第138話

「そうだ、頼まれていた角付き肉を買ってきたぞ」


 塊を台所に出すが、


「…………ま、またたくさん買われましたね……」


「あ、ああ、少し買い過ぎた……かな?」


 で、でけぇ……

 店で買った時も大きく感じたが家の中で改めて見ると場違いに大きい。明らかに一般家庭で消費できるサイズではない。


「でもツトムさんの収納に入れて置けば傷みませんから少しずつ頂きましょう」


 い、言えない!

 同じサイズの塊があと4つもあるなんて、とてもじゃないが言える雰囲気ではないぞ。


 とにかく食べて減らす以外に道はない。

 これで味が微妙だったりしたら最悪なんだが……

 帝都の屋台のおっちゃんが紹介してくれた肉屋を信じるしかない。


「3人で味見してみないか? タレも買ってあるから」


「かしこまりました。すぐに作りますね」


 ルルカは3人分を切り分けてタレを絡ませて肉を焼いている。

 見た目的に全然減ったようには見えない大きな肉の塊が鎮座している。


「もう仕舞われていいですよ」


「そ、そうだな……」


 この塊は家で時間を掛けて食べるとしても、残りの4つの塊はどうしよう??




 角付きの焼き肉は美味かった。

 これなら塩だけでも十分イケるかもしれない。

 あとはご飯と共に食べられれば完璧なのだが……

 これからおかず系の美味しいモノを食べる度にお米に恋焦がれることになるのだろうな……って以前3人で外食した時も似たようなことを思ったな。

 こうなったらダメ元でお米がないか情報収集だけでもしてみようかなぁ。

 以前の時とは違い飛行魔法を覚えて行動範囲が劇的に広がった訳だし、ひょっとしたら遠い地方や少数民族とかが稲作してるかもしれないし……

 やってみる価値はあるかもしれない。


 2人に美味しかったのでこれからは毎日この肉を食べようと言ったら渋い顔をされてしまった。それなのに肉自体は美味しいと言う……訳わからん。




「…………という訳で帝都に着いてしまったので予定を変更したんだ」


「そんな短時間で一気に帝都まで行かれるなんて前代未聞のことだと思うのですが……」


「ロザリナ、そんなことで一々驚いていたらツトムさんの奴隷は務まらないわよ?」


「そ、そうですね。常識というものが通用しないお方でした」


 こ、こいつら……

 直球で言わなければディスっていいって訳ではないからな?


「それで新しい女性は見て来られたのですか?」


「それがな…………(事情説明中)…………なので今回は手続きのみで見れなかった」


「随分と狡猾なやり口ですね……」


 元商人だけに何か感じるモノがあるのだろうか?


「それだと次の時に奴隷を買わなければ預けたお金を取られてしまいませんか?」


「買わなければそうなるな」


「そのような大金を……もったいないです……」


 適当な奴隷を買って即解放するよりよほど安いが……、このことに関しては彼女達には言えないな。

 "昨日今日買った奴隷は解放するのに私達はどうして解放されないのか?"と不満を持たれても困るし。

 解放と言えば奴隷はどの程度の年数働いてくれたら解放するのだろうか?

 まさか死ぬまで……なんてことはないだろう、たぶん……

 主人によりけりなのかもしれないが、今度ある程度の目安的なものを奴隷を購入する際に聞いてみることにしよう。


「間違って行ってしまった帝都だがその分オークは高く売れたからな。金銭面での心配はしなくていいぞ」


「ツトム様の収納魔法も大概ですが、1000体を超えるオークなどいつの間に…………」


「アルタナ王国に行った時よ!

 ツトムさんが帰って来なかった日だわ」


 正解ではあるのだが……

 ルルカの言い方だと外泊したのを咎められているような気になるな。


「ひょっとして今街で噂されているアルタナ王国に魔物が攻め込んでいるというのは……」


 街中では今頃噂になっているのか。

 情報の伝達が人を介する形でしか行われていない以上一般人が知るのは事件が終わった後ということも多いのだろう。

 それにしても、


「アルタナに行く時に言わなかったっけ?」


「あ、あの時は少し様子を見に行くとしか……」


 そう言えばそうだった。

 しかも帰ってからも詳しい事は2人に話してなかったような……

 いや、そもそもそれ以前に…………


「2人に聞くが、普段俺が外で何していると思っている?」


「えっとギルドの依頼をお受けになっていないとのことなので、森の中を開拓されているのでは?」


 え?

 確かに一時期は新たな狩場を求めて西の森を開発していたが……

 飛行魔法を覚えたことで狩場の問題は解決してそのプロジェクトは自然に終了したはずだ。

 姫様を森の中の展望台に連れて行った日を以って開発完了とするのならば11日も前のことだ。


「ロザリナも甘いわねぇ。

 確かに森の匂いを纏って帰宅していた時期もあったけど今はそんな匂いはしないわよ」


 オイオイ!

 女性関係のチェックだけでなく、どこで何をしていたのかも嗅ぎ分けようとしていたのかよ!

 話せる警察犬でも目指しているのか??


「それでルルカはどう思っているんだ?」


「新しい女性を探されているのですよね? 3人目の女性を…………」


 こ、怖!?

 そういうことを声のトーンを落としてしかも無表情で言うのは止めてくれないかな!

 確かに今日に関してはその目的もあったが……

 しかしここまで俺の活動を知らなかったとは。

 まぁこれに関してはロクに話してこなかった俺が全面的に悪いのだけど。

 2人にはきちんと話さないといけないな。


「事の発端は5日前に王都で購入した首飾りを姫様に献上しに行った時のことだ」


 …………


「レグの街を包囲している魔物を蹴散らして……」


 …………


「ルミナス大要塞では三本角の黒いオーガに遭遇した。そいつは王都で友人のランテスに聞いた……」


「ツトムさんに友人??」


 そこは喰い付くとこじゃないからな!


 …………


「アルタナから戻った翌日はギルドマスターに……」


 …………


「メルクで黒オーガの情報収集をした後で以前話した女性救出作戦に参加して……」


 …………


「昨日はオーク集落討伐の際に臨時に加入したタークさんのパーティーに魔法指導を依頼されて……」


 …………


「以上がルルカと王都に行った以降の俺の活動内容だ。

 アルタナでのことは現地軍と帝国と王国からの援軍で魔物を退けたことになっているから他言はしないように」

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