第122話

「それは南砦陥落時の撤退戦において活躍したツトム君、当時は正体不明の魔術士だったが、を探していた時の報告書だ。

 それによるとツトム君は壁外ギルドに登録した日にバルーカの南門に現れたのが最初でそれ以前の足取りは一切掴めていない」


「乗合馬車でも利用してない限り個人の動向を掴むのは大変ですので、足取りが掴めないことに別段不自然な点はないような……」


 彼女は手元の報告書に目を落としながら警戒感を強めて来た。


「その時にツトム君と話した兵士によると、彼は金銭を所持しておらず通行料を支払えなかったので壁外区に行くよう指示したとある。

 乗合馬車は門を通って街中で客を降ろすのだからその線は消える」


「ここには壁外ギルドでも所持金が無くて登録できずに特例で魔物を先に買い取って対応したとありますね」


「無一文で街に出てくる事例もなくはないだろうが、それにしても小銭すら持ち合わせていないというのはね……

 街道沿いの店にも立ち寄ってないことは確認されている。彼への対応が決まって調査は打ち切られたのでそれ以上のことはわからないが……」


「あの……、子爵は彼の何について警戒しているのでしょう?」


「気にはならないかね?

 彼が最初に現れたのは南門だということに。

 王都やドルテスに続く北門でもなくメルクからの東門でもなく南門に忽然と現れたのだ」


「?? ………………え?

 …………ぇえ!? い、いや…………で、でも!

 ツ、ツトムさんは魔法以外は普通の少年に見えて、どこにでもいるような……」


「我々は魔族の姿かたちを知らないのだから彼の外見を以ってそうではないと否定することはできないよ」


「し、しかし、彼はこれまで魔族に対して多大なる戦果を挙げていてバルーカやアルタナ王国を守っていますし……」


「君も軍議の時の魔族研究所からの報告を聞いただろう」


「ハ、ハイ。魔族側の変化は強力な個体が支配者と……し、て……!?」


「時期的にも符合するし彼の能力に関しては言わずもがなだ。

 仮に支配者だとしたら配下の魔物をどう使い捨てようが彼の意志次第……なのかもしれない」


「そ、そんな……」


 彼女は両手を机についてガクっとうな垂れてしまった。

 かなりショックを受けているようだ。


 そんな様子を見ていると『果たして彼女をこのまま彼の担当にしたままで良いのだろうか』という懸念が生じてしまう。

 いくらなんでも影響受け過ぎだ。

 彼の年齢を考慮して補佐官の中で一番若い彼女を担当に任命したのだが……

 傍から見ていると案外と良いコンビのように思えるが、こちらの望むところは彼女に彼の手綱をしっかり握っていてもらうことにある。

 しかし今更担当を変えるのは複数の部署との調整や変更による引継ぎなどが発生して面倒くさ……コホン、軍の運営上好ましからざる事態なので、できればというか何とか彼女自身に成長してもらってこの件に対処してもらいたい。


「わ、私……これからどう接すれば……」


「落ち着きなさい。

 少しの期間とはいえ彼との付き合いは君よりも長いし、話していく中で邪悪な意志を感じることも無かった。

 先ほどの話はあくまでも一つの可能性に過ぎない」


「そ、そうですよね!」


 彼女が希望を見い出したかのような表情で顔を上げた。

 やはり不安だ……


「いいかい。彼が異質な存在であるということは常に頭の片隅に入れておくんだ。

 そして些細な事でも気になることがあったのなら私に報告するように」


「わかりましたわ」


「奪還後の砦では彼と過ごす時間も多くなるだろう。

 彼との信頼関係を強めてその出自を慎重に聞き出すんだ。

 彼の身元がわからないままでは問題は何も解決しないからね」


「最終的に直接聞き出すかどうかの判断は私にお任せ頂いても?」


「ああ。その辺りも含めて細かな差配は全て任せる」


「ありがとうございます! 頑張ります!!」


 うん……

 すごく不安だ……


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 朝のイチャイチャを速攻で終わらせて壁外区の北口に向かった。

 タークさんのパーティーに魔法の指導を行う為だ。

 その道すがら昨晩教えてもらったことを思い出していた……



『王都には学校が2つあります。騎士学校と魔法学院です』


 2人に普通にこの国の教育事情を教えて欲しいと気持ち良くなった後に頼んだ。

 2人共に意外そうな表情で見つめて来たのが不可解だが、その後に生き生きと語り始めた。

 結構な運動をした後に疲れてないのだろうか?

 もう一晩寝れば疲れが取れる年齢でもないだろうに……って、ひいぃぃぃ!? ルルカ先生が睨んでいらっしゃる!!

 頼むから内心のつぶやきを感知するのは止めて頂きたい!

 スーツっぽい衣装を用意しておくべきだったなと女教師プレイの機会を逃すことを後悔しながら話を聞くことにした。3人共全裸で……


『11歳の時に受験して合格者は12歳から15歳までそこで学びます。

 受験者は国中から優秀な者が集まりますし、国から補助を受けることも可能でその場合は学費も寮費も国に仕えることと引き換えに免除されます。

 さらに2つの学校には11歳以下の子供が通う幼年学校を抱えています。

 こちらは貴族や商人が子供に英才教育を施す為の学校で寮もなく学費も高いので王都在住の富裕層以外は門前払いの学校です』


 意外にしっかりとした教育制度が整えられているんだな、優秀者に限った話ではあるが。

 それにしても……


『ロザリナはやけに詳しいな。王都に住む人にとっては常識なのか?』


『そういう訳では。一応私も騎士学校出身ですので』


『まじか……』


 おいおい! ルルカの女教師プレイに加えてロザリナの女騎士プレイも可能じゃないか!!


『卒業後に騎士にならなかったのはどうしてなんだ?』


 微妙な質問かもしれないが流れのままに直球で聞くのが1番だということをロザリナ関連で思い知ったからな。

 3人で一緒に暮らしていると驚く程ディープなことを聞く機会がないんだよ。


『私の場合卒業時点では身体が成長しておらず実技で従騎士になる為の基準値を超えることができませんでした』


 15歳の時のロザリナかぁ。

 写真でもあれば是非とも見たいがなぁ。


 当然ながらルルカにも15歳の時はあった訳で……

 その頃から既にダイナマイトボディだったのだろうか。

 昔のことも教えて欲しいが聞けるような雰囲気ではない。

 なぜなら既にルルカは余計なことは聞くなと俺を睨みながら肩を抓っているからだ!!

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