第87話
ロイター子爵の執務室を出てナナイさんに城の3階にあるという飛行魔術士専用の出入り口に連れてってもらう。その道すがら、
「無茶だと思います」
「え?」
「たった1人で魔物に包囲されてる街を守れなんて……」
「レグの街を守るレイシス姫の部隊もいますから、彼らが消耗してなければなんとか……ならないかなぁと……」
「軍属でもないあなたが行く必要はないと思いますが?」
「イリス姫に悲しい思いをさせる訳にはいきません。
それに例え軍に所属していなくても守るべき人がいます。救わなければいけない人達がいます。赴くべき理由などそれで十分なはずです」
こちらは肖像画とさらなるムフフなご褒美の可能性が懸かっているのだ。
諦める訳にはいかない。
「私は…………、
ツトムさんの武運をお祈りいたします」
「ありがとうございます」
「次は……負けませんので」
その負けん気はなかなかいいな!
俺はニヤリと笑みを浮かべて飛び立った。
あ! 飛行許可証をぶら下げるの忘れちゃったよ!
まずは自宅に降りる。
「どうかなされたのですか?」
不思議そうにルルカが聞いてきた。
こんな早い時間に戻ってくるなんて初めてのことだからな。
「アルタナ王国が魔物に押されていてな、ちょっと様子を見に行くことになった」
「お一人でですか?」
庭で素振りをしていたロザリナも中に入って来た。
「1人のほうが自由に動けるからな」
こう言うしかないだろう。
仲間なんていないし……(涙
「あまり無茶はなさらないでください」
「もちろん無茶はしないから大丈夫だ。
それで、早ければ明日の夜、遅くとも明後日の夜には帰るのでそのつもりで」
「わかりました。留守はお任せ下さい」
「御武運を」
2人と抱擁して、もちろんねっとりとキスもして家を出た。
ロイター子爵に見せてもらった地図を思い浮かべながら西へと飛ぶ。
地図に描かれていた位置関係が正しければバルーカから西に飛べばレグの街とルミナス大要塞の間のレグの街寄りの地点に着くはずだ。
距離的にはバルーカから王都までより近い感じだったが、おそらく……いや十中八九あの地図は正確ではないだろう。
上空からなら広範囲を見渡せるのでさすがに迷子にはならないだろうが何せ初めて行く土地である。
まずは確実にレグの街に到着しなければ……
段々と迫ってくる山を右に針路を変えることで避けていく。
すると今避けた山と奥にある山を繋ぐように高い城壁がそびえ立っている。
で、でけええええ。
バルーカや王都の比ではないほどの高い城壁が山と山の間を遮断しており、時折魔法の爆発音が聞こえてくる。
これがルミナス大要塞か……、大要塞と形容されるだけの大した規模だ。
そして要塞の守備隊は未だ健在と。
要塞を援護したい気持ちに駆られるが今はレグの街を守ることが先決だ。
針路を変えて北上していく。
途中森の中に小さな村を幾つか見かけるが大丈夫なのだろうか?
地図(強化型)スキルには魔物の反応はないようだが……
じっくりと見れる訳ではないのでなんとも言えないが、特に村人が避難している様子もない。
不思議に思いながら飛んでると、バルーカと同じぐらいの規模の街が見えてきた。
四方をビッシリと魔物の大軍に包囲されてる。
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-レグの街防衛指揮所-
「西側防壁、お味方苦戦中! 至急援軍を送られたしとのこと!!」
「予備隊はどこが残っていますか?」
「第5小隊が待機中です」
「すぐに西側防壁に向かわせなさい」
「ハッ!」
「南門に敵が取り付きましたぁ!!」
「慌てないで。門の内側に石材を積み上げて封鎖する手はずは整っています。すぐに実行しなさい」
「わ、わかりました!」
「北と東の防壁はどうなっていますか?」
「なんとか持ち堪えております!!」
魔物の攻勢は南側と西側が活発なようだ。
ならば……
「領民兵を2つに分けて北と東の防壁に向かわせなさい。そして北は西の防壁に、東は南の防壁に増援を送るのです。どの部隊を送るのかは各防壁指揮官に一任します」
「了解しました!!」
領民兵とはレグの街の住人による志願兵だ。もっとも志願とは名ばかりで20~30代の男性を半強制的に徴兵したのだが。
どの道街を囲う防壁が破られれば軍人民間人の区別なく魔物によって皆殺しにされるのだ。体裁にこだわっている余裕などはない。
ここレグの街は他の街とは違い城に準ずる防御機構を備えている。
なぜかと言うと南の山岳地帯にルミナス大要塞が建築されるまではこのレグの街が大陸南部の魔族に対する防御拠点だった為だ。
そうでなければ昨日のうちに魔物の大軍に飲み込まれていただろう。
だけど……
籠城戦2日目で早くも防衛は限界に達しようとしている。
なぜなら余りにも守る兵士が少ないからだ。
街に入ったのが私の部隊だけでは……
せめてあと2,000……いや、小隊が10個程度でもいい。手元にあればまだまだ抵抗できるのに……
希望的見方だが早ければ明日の午後にも王都にベルガーナと帝国からの援軍が到着するはずだ。
王都に迫る魔物を3ヵ国の軍隊で早めに蹴散らせればその勢いのままレグの街の救援に……
未練というものなのかもしれない。
どの道この街の防壁が破られるのはもう時間の問題なのだ。
それにベルガーナ王国やグラバラス帝国がレグの街を救う理由もその為に素早く戦を仕掛ける必然性も見当たらない。
何より父上が止めるだろう。
自分の娘に死ねと命じる非情さを持つあの王ならば。
「南側防壁、敵の攻勢が増し援軍を大至急にと!!」
「残りの予備隊は?」
「先ほどの第5小隊が最後でした……」
「ならばあなた達が行きなさい」
「し、しかし我らが赴けば姫の護衛が……」
「今は街の防壁を守ることが私の命を守ることだと心得なさい」
「わかりました。行ってまいります」
「頼みましたよ」
今までは手持ちの予備兵力を細々と送って耐えてきたものの遂にそれも尽きてしまった。次の援軍要請には応じることができない。午後には街の内部に魔物が流れ込んでくるだろう。
防壁が突破された際には街の各所に構築されている防衛陣地で魔物を防いで時間を稼ぎつつ最終的にはこの指揮所に立て籠もる手順になっている。だがそんなことをしたところで大した時間は稼げないのは明らかだ。
もはや明日を迎えるどころか今宵の月すら見ることもできずに屍を晒すのが私レイシス・ル・アルタナの
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