第100話

「他には何かあるかな?」


 この際他にも色々聞いておくか。


「今日アルタナで伝令していた時のことなんですが、以前に自分が教えた回転系の魔法が王国から伝えられていた……」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。伝令していたというのは一体……??」


「えっとですね、回復魔法でケガ人の手当てを…………(事情説明中)…………という訳で不本意ながら伝令をする羽目になってしまったということです」


 ロイター子爵は頭を抱えてしまった。

 その後ろではナナイさんが深くため息を吐いている。

 そんなにヤバイことなのだろうか?

 こちらはタダ働きさせられたのだから感謝して欲しいぐらいなのに。


「あのねぇ、君がレグの街を救ったことは一冒険者が行ったことと言い張ることができるし、私が言い出したことでもあるからいくらでも庇うつもりでいるよ。

 でも伝令の振りして密偵まがいのことをしていたらこちらもフォローできないよ?」


「止むを得ず伝令してたら情報が勝手に入って来たのであって、密偵やる為に伝令になった訳ではないのですが……」


「こういうことはアルタナ側がどのように感じるかが重要だからねぇ。

 正体がバレて追及された際にはレグの街を救ったことを公にして対応しないといけないよ」


 あのレイシス姫のところにいた老参謀の様子を思い出すと目の敵にされそうな……


「正体がバレないことを祈ります」


「しかし、切断した手足を繋げられるというのは本当なのかい?」


「ええ。斬り離された手足の状態が良ければという条件付きではありますが……」


「それは時間が経過しても可能なのかい? 傷口が塞がる前でないとダメとか」


「傷口が塞がってる場合は剣で新たな傷口を作って繋げるので大丈夫ですよ。

 一にも二にも斬られた手足をきちんと保存すること。収納魔法がベストですね。

 あとスパッと綺麗に斬られた状態であることが重要です」


 失った手足を再生することはできない。

 この繋げる回復魔法(接合とでも言うべきだろうか?)も厳密に言えば接着部分の細胞を再生しているだろうし、以前胸に穴を空けて倒した魔物に回復魔法を施したら少しだけ再生しているのを確認している。

 ひょっとしたら回復魔法のレベルを上げれば再生することも可能になるかもしれない。

 まぁ必要に迫られるまでは保留しといていいだろう。


「とりあえず斬られた際にはそのように対応することを通達しておこう。後は実際に見てからかな。話が逸れたけど以前君が教えた魔法がどうしたって?」


「えっとですね、…………(事情説明中)…………という訳で、今回のアルタナの危機はルミナス要塞に頼り切っていたことと新魔法を軍の上層部が握り潰していたことが原因のようです」


「ふむ……

 これはあくまでも一般論として聞いてもらいたいのだが、軍隊というところは新しい事柄に対して往々にして拒否反応を示すものなんだ。実績を積み重ねてようやく重い腰を上げる感じかな。

 なので君が得た僅かな情報だけで軍幹部を悪と決め付けることはできないよ。

 現に王国内でも最前線のバルーカとメルク以外では新魔法の習得に熱心ではないからね」


「なんと言いますか……、歯がゆいですね」


「前線と後方では危機意識に温度差があるのは致し方ない事だよ。どの国でも大なり小なり似たような感じなんじゃないかな。

 特にアルタナの場合は魔法を苦手とする獣人種の割合が高く、国全体で魔法よりも武闘を重んじる傾向にある。

 君が伝令役を押し付けられたのも飛行魔法の使い手が少ないことに端を発していると思うしね」


「そういえばレイシス姫が今後は国を挙げて魔術士の強化に取り込むと言っていました」


「当然そうなるだろう。

 今後アルタナから君に魔法指導の要請が来るかもしれないね」


 げげげ!


「早速正体がバレそうなんですが……」


「さっきも言ったようにこちらでは何もできないから君自身で何とかしなさい」


「わかり……ました……」


 自分で蒔いた種ってことか。


「まだ何かあるかな?」


「帝国の過激派と保守派について教えて頂きたいのですが」


「その説明はナナイ君に任せよう。

 私はこれから姫様にアルタナの様子をお知らせしに行かないと。

 レイシス姫のことは大層ご心配していらしたからね」


「お忙しいのに申し訳ありません」


「君の用件は十分重大な案件だから気にしないで欲しい。

 それよりも明後日の軍議は頼むね」


「わかりました」


 ロイター子爵が部屋から出て行くとナナイさんが対面に座った。

 足でも組んでセクシーさをアピールして欲しいがそんな素振りは一切なかった。


「改めまして御無事なようで何よりです」


「ありがとうございます」


「ご質問の帝国の件ですが、過激派とは現状の南部3国への支援を止めて帝国のみで南大陸に侵攻しようと主張する帝国内の一派のことです。保守派は引き続き支援を継続して南部3国を魔物に対しての盾とする考え方ですね」


「帝国のみでってそんなことが可能なんですか?」


「一説には帝国の保有する戦力は南部3国を合わせた戦力を上回ると言われていますが真偽のほどはわかりません。何せ派遣軍以外はずっと実戦から遠ざかっていますので。

 仮にそれが真実だとしても実際には大陸北西の紛争地帯に対する備えもしなければなりませんし、帝国のみでは長大な前線を支えられないだろうとする見方が大半を占めています」


 今回援軍の正体として過激派が疑われたのは、戦果を帝国内向けにアピールして派閥の拡大を目論んだと言ったところか。

 帝国内でそのような動きが出てこなければ過激派は容疑者から外されてしまうな。


「教えてくれてありがとうございました」


「ツトムさんは貴族になられるのですか?」


「さっき出たきたばかりの話ですのでなんとも……これからゆっくりと考えたいと思いますが」


「何かわからないことがありましたらお気軽にお尋ねください」


 ナナイさんがお辞儀した際に胸の谷間が覗けたのは大変ラッキーだった。




 帰宅して夕食後のお風呂で一通り気持ち良くなった後の寝室で、


「今日ロイター子爵から貴族にならないかと誘われたよ」


「あら♪」


「それは……おめでとうございます」


「まだなると決めた訳ではないから祝いの言葉は早いぞ。

 とりあえず参考にしたいから2人の意見を聞かせて欲しい」


「えっと私は賛成です。税もかなり免除されるみたいですし。

 ただツトムさんが貴族になられた後に私達の扱いがどうなるのかが少し不安です」

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