第92話

 教会もさすがに冒険者ギルドや軍隊には手を出せないが、布教活動(という名の露骨な勧誘)に力を入れ始めている。

 美人シスターに誘惑させてメロメロにして教会入りさせるなんて聞いた時はちょっとだけ羨ましく思ったが(適性者が女性の場合はイケメン神父に……というケースも)、回復魔法適性者の親を脅したり借金漬けにさせて強引に教会入りさせるという悪質な手段も取ってるようだ。


 これらの教会関連の悪評の数々は特別に調べずとも色々なところで自然と耳に入ってくる。

 それでも各国が動かないのは聖トルスト教が膨大な信徒を抱えていることと、治療部門以外はまともなこと、その治療部門の莫大な儲けが教会全体の運営を支えていること、そして各国の中枢に教会派なる派閥が存在しているからである。


 それと個人的に問題だと感じているのは、教会・冒険者ギルド・軍隊の全てが徹底して回復魔法の使い手を実戦から隔離しているのでレベルが上がらずにMPが貧弱なんじゃないかという点だ。

 実際他の人の回復魔法を見たことがないので憶測ではあるのだけど。




 翌朝起きてすぐ地図(強化型)を確認する。

 街が包囲されていないということはまだ防御陣で頑張って防いでいるということだ。

 朝食は辞退してすぐ宿を出て再び南門に向かう。

 すると昨日は数人だった見張りが20人以上に増えていた。

 負傷者も多くいる。


 さて、どうするか……

 半日ほど休んだのでMPは9割方回復している。

 ここを治療してからルミナス大要塞の支援にでも行くか。

 要塞の穴を塞がない限りは魔物の侵攻は終わらないしな。

 そうと決まれば重傷者が運ばれている商館の近くの目立たない場所で、


 範囲回復発動!

 即上空へ飛び上がり南下する!

 回復した驚きで上を見る者などいないだろう。


 上空から防御陣を見るが、優勢なのか苦戦しているのかよくわからん。

 ただ、防御陣から南に続く道には魔物で溢れているようだ。

 少し手伝うか。

 防御陣から少し南の森の中に降りて、横から道にいる魔物に対して風槍(回転)3連で吹き飛ばし、南に向けて土槍(回転)を斉射、北のほうは土刺しでまとめて死体のオブジェを作り上げる。

 死体を回収しながら南に向かうが、走っても要塞までかなり時間が掛かるので飛んで行くことにした。

 後はレイシス姫になんとかしてもらおう。


 また外套を着て身バレを防ぐようにして要塞の穴の手前に降りた。

 まぁデッカイ穴がポッカリと空いている。

 周囲の魔物を蹴散らして土魔法で穴を塞ぎながら要塞の外に出た。


「オイ! おまえどこに行くんだ?」


 上のほうから声を掛けられるが軽く手を振って魔法を撃ちまくる。

 何せ要塞の外は魔物がうじゃうじゃいるのだ。

 狙いなど必要なく撃てば当たる。

 要塞は山と山を塞ぐよう作られているので南に対して直角ではなく少し斜めになっている。

 150度ぐらいの扇状に土槍(回転)を乱射した。


 見える範囲を粗方片付けても魔物は遠くからいくらでもやって来る。

 できるだけ回収しているが全てはとても無理だ。

 もったいないと思いつつせっせと回収作業をしていると強烈な反応が敵感知に……


「くっ!?」


 慌てて下がると、


 ドッゴオオォォォォォォォォン!!


 地面に大穴ができた!

 また上空からオークキングか?


 上を見るが、どうも空からとは違うような……


 !!!!!!!!!!!


 キングよりもあのギルド職員よりも遥かに上の威圧感!!!!


 土煙の中から黒いのが飛び出して来た!!


 魔盾でガードするが魔盾ごと吹き飛ばされる。

 一体何で攻撃された?

 体勢を立て直す間もなくすぐ黒いのが飛び掛かって来た。


 今度は魔盾2枚でガードする。

 蹴りだ。凄まじい跳躍からの蹴りによる攻撃だ。


 さらに拳打と蹴りによる連撃を仕掛けてきた。

 こちらも魔盾を3枚4枚と出して対応して風槍・零式を喰らわそうとするが……

 

 ダメだ! 高速で激しく動かれて当てられない!!


 攻撃に気を取られたところに回し蹴りがまともにヒットして魔盾が破壊されて腕も折られて吹き飛んだ。


 コイツ格闘タイプかよ!


 回復させて立ち上がると奴は蹴った体勢のまま後ろを向いていた。

 

「!? 黒いオーガだとっ!!」


『奴に出会ったら即逃げろ。通常のオーガの倍近い体躯をしていて一本角の異様に肌が黒いから見た目ですぐわかるはずだ』


 ランテスの言っていた言葉が頭をよぎる。


 奴はこちらを向き、俺がダメージなく立っているのを意外そうに見ている。


 奴の額には角が3本……


 果たして一本角と三本角、どちらが強いのか……

 三本角のほうだと思いたい。

 だって一本角のほうだったらコイツより2段階上の強さということになる。

 悪夢としか言いようがない。


 奴がニヤリと笑みを浮かべた。


 対峙しているからわかる。いや、わかってしまう。

 奴は俺をバカにして笑ったんじゃない。

 全力で殺し合いが出来るのが楽しいんだ。嬉しいのだ。

 俺はおまえのようなバトルジャンキーではないというのに……

 元は普通の会社員でしかないんだぞ。

 自然と笑みを浮かべながらではやや説得力に欠けるが……


 しかし風槍・零式を当てられないとなると後は土甲弾を喰らわすしかないが……

 まともに撃っては当たらないだろうなぁ。

 どうするか……


 ん?

 奴が再び後ろ向きに……


 !?


 スラッシ〇・キック!!


 まともには受けるな! いなせ!!


 魔盾で斜めにガードしてやり過ごすも即回し蹴りに繋げてきた!!

 もう逸らす余地はないので浮身で自ら飛びながら土刺しを発動!


 奴の肌に弾かれるだと!!


『奴の黒肌は硬く俺の斬撃はことごとく跳ね返され傷ひとつ付けられなかった』


 そういやそんなことも言ってたな!


 吹き飛ばされながら回復魔法を使うが、地面に激突する前に俺に追い付いて攻撃体勢に……


「南無三!!」


 土甲弾を発射する!!


 不意を突けたのか奴は慌てて攻撃体勢からガードに移行してその上に土甲弾が直撃する。


 俺は土甲弾射出の際の風圧で吹き飛ばされていた方向とは別に転がった。


 これで倒せたなんて微塵も思っていないが、せめてダメージは受けててくれ。


 そんな祈るような気持ちで注意深く黒オーガを観察するが……

 土甲弾の破片やらを払っているその姿にはダメージはなさそうだ。

 つかガードの上からとはいえ直撃したのに吹き飛びもしないなんて……

 実戦での初使用だったのに土甲弾もデビュー戦でとんでもない相手に当たったもんだ。

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