第97話

「なんと……そのような屈辱……、いやしかし……」


 そういう感じに受け取ることになるのかぁ。

 素直に感謝してくれるとか単純な方向に向かって欲しかったけど……


「もしあのままこの街が落とされていれば王都も陥落していたに違いありません。我らが北方に押しやられてしまえば帝国は自国の国境のようにアルタナの最前線を守らないといけなくなるでしょう。

 それに大量の難民も受け入れないといけません。

 ベルガーナは南部に加えて西にも最前線が出来てしまいその負担たるや想像を絶するものがあります。

 コートダールにしても3国がそのような状況に陥るのは避けたいと考えるのは当然です」


「つまり昨日からの一連の出来事は3国いずれかからの援軍によるものであると?」


「援軍……、もちろん援軍ではありましょうが私には叱咤激励と思われて仕方ありません。『お前達がちゃんと守らないから苦労して助けてやらなきゃならないだろ。しっかりしろよ』と」


「それがし、人生の大半を軍に捧げてきましたがこのような屈辱初めてですぞ」


 あらら、初老の参謀さんは今にも悔し涙を流しそうな勢いだよ。

 さきほど後ろに下がった位置関係上姫様のお姿を拝見できない。

 あまり見つめていると変に思われるだろうから見えない状態で良かったのかもしれん。


「仕方ありません。我らは余りにもルミナスの防御を過信し過ぎたのです。

 ルミナス要塞が突破されれば為す術なく国土を蹂躙されてしまうのでは話になりません。

 今後は国を挙げての強兵策に取り組むことになるでしょう」


「現場の連中が唱えていた南への出兵論がこれからは主流になりますかな。これまでは要塞駐留軍が独自に前進拠点を築いておりましたが」


「いずれはそうなるのでしょうけど、喫緊の重要課題として魔術士の強化を成さねばなりません。

 そなたも衝撃を受けたのではありませんか?

 わずか数名の魔術士が包囲され陥落寸前の戦局を一気に引っ繰り返したのですから」


「はい。東門で脱出の準備をしている時には援軍が魔物を退けた報告しか知りませんでしたが、後になってそれが2~3人の魔術士による戦果と知った時は腰を抜かさんばかりの驚きでありました」


 複数の魔術士による戦果と誤解しているのか。

 そのまま誤解し続けてくれれば俺に辿り着くことはないからこれは有り難いな。


「どこの国の手の者かはわかりませんが、それだけの格差が我が国との間にあるのです。これを何としても埋めねばなりません」


「しかし冒険者という可能性もあるではありませぬか」


「それは明確に否定できます」


「魔術士達が素性を隠しているからでしょうか?」


「ええ。冒険者やギルドには自分達の功績を隠す理由がありません。特に冒険者ギルドは積極的に喧伝したいぐらいでしょう。1等級以上の実績が近年ほとんどないことへの批判に晒されていますから。

 それに最低でも魔術士が4人、こんな編成のパーティーは聞いたことがありません」


 やはり1等級以上が戦力にならないことへの批判はあるのか。

 でも冒険者やっていてそんな批判は1度も耳にしたことはないから、一般に広がるのはこれからって感じかな。


「仰る通りですな。そうしますと1番に怪しいのは帝国の……」


「ええ。1番の容疑者は帝国の過激派です。2番目は帝国の保守派ですね」


 帝国の過激派ってなんだ?


「此度支援要請に応じる見返りとして王国内に駐留軍の派遣を認めさせておいて裏でそのようなことを……」


「共通の敵と対峙している南部3国と帝国が利害が一致することがないのは致し方ないことです。 さて、確か……ツムリーソでしたか?」


「ハッ!」


 姫様、その名前覚えなくていいからね。


「こちらの書状も陛下に届けてください」


 おしゃべりしながらちゃんと手紙書いていたのね。


「では行ってまいります!」


「頼みましたよ」


 司令部を出て一気に王都目指して飛び立った。




 アルタナの王都はレグの街から標準速度での飛行で10分ほどだ。

 昨日は王都とレグの街を繋ぐ道にまで魔物が溢れていたが、今見たところそこまでの状態ではなく激しい戦闘も行われてはいないようだ。

 城壁を挟んで睨み合ってる感じなのだろうか。


 高度を上げて王都に侵入し、北側の区画にある王城の前に降りる。

 お城はベルガーナ王国の王城を一回り小さくしたような感じで、有事だからか衛兵がそこかしこに立っており兵隊の出入りも激しい。

 城に入っていく兵士は恐らく伝令だろうから後を着いて行けば司令部みたいなとこに行けるのだろうけど……どんな偉いさんがいるかわからないからなぁ。

 ここは兵士が出入りしている通用口とは別の一般受付らしいとこに行ってみることにした。



「現在謁見手続きは中止しております」


 俺の恰好(ボロな兵士姿)を訝しげに見ながら受付の男性に告げられた。


「ルミナス要塞の司令官閣下とレグの街のレイシス姫の書状をお持ちしました。至急陛下にお渡し願います!」


「そこの通用口から入っていけば陛下に取り次いでもらえますよ」


「自分のような身分卑しい者が陛下に直接お会いするなど万死に値します! どうかこの2通の書状を陛下に!」


「軍務なのですから陛下も身分など気になされな……」


「必ず陛下に! よろしくお願いします!!」


「あ! ちょっと!」


 受付の男性に強引に書状を押し付けて俺は逃げ出した!



 飛行魔法でとりあえず王都の東の区画まで飛んで路地裏に降りる。

 追跡者がいないか確認して兵士服から着替えた。


 ふぅ~。

 これでなんとか用事も済ませたしやっと帰れるかな。

 せっかくアルタナの王都に来たのだから奴隷商にでも……

 そういや戦闘奴隷は戦時には徴発されるのだったか。

 ならギルドでオークでも売るか……結局昨日から何体収納したんだ?

 リストを確認してみるとオークだけで1000体超えていた。

 もっと回収に時間を掛けていればこの倍は収納できたのだろうな。

 1体1体手で触れての回収は効率が悪過ぎるのだが、これは贅沢な悩みなのだろう。一般的な魔術士の収納魔法はこれだけの物量を収納できない……らしい。

 解体場でオークを大量に出した時の周囲の反応からの推測である。

 収納魔法のスキルレベルが高いのもあるだろうが、魔力やMPの数値による補正が容量を大きくしてるのかもしれない。

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