第125話
「構わない。実戦で使いたいから」
「わかりました。
ではまずは訓練場を作りましょう」
草原のところに大きい円形の訓練場を(土魔法で)作った。
ついいつもの癖で屋根まであるハコモノの建物を建ててしまった。
休憩用や違う休憩目的ならともかくこれでは暗すぎる。
なので周囲を囲む壁に窓を作り(見ようによってはただの穴)天井には光を取り込む為の隙間を開けた。
「ヒュ~、さすが5等級冒険者様となると違うわねぇ~」
「ツトムの魔力はおかしい……」
エルさんの言い方に若干棘が含まれているような……
スクエラさんに関してはこれで平常運転だ、たぶん……
「タークさん、昼前に少しだけ抜けていいですか? 城内の店に用事がありまして」
「構わないよ」
「ありがとうございます。その代わりと言ってはなんですが昼飯は自分が用意しますので」
先ほどから思い出そうとしているのだが、どうも自分はこの指名依頼の依頼料を聞き忘れてしまったようだ。なので高額だった場合に備えて昼飯をこちらで用意してバランスを取るのだ。
声掛けてくれれば無料で教えたのだろうからこれぐらいはするべきだろう。
「まずはスクエラさんの魔法指導から行いますね。他の方は体をほぐしておいてください」
「わかったわ」
「了解だ」
的を作りその後ろに魔盾を配置して土槍(回転)を威力を抑え目にして数発撃つ。
「スクエラさん、こんな感じに撃ってみてください」
「ん」
スクエラさんはサンドアローに回転を加えて撃ち出していく。
結構手慣れた感じで撃ってる様子を見ると、どうやら1月近く前のオーク集落の討伐以降ちょくちょく個人で練習していたようだ。
以前軍に指導していた時の2回目の段階に既に入っている感じか。
少し威力を上げた土槍(回転)を撃って参考にしてもらって練習してもらう。
時々アドバイスしながら練習していると、
「ツトムがオークジェネラル倒した時のやつをやってみたい」
スクエラさんがこんなことを言い出した。
「あれは風属性なんです。
それに……」
風槍(回転)を放つ。
当然的まで届かない。
「ご覧のように射程が短いので近接戦闘の心得が無いと危ないですよ?」
「魔術士でも近距離で戦うことはある! でも、風属性は難しい……」
ふむ……
視界の悪い森の中とかでは乱戦になって魔術士でも近接戦に巻き込まれるケースはあるか。
「ツトム、何とかならないかい?」
準備運動を終えたタークさん達がやって来た。
「そうですねぇ……これまでは敵に近距離まで詰められた時なんかどうしていたんですか?」
「水魔法で皆が来るまでの時間を稼いでいた」
「ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「ん」
丁度いい流れになったのでこの機会に水の範囲魔法のことも聞いてしまおう。
スクエラさんは水魔法を次々と披露した。
水の塊を相手にぶつけるウォーターボール←昨日水玉と命名した魔法。
水をしならせて打撃を与えるウォーターウィップ←名付けるとしたら水鞭かねぇ、まんまだけど。棒か鞭かの違いだけで水棍との差はあまりないかもしれない。
そして水の範囲魔法であるウォーターネット←水の範囲魔法は攻撃魔法ではなく一定範囲に水をばら撒く言ってみればデバフタイプの魔法のようだ。
見せてもらった水魔法に共通しているのが攻撃力=殺傷能力が無いという点に課題がある。
それならば……
「これから土と水で近距離用の魔法をやりますので自分に合いそうなのがあれば試してみてください」
まずは昨日練習した水槍(回転)を見せる。
近接戦闘で水魔法を使っていたのならこれが1番無難な選択だろう。
次に見せるのは土刺しだ。
遠近どちらにも使えるし、下からの攻撃ということで相手の虚をつくことができる。
最後は近接用の土槍(回転)だ。
以前軍に指導した時にイメージを掴んでもらう為に行った練習法を近接攻撃用に自分の腕にドリルを作る形にアレンジしてみた。
発動の速さでは土刺しが1番速い。
1番遅いのが実体としてドリルを作る近接土槍(回転)だ。
威力は回転系が当然強く土刺しが1番下だ。
では風槍も加えて近接回転系の中で強いのはどれだろうか?
攻撃範囲が大きいのは風槍(回転)だ。
避けられたとしても巻き込む感じでダメージを与えられる。
水槍(回転)は昨日分析した通り(近接攻撃の中では)射程が長く刺突力も高い。
近接土槍(回転)は実体があるだけに打撃力が高いし、風槍や遠距離用の土槍と同様に複数の同時射出が可能だ。ただ、この複数同時射出の場合は自分の腕に装着したドリル以外の攻撃力が今一つのようだ。腕で突き出すという動作ができない分威力が減殺されるのだろうか?
結局のところ風槍(回転)が1番ということになる感じかな? 発動も速いから使い勝手も良いし。
スクエラさんはそれぞれ何度か試した後に土刺しと近接土槍(回転)を使うことに決めたようだ。
理由を聞いてみると土魔法が得意であるということに加えて、水魔法は模擬戦においてメインで使っていたので攻撃力を持たせたくないとのこと。
「ツトム、魔力が……」
「ではスクエラさんは休憩して魔力を回復させてください。
ここからはウインドハンマー対策を訓練しましょう」
「君の魔力は大丈夫なのかい? こんな大きい訓練場まで作っているのだし」
「まだ全然大丈夫ですよ」
「さすが5等級冒険者様は魔力もケタ違いねぇ」
「こらエル、そんな言い方は良くないぞ」
エルさんの言葉に引っ掛かっていたのは俺だけではなかったようだ。
「だ、だってタークが誘った時にウチのパーティーにツトムが入っていてくれていれば今頃私達は5等級に昇格していたのに……
しかも! 知らない間に昇格しちゃうし嫌味の一つも言いたくなるわよ!!」
そう言えばタークさんは初めて俺をパーティーに誘ってくれた人なんだよなぁ。
「あの~、5等級に昇格してもソロのままでいることからもわかるでしょうけど、自分は好き勝手やりたいタイプでして人様のパーティーに入るには不向きなんです。
以前のように臨時に手伝うぐらいならできますので指名依頼でなくとも気軽に声を掛けて頂ければ……」
タークさんのパーティーは以前と同じ4人のままだ。
収納魔法持ちの魔術士を勧誘するのは大変なのだろう。
「そう言ってくれると助かるよ。
エルもいいな?」
「むぅ。仕方ないわねぇ」
これで機嫌治してくれるといいけど。
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