが、自伝や専門書・実用書の類が多く物語はおとぎ話に毛の生えたようなのしかない。

 現代日本の創作物を嗜んでいた身からすれば楽しんで読むにはかなり厳しい。

 次に思い浮かぶのは狩りだが、これは仕事である冒険者業と被るので趣味としては成立しない。

 後は……釣りか?

 いくら飛行魔法を覚えたとはいえ、趣味の為に海まで行くのは現実的ではないのでやるなら川釣りになる。

 これは候補にしても良さそうかなぁ。釣りなんて子供の時に父親に連れて行ってもらって以来だから果たして楽しさを感じることができるかわからないけど。


 他にはテーブルゲーム系だろうな。異世界モノあるあるでリバーシ流行らせて大儲けというのは定番だ。他には将棋・双六・トランプ・ウノ辺りだろうか。囲碁と麻雀はできないので無理だ。

 ただこれらは商品化して儲けるというビジネスの要素が強い。

 個人で製作して身内で楽しむという事も可能ではあるが……、たまにやるぐらいなら有りだけど趣味にするには厳しいわな。


 製作と言えば日曜大工もあるな。家具とかの実用品もいいが、模型の大型船や飛行機を作って後世に残してオーパーツとして歴史ミステリーの作り手になるのもいいかもしれない。現代の街並みを再現するとか潜水艦や宇宙ロケットなんかもありだ。

 歴史ロマン的な壮大さがあるしイタズラ心も刺激されて大変楽しそうではある。

 ただ趣味というよりライフワーク的な感じになるし、何より成果を自分で見れないのが難点だよなぁ。


 そんなことを考えているとルルカが突然、


「あの、ありがとうございます」


「ん? 急にどうしたんだ?」


「以前2人でゆっくりしながらワナークに向かうと話した通りの日程にして頂いて」


「たくさんエッチしながら行くって約束したもんな」


「は、はい…………」


「途中街か村に寄って宿泊するのと、適当な場所に俺が魔法で小屋を建ててそこに泊まるのとどちらがいい?」


「小屋を建てるほうで。ツトムさんと2人きりになれますし」


「なら布団とか買わないといけないな」


 他に旅用に日用品も準備しないといけないか。


「それにしても昨晩は意外でした。てっきり強引にでもロザリナ姉妹と母親を会わせようとするかと思っていましたので」


「さすがに10年以上も安否確認していないとなるとな。まずは母親が存命かどうかの確認が先だろう」


「母親はまだ50過ぎでしょうし普通に元気かと思いますが……」


 その言い方だとこの世界の寿命は70~80歳ぐらいまではありそうだな。

 ただ現代日本でだって40代50代で早逝する人が一定数いるんだ。話を聞く限りロザリナの実家は中流家庭ぽいので教会が運営する治療院にも滅多には行けないはず。元気でいる保証なんてある訳がない。

 善は急げと言うし今日王都に行って調べてみるかなぁ。


「それに病を患って臥せていたり、王都から転居してる可能性もあるだろう?」


「その可能性がないとは申しませんが……」


「こういった事は早めに動くほうがいいだろう。

 ロザリナが帰ったら王都に行って調べて来るよ。王都のパンも補充したいしな」


 ついでにランテスに黒オーガを倒したことを自慢してやろう。


「せっかくお休みにしましたのに……」


「買い物と身内の問題で行くのだから休日の使い方としては合っているだろう?

 ルルカも一緒に行くか? 訪ねればティリアさんも喜ぶだろうし」


 !!!! え!?

 今まで甘々な雰囲気に満ちていた部屋が瞬時にしてブリザードが吹き荒れているかのような寒々な空気に…… 


「ツトムさん、ティリアに会いに行かれるのですか?」


「い、いや、王都まで行くのに挨拶もしないというのは不義理にならないか?」


 なんだ? このプレッシャーは?!


「なりません。

 それに夫人しかいない家を男性が用も無く単身で訪れるのはよくないことです」


「それはその通りだと思う。だからルルカも一緒に王都へ……」


「行きません!」


 おぅ……何という見事な拒絶っぷり。


「な、ならルルカをティリアさん宅に送り届けて俺は玄関先で挨拶だけして失礼するというのはどうだ?

 どの道王都に行く目的は調査と買い物だからそれを済ますことが最優先事項だし……」


「行・か・な・い・と・言・い・ま・し・た・よ・ね?」


「ハ、ハイ……」


 怖っ?!

 何がそんなにも彼女を頑なにさせているのだろうか?

 会えば仲良さそうに2人してキャッキャウフフしている癖に……


「(じぃーーーーーー)」


「わ、わかったから、そんな目で見るのはヤメテ」


「本当にティリアには会いに行きませんね?」


「い、行かない」


「じぃーー………………………………

 ふぅ、ならいいです」


 ようやく場の空気が弛緩した。


「(俺だってもう既にティリアさんとは知り合いというか、キスして更にニギニギまでされた仲なのだから単独で会ってもいいだろうに)」


「何か言いましたか?」


「い、いや、別に……

 ああ、そうだ。俺が王都で母親のことを調査することはロザリナには言わないようにな」


「どうしてでしょうか?」


「余計な心配してしまうだろ?

 もちろん既に亡くなっていたり他に転居している場合にはすぐ知らせるべきだと思う。妹への話し方も変わってくるだろうからな。

 だけど普通に元気だったら敢えて言う必要はないだろう」


「そうですね、承知致しました」


 こういうところは素直なんだよなぁ。

 これで他の女性に対する過剰反応がなければ完璧なんだが……

 まぁあまり完璧を求めるのもよろしくないだろうから、俺のほうが受け入れてルルカのご機嫌を取りつつ新たな女性を増やせるように努力すればいいだろう。

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